アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
”15” 考える王子-3
-
俺が一人で照れてるのを、健は不思議そうに眺めて、下ろした紙幣を財布にしまう時、驚いてる。
あ~、財布がブランドもんだからか。バーバリーの黒皮の長財布。
健の18歳の誕生日に贈った物のひとつ。一見、バーバリーらしくないのを敢えて選んだヤツ。
あの頃の健は、ブランドとかすっごく疎くて。後で調べたらしくて、こんな高いの貰えないって騒がれたね。
お揃いのデザインで定期入れとキーケースもで。そっちは家のカードキーを定期入れの方に
キーケースには佐倉家の鍵と佐倉家にある電動自転車の鍵がついてるから
それは俺の手元にあるんだ。持ってても、今の健は使わないだろうし。
昨晩、気が付かなかったんだ。まあ、別荘のリビングは間接照明でちょっと暗いからな。
キャッシュカードや学生証をしまうより、大量のプレゼントに目を白黒してたから。
貰ったものと、くれた人の自分との相関図を、考えてプチパニックになってて、ちょっと可愛いかった。
人出はそこそこのモールを歩くのに迷子は怖いみたいで、俺のジャケットの裾を掴む仕草が、また可愛い。
借りてきた猫って言葉が頭に浮かんで、笑ってしまった。
中学生脳の健って、完璧主義で、意外にプライドが高い。で、恥ずかしいことは絶対したくないんだ。
さっき、頑張って俺に話そうとして、発声と話し方が妙でちょっと注目を浴びてしまい黙り込んでる。
けっこう、蒸して来たし、ジャケット着てると暑いんだが、脱いだら健が掴むところなくなるし
ふう、我慢して着てるしかないかな。
「まずは、何から買いましょうか?」
これって指差す、几帳面な字が並ぶメモ用紙。 お返し品リストを、昨夜、一緒に作成したんだ。
貰ってすぐお返しなんて、却って気にするから、相手の誕生日に返せばって勧めたんだけど
いつ会えるかわからないし、ちゃんと少しずつでもお返ししなきゃ、ダメ人間って思われるって譲らなかった。
ん~と、はいはい。横山と井田になにか着るモノね。
あ、いいこと思いついたし、ついでに俺も買えるじゃん。
「パンツなんて如何かな?靴下っても考えたけど、面白いでしょ」
大体の予算も脇に書いてあるし、その金額だと、インナー類の値段設定かなって。
想定外だったみたいな顔してて。また、笑いが込み上げる。
「Tシャツ類は数あれば着るけど、好みけっこうあるから、それに目の前で着てられるの健は嫌がる派だったんだよな~、前は。嫌がるって言うか、困るって感じ?留華にポロシャツ贈って、着てくれてたのを「今日着て来なくてよかったのに」って言ってたよ?」
首を傾げて、しばらく考えて、こくん。で、小さい声で、「そーしゅる」って。
必死に声にしようとすると、ちょっと悪い滑舌が必ず可愛い感じに噛むんだよね。
「じゃあ、俺の好きな所で買っちゃおう!行くよ~」
俺が進んで、健がつんのめる様に追って。
どうやら、中学生脳の健は、人混みが怖くないみたい。苦手ではあるようでも。
俺の側に居れば、平素と変わりなく、過ごしてるし。
何より、前の健だったら考えられない一人歩きも出来る。
トイレに立つときなんか、入口で待ち合わなきゃいけなかったのが
「近くのショップを見て待ってる」って言うんだ。すごいかも。
どこそこに行くけど、どう?って言えば、ここを見てたいとか、外のベンチにいるとか。
お昼だって、なるべく外れのプライベートスペースを確保できる場所で
俺が何かを買って来てあげるのを大人しく待ってるってのが常套な健が
「どこでもいいよ」って言って、それぞれ、食いたいものを買って空いたばかりのそこらの席に集合した。
けっこう驚いて、ぼーっとする俺を後目に、買い物リストを熱心にチェックしながら
バケットサンドをはむはむ食べてる。
中学生脳の健の方が、ぶっちゃけ、扱いが楽。かも。
『ここにない物が欲しいみたい』
「ん?プレゼントで?それとも、健個人で欲しいもの?」
『僕の物。と、佐倉さんは、本当にパンツでいいの?』
メモ用紙にさらさら書いて、俺と筆談する。一言以外は、人混みだと嫌なんだって。
俺にお返しなんていいのにね。
「俺ね、今回、プレゼントちゃんと用意してないようなもんなの。あれも、返品し損ねただけだし。
だから、丁度ね、別荘の着替え用インナーが心許なかったから、買おうって思ってたし。
しかも、靴下もTシャツも買ってくれてありがとう。あんなに大丈夫?」
『貰った額の30%以下なのに?』
「プレゼントは金額じゃないの。気持ちでしょ。相手が欲しいもの想像して、似合うかなって考えて。
喜んでくれるといいなって願うもの、なんじゃない?俺はすっごく助かるもんだけど?」
俺の名前の後ろ、[ ] が、空欄。
留華もだ。何でかわかる? 金額が高いと思っているから、健が。
今回のお返しは30%前後にしたらって、アドバイスした。
気持ちばかりだけど、って手紙をつけて返すって、健が言ってたから。
その考えから行けば、俺と留華のくれたものは4~5万円相当で
1万円超えの物を見繕わなくちゃいけなくなるでしょう。意外とその額って半端。
ちょっと気の利いたものだと、そこまでしなかったり、
じゃあ、そこそこいいものをって思うと、金額が足りない。
また、超お坊ちゃんな留華がくれたのは、オーダーメイドと思しきメンズアクセサリー。
500円玉ぐらいの、でっかいラピスラズリの入ったシルバーチョーカー。
何を返せばいいのか、悩んでしまってるんだろう。
最近、この子って、確かに、友達いなかったんだって思う瞬間がある。
特に、こういう時。
前の健には、こういう無理やりにでも周囲に合わせなくちゃみたいな感性って持ってなかった。
なんだろう、普通でいたい、普通じゃなきゃダメ。
はみ出したらダメ、嫌われたらダメ。 みたいな。
必死で周囲に埋もれようとしてるって感じ。
個性 イコール 我儘、みたいに、思ってるように俺は感じた。
「留華は、無理やり選んだのなんかいらないと思うし、正直、アイツ、お返しいらないと思う。
欲しい物なんか、自分で好きに買えるんだから。手紙に書いてあったんじゃなかった?」
健は、思案深げに、宙を眺める。
健への留華のアクセサリーには、「お守りになればと思った」って趣旨の手紙が添えてあった。
確か、ラピスラズリってパワーストーンだったと思うんだ、厄除けの。
健にまだ、どう教えていいかわからないから、ぼんやりとしか伝えてないけど
西郷を連れて来たのは、留華だってこと。留華はその軽挙を未だに悔いてる。
俺や、多分、芙柚が悔いてるみたいに。自らを責めているんだと思う。
その思いと、これからの健の未来の災厄を払って欲しいって願いが籠ったもの。
なんとも、お坊ちゃまらしい気遣いなんだけど、俺はすごく気持ちがわかる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
112 / 337