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”11” 別居を決意する王子 ‐8
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金曜から3日間、健と同じ部屋の、二つ並んだベッドの片方で眠り。
月曜の早朝、健気に起きて朝ご飯に途中で食べてって弁当を渡され見送られ。
こんなに気遣ってもらってても、前の健じゃないことが、寂しく思う、俺を恥じて。
一旦、戻って、シャワーして、ちょっと早いかとソファーに身を横たえた記憶の後。
今朝は1限から、解剖実習があったりと目白押しなカリキュラムを知っていながらも
起きれず、しっかり寝過ごした俺。
金曜はさすがに、一日、退院だ、雨天の中、那須まで長距離運転だと、バタバタして
疲労もピークだったから、夜、ぐちぐち悩んでるうちに眠れたけれど。
他の夜は一睡も出来なくて、ごろごろ過ごした日中、時々、リビングのソファで転寝する程度。
3限にギリギリ間にあっても、そこで座学が続いて。
昼休みになって、悪友どもにこんな風にからかわれて目覚める。
「夏休みまで、ずっとこのペースなんでしょう?ね。大丈夫なの?」
阿川が呆れた口調で俺に言う。
俺は伸びをしながら、立って、荷物を手荒にカバンに詰めて、奴らの背を追う。
週末はずっと愚図ついた天気だったのが、今日は梅雨の晴れ間で、清々しい。
健がいれば避けていた人だらけな、学生協食堂の片隅に、
井田が天使の笑顔で悪魔の所業をし、他の生徒から分捕った空席に俺達は我が物顔で座る。
「ほれ。A定でいいだろ。井田はこっちな」
「わーい、ナポリターン。ウソんこソーセージつき~」
横山がトレーを俺の前に置き、そこから、単品の皿を取って井田に渡す。
相変わらず、生粋のお坊ちゃんはジャンクフードが大好きだ。タコさんウィンナーに、ご機嫌だし。
俺は財布から、A定の分の金を出し、横山に渡す。
「細かが無いや。釣り、ちょっと待ってろ」
「あ、いい。退院の時、健に色々買ってくれてありがと。少ないけど取ってて」
バイトだけで懐が汲々の生活の苦学生の癖に、実に細々と、暇つぶしになりそうなのを、な。
退院の時に、男は怖がるから、遠巻きになるかもって言ったんだが、
もう、会えなくなるかもって井田に大泣きされ、横山が責任持つからって、連れて来てたんだ。
幸い、健の面会が大丈夫な側に、二人は判定されたみたいで、少し、話もさせてやれた。
並んで、いつまでも子供っぽい井田の面倒をお父さんみたいに見ながら食事する二人を
なんともなしに、ぼーっと眺めてしまう。
「羨ましいだろうけど、我慢しなさいよ。本当に辛いのは・・・・・・」
「わかってるわよ、桔乃。言いなさんな、そんなの。ちょっ、これB定の揚げ出しとトレードしない?」
俺のプレートの金平牛蒡を指差して、要らん小言を言おうとした小田を宥めた阿川が
まだいいとも言っていないのに、揚げ出し豆腐をトレーに乗せてくる。
食欲無いから、勝手に持ってって食っても構わないんだけど。
この昼飯を食わなきゃ、コイツ等が煩いからなぁ。
最近、箸が重たく感じることが増えたなぁ、今は違うけど、殆ど一人飯ばっかりだから。
昨日は、あの惨劇の日以来、健が作ってくれた昼食と夕飯を一緒に食った。
美味くて、ちょっと泣けた。あの味に比べちゃうからなんだろうな、ここのは旨くない。
『お口に合いますか?僕、下手くそになってますけど』、なんて、謙遜して入力して見せてくれたタブレット。
同じ味だと答えると、照れ笑いしてた。
今頃、ちゃんと、ご飯食べてるかな、健。
つーか、ちゃんと起きてるんだろうな?後で、野坂に聞かないと。
毎朝、定時に、起きなくても起こしに行けって、言って来たんだけど、
言いつけ守ってるだろうか。アイツも存外、健に甘いからな、起こすのが可哀想でとか言い出しかねん。
「心ここにあらずだな、仕方ないけど。でも、どうするんだ、けっこう出席日数ヤバいぞ」
「後、一つも落とせないくらいに追い詰められてるよね~。昨年度、優と良しかなかった中舟生くんが」
「今日も実習、落としたもんね。まあ、これからは、首に縄着けてでも受けさせるって、健くんに誓ったけどね、私達」
「え?い、いつだよ?」
「心の中でよ。心配性。言うわけないでしょう、アンタの学業がヤバいなんて」
いつも6人で、ぎゃあぎゃあ言って食ってた昼飯。
月曜は、とにかく混む学生協や学内のレストランは避けて、レクリエーションルームの一角をせしめて。
健と俺は、いっつも弁当で、一緒の物を食ってて、冷やかされてる。
大概、話してるのは俺達5人で、健は聞き役が多いけど、その優しい笑顔が嬉しくて、俺達は饒舌になった。
「けっこう、こっそりデータ、コピーしといたよ、タブレットの」
「ノートも貸す。井田よりかは、読める筈だ。これでも、気を使って書いた」
「授業内容を教えるのはなんとかフォロー出来るけど、さすがにテストは無理だから、
今日から、きりきり頑張んなさいよ、もう、目の前よ」
小田を除く、3人の心配で滲んでる笑っていない目でする、協力の申し出の笑み。
じーっと、俺を穴が開くほど、睨み上げ、小田は言う。
「私、やっぱり、休学すべきだって思う。那須に健くん一人置いて、何かあったらどうするの」
こいつは、ずっと、今回のことを反対してた。
確かコイツの家は両親とも官僚だったな。多分、母親が作ってる手製弁当を大概食ってる。
正論を嫌なくらい吐くけど、結局は甘えたなんだよな。
「健くん、一人じゃ危ないわよ。野坂さんだっけ?あの人だって一日中、見ててくれないんでしょう?」
「桔乃。健くんが、一人で大丈夫って言ったのよ。却って気にするわよ。それにあんたが口出しすることじゃないでしょって、私、言ってきかせたでしょ、いい加減にしなさい」
「だって!自分の事、ちゃんと出来ないかも知れないのに!」
「桔乃、あんた、ほんとに、こーいう時、ロバみたいにしつこい」
幼稚舎からの付き合いな二人は実に、些細なことでも本気で揉める。
春からずっと、その口喧嘩の原因は健のことだ。
ありがたいけど・・・時として、ウザい。
延々、昼休憩中、続くと諦めて、気を遠くにやろうとしてた。
「健くん、明日、お誕生日なのにっ!」
小田の半分泣いてる尖った声に、はっと意識が引き戻される。
退院する、その日まではどうしようか考えていたのに、すっかり頭から消えてた。
明日、6月19日。健の21度目の誕生日だ。
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