アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
”9” ネコに、再び見(まみ)える王子 ‐1
-
side 爽
夢に魘されて、目覚める。最悪過ぎて、朝一、滅入る。
薬で、無理やり眠ったせいだろうって、思う、原因の大部分は。
睡眠薬使わなきゃ寝れないなんて良くないと、百哉にも止められてるが
睡眠不足で、今日の難題を乗り越えられる自信なんかない。
なんの夢だったか、目覚めてホッとして内容は失念した。
脂汗を大量にかいてることが気持ち悪く、額を拭うべく手をやって、
ああ、この違和感も、悪夢の原因の一つかなって、溜息が出た。
まだ、出来るようになって、半年なのに。
この左指に、ずっと着けて行こうと誓ったものがない。
その代わりに、首にチェーンをつけて、それを通した。
ネックレスも普段しないってわけじゃないが、ずっと着けてるって習慣はなく、
首回りに何かあるってのは、けっこう、し慣れないとストレスなのかもしれない。
考えた設定の、親友で、兄弟って、カテゴリーに
ペアリングは、どう考えてもおかしいから、会う前には外すようにって
親父にも圭介にも念を押されてる。
だから、昨晩、静さんを祀ったコーナーテーブルの前で、お詫びを言って外した。
すっごい、切なくって。本当は、ケースに入れてしまうつもりだったけど、ダメで。
そう言えば、健が、シルバーリングをくれた時、チェーンもくれたんだって思い出して
しまい込んでたそれを引っ張り出して来た。
ファッションで、こうしてる奴も結構いる。
長めのチェーンでよほど開襟の物を着ない限り、下ってる指輪は見えないだろう。
昨日、一日、健に貼り付いてた。
うーん、貼り付いたは、語弊があるか。監視してたがいいかな。
午前中、画面越しに見詰め合って以来、どうしても離れ難くなってしまって。
目覚めるまで、ずっと見ていたくなって。
久しぶりに、朝から、ずっと見てて。病室の健の一日は、こんな風なんだって思った。
鷲尾医師からの言いつけで、
目覚めたら、二度寝をしないうちに、ベッドを起こして置くこと。これを数回繰り返し。
うち、トイレには数回行ったから、その都度、部屋の中を数分、歩く。
長い時間、起きていられそうになると、窓辺に置かれてる丸椅子に座って、外を眺める。
これは、人を認知して、少しずつ、下界と慣れさせる訓練の一環なのだそうだ。
百哉が、度々、姿を現して、健を気遣い、健は笑顔と首の動きで意思を伝える。
ん~タブレットは便利だし、大きくて見やすいが、健が持って歩くには不便だな。
長い言葉を話したい時に、一々タブレットを持って来てって言い難いみたいだいし、
百哉も、傷の手当てや、食事の世話以外は、
他の仕事の合間とかに、顔を出してるに過ぎないから、忙しそうだし気が引けるんだろう。
「昼間、けっこう、起きてられる時間増えたね、お昼も食べてみようか?」
百哉が、他の部屋の配膳の帰り、寄って、窓辺に座る健に言う。
俺は、売店で買って来た、不味いサンドイッチとか食いながらだったから
必要なら差し入れるぞって、つい、身を乗り出した。
「うふふふ。少しだけ、お腹は空いてる?なら、これはどうかな?」
じいっと見つめる健に、百哉は菓子パンを渡す。多分、奴の昼飯の一部だろう。
首を横に少し激しめに振る。遠慮してる時にする仕草だな。
「遠慮しなくて・・・え、重い?あ~クリームパンだもんね、ちょっと胃もたれしちゃうか。
も、ちょっと、軽いのがいいね、ん~、買って来て貰うから、何が食べたい?」
ふるふる、ふるふる。
こらこら、そんなに振り続けて、眩暈しちゃうってば、健。
「あ!い~こと考えた!一緒に、売店までお買い物に行こうよ。
食べたいもの、買おう、ちゃんと、お父さんから、お小遣い貰ってあるんだから。
疲れちゃうとあれだから、車椅子持って来ようか?いい?自分で歩く?」
百哉は、健を立たせて、病室から出してみようとしてる。
これも、そろそろ、様子をみてやらせてみようって、鷲尾医師の方針だ。
さすがに、退屈もしてきてる健は、不安気ながらも、行ってみるつもりになった。
百哉に手を引かれて、ゆっくり歩いて出て行く。
何を買って戻るか、ちょっと楽しみに待ってたら、
帰りは、車椅子に座って、ぐったりして戻った。ん?意識ないか?もしかして。
俺は、急いで、モニター室を出て、健の部屋に向かう。
「入ってもいいか?」と問えば、百哉は「大丈夫」だと答えた。
「健くん、運悪く、行く途中、うちのパート看護士くんに会っちゃってさ。
ちょっと親しげに話しかけられただけで、震え出しちゃって、過呼吸起こして。
うん、応急処置はとってるし、多分、寝てれば、落ち着いてくるでしょう」
パート看護士は、元ラガーマンの厳つい体付きの男。
健が最も、苦手とする体格の持ち主だ。健を刺した西郷も、こんな感じだった。
「夕方、起きてくれるかな・・・ん~厳しくなったね」
俺だけで会わせるのは、やっぱり止めようってことになって
阿川と小田を、夕方、来てくれるように呼んである。
「でも、わかんないよね、前と発作は、元が違うんだから、
現れ方変わってるかもしれないでしょう?諦めないで、夕方まで待ってみよう」
すっかり意識がないから、百哉に頼んで、俺がベッドまで運ばせてもらって、横にならせた。
「困った眠り姫だね、健くん」
「困ってない。健の面倒見るのは、嬉しいんだ」
これは、紛れもない、俺の本心。
失わずに済んだんだ、大切に守っていく、ちゃんと静さんとの誓い通りに。
あ、そうだ。
「な、モモ。ちょっと買物に、出てくる。もし、可能なら、なるべく目を離さないでやっててくれる?
あ、もちろん、買い物済んだら、すぐに戻るから、そしたら、モニタールームで、俺が見てれる。
その間だけでいいから、頼めるか?」
百哉は、快諾してくれた。
元々、一緒に飯を買って、ゆっくり一緒に個室で食ってくれるつもりだったんだって。
健の好きなゼリーを買って来てやろうって思った。
思い出・・・あるかもしれないが、きっと食い物は、範疇外だと思いたい。
だって、そうそう、食べ物の好みは変わんないと思うぞ?普通。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
73 / 337