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”11” 別居を決意する王子 ‐5
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駐車場に回した車に乗り込む際、健に聞こえないように、こっそり俺の耳元で囁いた。
「後で、芙柚のところに送ってくれれば、そこからは勝手に帰るよ。
強制的に押しかけないと会ってくれないんだもん、お願い!」
ってことは、目当ては半分、芙柚ってことだ。
ピアノ搬送手配もしてくれたことだし、羽瑠に会っても、健が落ち着いているみたいだから
仕方なく、同乗を許した。
・・・・・・内心、二人きりの車内よりも、空気が重くならないだろうと、歓迎してたりする。
「ボクね、今、圭介くんとお付き合いしてるんだよ。ちゃんと恋人は一人きり」
「す、すごくないよ~。これが普通だったんだって、ちゃんとわかりました!
健くんは、ボクを久しぶりに見てどう思った?え?も~、お世辞はいいよ!」
タブレットに打たれる文字を見て、話してるんだろうけど
羽瑠が、やたら無邪気に健とニコニコ話してて、違和感がある。
二人とも、どこかクールビューティー系なので、中学生の頃の健と駆け出しモデルだった頃の羽瑠に
戻ってする会話は、こんな感じだったんだろうなって、想像した。
健に、あの憎き西郷達が中学の時にしたことが、起きなかったら。
羽瑠は、健の、綺麗な超売れっ子モデルのお兄ちゃんになっていたわけで。
健は・・・・・・どんな今を生きていることになってたんだろうか。
ん??
今や、俳優もしている羽瑠の顔に見慣れていたけれど・・・コイツって30過ぎてるよな?
身を乗り出して、健と楽しそうに話している羽瑠をしげしげとルームミラーで見た。
・・・・・・ま、金もたっぷりかけているんだろうけど、デビューでメディア露出した頃から
あんまり変わらないって、ある意味、すごくないか、コイツ。
面食いの圭介も、そりゃあメロメロになるよな、うん。エッチも凄いらしいから。
病院を出る時には止んでいた雨が、また降り出して強まる前に、健は諸々の疲れで眠ってしまった。
車のシートを倒してやって、後部座席のブランケットを羽瑠に取ってもらった。
「寝ちゃったね、健くん。可愛いなあ、寝顔。 ねぇ、爽くん、言わないの?」
「何をですか?」
広げてかけてくれながら、羽瑠が呟く。
「結婚してるってこと。健くんね、さっきボクの指を食い入るように見てたよ。
これがただのファッションリングだって気が付いて、ちょっと溜息ついてた。
退院にかけつけてくれた男の子達も、記憶なくなってから初めて会ったでしょ?
あの子達のも、見てた。気にしてるよ、わかってるんでしょう?」
「起きたら困るから、止めて下さい。・・・・・・まだ、時期尚早ですよ」
睡眠の邪魔にならないようなスローなジャズの曲を低くかけて
俺は、言い置いて、さり気なく、羽瑠の話を妨害する。
「ボクなら、言って欲しいな。もしも、記憶を無くして、ケーくんのことを忘れちゃったら
毎日、ケーくんとどう過ごして、どんなに愛し合ってたか、教えて欲しいな」
「あなたと健は違いますよ。それに、あなたは記憶喪失になってないじゃないですか」
キツく言うつもりはなかったのだが、つい、力が入ってしまって。
それからずっと、高速を降りるまで、車内は、もの悲しい男性シンガーの歌声しかなかった。
◇◇◇
家の別荘は、ちょっと厄介な物件だ。
なにがって、駐車場が、建物から200m以上距離があるってことだ。
雨が止んでいて欲しいと願っていたが、残念ながら、ザーザー降り。
荷物も結構あるのに、どうしたものか。
見晴らし重視で、若かった親父が建てたもので、健康な自分と妻子が休暇で使用する予定しかしてないから
体調が悪い誰かが、ここに住むとか、そんなことは全く考えていないんだ。
昨年の夏も、苦労した少し泥濘む傾斜のある坂の小道を上がらないといけない。
野坂が、砂利を引いててくれたらしいから、歩きやすくはなってると思うが。
健は雨垂れの音が心地良かったからか、車内で眠りについてからと言うもの、全く目覚めず。
車中で小康状態になるまで様子を伺う現在も、熟睡モードだ。
「ボク、傘、差しかけてあげるから、行ってみようか?」
「私も、差しかけますよ、二人で差せば、健さまを濡らさないで運べましょう。
爽様は、健さまを背負ってあげて下さい。その方が面積小さくて済みますよ」
迎えに出て来た野坂までもが、俺の車の後部座席に座ってる。
恨めしい位の、本降りだ。
「バックで無理やり途中まで上がっちゃダメかな」
「お車、雑木にぶつかって、傷だらけになるでしょうけどなさいますか?」
・・・・・・それは、困る。
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