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”9” ネコに、再び見(まみ)える王子 ‐3
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周囲は、ほぼ、外来が終わろうとしている時間。
まばらな患者も、来訪者も、どんどん減り行く人口密度。
「佐藤くんを外して、他の医師を選定中だと言うのに、何を勝手にしようとしているんです?」
ジャケットの、白衣ではない鷲尾医師は、親父と飲んだ宴席で、初めて紹介された彼以来だ。
故に、俺達は、一般外来患者の様に、見えなくもない。
「俺は、今日、これから健に会います。直接」
「だから、それは、まだ、危険だって!」
「いいんです。俺は。そんなの、信じませんから」
多分、そうだろうって、そんな蓋然性の問題で、俺を遠ざけた所で、
健にはどうだかわからないけれど、俺には健が必要なんだ。
俺の我儘だって、思って、我慢してきたけど、
生きてる健を、いつまでも指を咥えて見ているだけなんて、真っ平だ。
「必然じゃなきゃ、俺は、賭けたいんです。俺を受け入れてくれるって方へ」
「君は、責任が取れるのか、彼を悉く破壊してしまうかもしれないんだぞ」
「それは、俺を、会った瞬間に思い出すって、鷲尾先生は思ってるからですよね。
俺、それ、考えてみれば、大歓迎だったなって、気が付いちゃいました」
うっ、と、鷲尾医師が詰まる。思い出した先を、俺もこの人も恐れ過ぎてたんだ。
「俺ね、昨日も、しみじみ思っちゃったんです。百哉から聞いてますよね?
売店に行って、途中で、苦手なタイプのやつが怖くて、発作を起こしたって。
俺の大事なお姫様を、こうしてここに閉じ込めて、少しずつ外に慣らしていくなんて
いつまでたっても、終わんないですよね、そんな方法。
で、ちょっと落ち着いたら、無くした部分の話をしてくんですよね?
で、また、状態が戻って。そして、またやり直すんでしょう?
・・・・・・俺も、健も、老人になっちゃいます、そんなことしてたら」
「き、君は、ショック療法の方がいいと言うのかい?そんなの彼に合わない。
彼は心が弱いんだよ、だから・・・・・・」
んあ?
このオッサン、なに抜かしてやがんの?
「お言葉ですが、俺の奥さんは、強いですよ。気持ち、すんげぇ~強い。
あの静さんの、孫なんですから、強いんです。弱いように見えて」
鷲尾医師が、目を剥く。
そりゃあ、確かに弱そうに見えるし、事件の度に記憶を失っちゃったりしたし。
信じられない気持ち、わかんなくないけどね。
「従順そうなのに、俺の、けっこう、思い通りになっちゃわないところあるんです。
結局、健の思い通りに、大概なるんです。わかります?意外にちゃっかりしてんです」
6年前まで戻った健の記憶時間が、もしかして更に一気に巻き戻って、
逃避の為、もっと幼くなってしまったりしても・・・・・・
健は、健。
それ以外には、ならないって、思ったし。
だったら、どんなだって、俺が好きな健だって、わかったし。
「責任取るとかどうとか、そんなの問題じゃなくて、どんな健でも好きなら全然OKってことでしょ」
健を壊しちゃうかもしれない。それはやっぱり怖いよ、俺だって。
でも、さ。俺達、将来を誓い合ったんだよ。健がそれを覚えてないことだって
俺が覚えている以上、有効な約束なんだって、気が付いた。
どんなだって、支えるし、凭れさせる。
だって、俺、愛してんだもん、健のこと。
「会います、会いますよ、俺。結婚してることは伏せるけど、大切な人だって言います」
鷲尾医師は、俺の顔をじーっと見つめて、派手な溜息をつく。
「バカにつける薬はない。君は、親に似ているんだな、実の親にも、心の親にも」
くっと、首を返して、歩き出す。
「来なさい。今後の留意点と、退院後のケアの件、話しておくから」
鷲尾医師は、通りしな外来担当の看護士に声をかけ、開いた、診察室を一つ借り受けた。
俺と、密な話をする為だろう。
俺は、元気よく返事をして、鷲尾医師の背中を追った。
◇◇◇
こうなったら、危険なサイン。
ああなったら、良い兆候。
・・・・・・精神医学に絶対はない。
鷲尾医師の齎した留意点を聞いて、俺の想った感想。
それぞれ、それぞれ、皆が違う、心に宇宙を持っている。
その宇宙の絶対権力者は、あくまで、想像主たる、本人の意思。
結果、「我武者羅に、一途に、唯々、健を思い遣る」。
俺の、これからの方針を、そう決める。
まずは、少しでも、健が、安心して、側に居れる存在にならないとな。
ん?これってさ
初恋に気づいた後の、俺達みたいだよね、ね、健。
すごくない?出会って、6年目に、また、初恋の関係からリスタートしちゃうんだ。
徒労って思ったら、負けでしょ。楽しむからね、俺。
きゃいきゃい、女子の楽しそうな声を聴きながら、廊下で深呼吸して考えてた。
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