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”10” ネコは王子を観察す ‐1
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side タケル
上目使いで、にっこり
僕の周りの男の人は、僕の視線と、この仕草に弱い
老いも若きも、変わらない
それに気づいたのは、いつだったろうか
気付いてからというもの、効果的に使う癖がついていた
ただ、お祖母ちゃんには、絶対に通じない
「そんな可愛い子ぶっても、負けませんよ」って、よく言われた
初めは通じていたのに、途中からは、芙柚には通じなくて
なんでか、僕がする、素の表情を見せずに、この顔をすると
「なにかあったか?」とか「どうした、辛いのか?」とか、勝手に見抜いて、ムカついた
会って、話すようになって、まだ1週間に満たない、僕のお兄さんに当たる人は
それを会った翌日には、見抜くようになってて、その度に、少し悲しげに、眉を顰める
何も、コメントしないけど、悲しんでるようにしか見えないんだ
・・・・・・完璧に出来てると思っていたのに、自信を失う
でも、彼以外の、男性も女性も、僕の「にっこり」を喜んでくれてるって思うから
し続けてくしかないって、しているけれど
なんだか、調子が狂う
会った初日の日
僕に会って、やたらと言葉を失ってばかりいて
そして、その瞳に、僕と過ごしてたあの頃の芙柚にもあった陰りを見て
僕が書いた、『苦しいなら、一緒に暮らせない』ってメモ
あれは、どうして、あんなに素直に書いてしまったのか
思い起こしても、あの時の自分がよくわからない
あの人に会って、すぐに、強く確かに感じた
心に鳴り響く、緊急サイレンみたいな、ピンチ感を
どうしていいかわからなくて、手が勝手に動いたし
苦しそうなあの顔を止めて欲しいって、思えば思うほど
この人と、二人で暮らすなんて、無理だって、思いが突き上げた
一人で、彼の買って来てくれた、色鉛筆で、手慰みに描く落書き
今日は、梅雨前の爽やかな天気で、遠くに見える川面のキラキラが綺麗
出せるかな、あのキラキラ感が、夏に近づく木々の瑞々しさも、描けるかな?
僕は、昔から、人物とか動物とか描くのは苦手、だから風景画か静物を描くのが好き
描いたことがあるのは、小学校の中学年の頃の、母の日のプレゼントに
お祖母ちゃんへの感謝の曲の楽譜を、ただ、渡すのは味気ないんじゃないかなって
添えて渡す為に、気まぐれに描いた絵が、きっと最後だったと、思う
あの絵、すごく大事にお祖母ちゃんは取っててくれたけれど、
もういないお祖母ちゃんの荷物のどこかに、まだ、しまってあるのかな
ふと、あの彼は、お祖母ちゃんの遺品を片付けたんだろうかって、気になった
僕の、あの絵、見つけたかしら、見つかってて欲しくないような、欲しいような
なんだか、変な気分がする
凝り性というか、もしかしたら、結構、お金持ちなのか
彼の買って来た色鉛筆は、外国製の120色なんて、すごいのを買って来ちゃって
慌てて、未開封のまま、持って帰ってもらって、国産品の24色でって返品交換でお願いして
お願いしたのに、何でか、国産品の36色を買い直して来てくれた
ちゃんと、120色は、返品したのか不安になって聞いたら、してなくて
百哉さんに、タブレットを持って来て貰って、値段を調べたら5万円くらいで
必ず、返品に行くようにって、ちょっと怒って、メモを書いたら、苦笑してた
彼と過ごしていた僕は、あまり、物を欲しがらなかったらしくて
何かを、買ってくれって頼まれると、嬉しくなって、やり過ぎて
前も、いっつも叱られてたって、切なそうに微笑む
理由も、わからないのに
彼に悲しそうにされると、
僕の心も、きゅっと、痛いなって、思ってしまうから
『前の、僕と、あなたは、どんな関係だったんですか?』
どうしても、その一言と
左手の薬指に光ってた、指輪の送り主を、訊くことが出来ない
来る人、来る人、必ず、こっそり、実は、僕、その人の指を見ているんだけど
今のところ、誰の指にもそれはないんだ
だって、一番の親友だって、僕に会いに来た周りの皆が言うような関係なら
僕と、指輪を交換してる人を知っていると思うんだ
それとも、僕だけが持ってる・・・・・・のかな、もしかして
怖くて、外してみたことが無いけれど、これは二つの指輪が、
一見、一つに見えるように、デザインされている、プラチナ製の指輪達
この存在に気が付いたとき、
ああ、僕は、一人じゃなかったって、嬉しくなった
お祖母ちゃん以外に、指輪を贈り合う誰かが、僕にはいたんだって
結婚指輪じゃないのなら、どうして、この二つは、僕の指で光っているんだろう
この二つの質問が、まだ、彼に訊けない
これを、自然に訊くには、僕は、彼を知らな過ぎるんだ
傷つけてしまうんじゃないかって、どうしてだか、そんな予感が怖くて
また、夕方、彼は、スープを持って来てくれる
今夜は、何かな?
昨日の、けんちん汁、美味しくて、一口飲んで、思わずスケッチブックに描いてしまった
見せたら、笑われそうだけど、いつもごちそうさまの代わりに、あげようって思うんだ
料理、上手ですね、って、書いて見せたら、また、あの寂しそうな笑みで
「健くんの方が、上手なんだ。早く、食べさせてくれると嬉しいんだけどね」
そんな風に言うから、申し訳なさと、胸苦しさで、彼を見れなくなった、昨夜
お詫びも兼ねて、僕の落書き、もらってもらおう
つまんないものだけど、ちょっと面白いかなって
スープジャーの外見だけ、何度か描いたら、中身も描いてって言ってたもんね
夢中になって描いちゃって、中身が冷めちゃったのは、内緒にして
・・・・・・冷めても、美味しかったんだけどね
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