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”21” 猫地図、鋭意作成中 ‐1
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side 爽
「ラーメンってさ、奥深いよね?」
「そんなことないですよ。所詮は、インスタントですからね」
カオルは、俺の言に呆れて突っ込み、その後、盛大に咳き込む。
「なんでよ、こんなに種類あるんだよ?味だけでなく具材や麺の違いまで!
って、大丈夫?やっぱり、帰って寝てよう?」
涙目になりつつ、平気ですって切れ切れに言って、咳してるし。
俺達は、地域一番の大型スーパーに買い出しに来てる。
東京みたいに何でも思い通りの欲しい品が揃ってる・・・までは言い難いけど
そこそこのものが、そこそこの価格で、ま、これでもいいかって、手に入り、
アウトレットまで、お洒落さ中心じゃないとこがいいかな。
カオルは、あの怒涛の週末の後で、体調を崩して、寝込んでた。
熱も高くて急な夏風邪だと思うんだけど、と、一応、地元の病院で診察してもらったら
肺炎を起こしかけていたりしちゃってた。
カオルの悪い所。
痩せ我慢の演技力が、半端ないってこと。
健なら、もう、寝込んでます、当然~ みたいな具合の悪さでも
ちゃんと家事をこなすし、自分のことは全部やるし。
上手いんだ、誤魔化し方も、また。
買物とジンギスカンの約束の月曜日、雨に降られて、延期にして。
足りないのはやっぱり野坂便に頼むことにして。
「お勉強の邪魔になりますから、僕が寝室にいて本読んでたりします。
佐倉さんはリビングで思う存分、なさってて下さい」なんて言ってさ。
自分は、内鍵かけて、飯の支度の時間まで寝込んでるのに、
涼しい顔して、「お腹すきましたか?」なんて何でもない笑顔で戻って来るんだぜ?
水曜日の朝、元の位置に戻したベッドのシーツ替えの手伝いを
あまりいい顔しなかったのに、無理やりやらせてもらった時、ふと、手が触れて
あれ?健の手なのに、熱くないか?って、怪しむまで、高熱出してるって気が付かなかった。
二日間も、騙し続けちゃうんだもんな、発見時の体温39度超えだよ?
まったく、自制心の塊かっての。
俺に、病気を発見され、ちょっとだけ、ご機嫌斜めなカオルは、
看病を申し訳なさそうに受けて、俺の作った粥だのなんだのを食べて、感動してた。
「なんでも出来る人なのに、どうして健を選んで下さったんですか?」
「あ~、それは間違い。俺は何にも家事が出来ない人だったの。
健にも勿論習ったし、習えない時はネットや本で調べたり、あ、あとこれ」
「スケッチブック?」
「静さんのお料理メモ。健に教えてないのもあるからって書き残してくれたんだよね」
「お祖母ちゃんが亡くなる時ですか?」
「ううん。俺達が同棲する前かな。きっと、あの頃、余命宣告を受けたんじゃないかなって思う。
静さんさ、俺達の為にいっぱい色んなもの準備してくれたんだ、1年の間に」
こういうとこ一緒だなって思うのが、何か食べたり飲んだりしてる最中に、違うものを渡すと、
箸だフォークだと使ってるから手は汚れてないのに、きれいにしてからじゃないと受け取らない。
ウェットティッシュ、本当にこまめに買ってくるなって思ってたし、
普通のティッシュの脇にはウェットもセットみたいな風景、家ではあるあるなんだよね。
で、きょろきょろ探して、見つけて拭いて、の後に、恭しく受け取って、嬉しそうに眺めてた。
で、今日は、そのレシピに載ってたものを作りたくて
食器から欲しくなり、ここに来たってわけだ。
やっと、熱も引いて、お出かけしたいって、カオルも言うからね。
「デザイン、もう少し気に入らないんだけど、これでどうですか?」
「ま、いいんじゃない?問題は中身なんだし。あ、でもさ、こっちの色の方が映えそう」
「え~。使い勝手悪そうです、その色。青って食欲を減退させる色なんですよ?」
意見も、めっちゃ理論的なんですね、カオルくんって。健は、「なんかそれ、嫌」って程度だったけど。
なんで、中学生脳なくせに、俺より切れの良い見解を言うかな。
ラーメン買ってくれないし。食ってみたかったのに、タンドリーラーメンとかいうやつ。
ね、これ、インド、インド味なの?って、興奮してたら、
香辛料入ってれば、インド風って考え方が、安直、って切り捨てましたからね、バッサリ。
「え~青いの好きじゃん、二人とも」
「健のなんでも青がいい発想は、ダメだと思ってましたから。
知ってます?中近東じゃ、青は暑い色なんです。緑や茶色が涼しい色」
「え?なんで、水のイメージで涼しくて良い色じゃん、俺を連想するって言ってくれてたし」
「・・・・・・ま、佐倉さんは、青色でしょうね、健にとっては、正に。深い紺に近い青でしょ」
そ、それって、健の好きな色 イコール 俺! って意味??
むふふ~って、密かに喜んでる間に、俺の勧めた青を置いてモカ色のを二つ持ってレジに行ってしまった。
けっこう、カオルは皆まで語ってくれない所がある。
これも、欠点、なのかな・・・・・・俺は、寂しがりで何でも甘えてくれる人が好きだしね。
高熱で寝込んでるカオルには言い難く、早く良くなってって言い続けた手前。
やっと快癒して、どことなく嬉しそうに買物して、嫌味炸裂な彼に、
そろそろ、どこかでめそめそ泣いてるかもな健を探しに行きませんかとは言い辛い。
また、色々、健の心について教えて欲しいなって思ってるんだけど、
自然に自然に、この良好な関係性を、大切にしなくちゃなと、急く気持ちを戒めてる。
「後は、どうします?季節のものって、なんでしょうね?」
「うーん、夏蜜柑とかかな。あ、もう、遅いか。なんだろう」
「オーソドックスに売ってる果物で良いんじゃないでしょうか。必ず、これをって書いてなかったですし」
「あ、待って、一応、検索かけてみる・・・・・・う~ん、色々、みんな入れてんなぁ~」
「ザックリ思うに、緩いプリンみたいなものなんじゃないかって。なら、マストはなくて大概のがベターなんじゃないですか?」
そのままの流れで、また、食料品売り場に戻る。
「あ、しまった、秤買って来なきゃいけなかったんだ。ごめんなさい、戻って下さい」
「え?要るの?適当にでいいんじゃないの?」
「お菓子作りって、何より、計量が大事なんです。割合で違うものになるんですよ。
僕が思うに、だから、健は作らなかったんじゃないでしょうか。
けっこう、めんどくさがりなんです、健。お家でまでそれ使って作るの嫌だったのかも」
そう、今日は、俺のリクエストと、カオルが見たことはあっても食べたことが無いと言う
(あ、俺も初体験スイーツ?ってグラタンって書いてあったけどいいのか?)
フルーツグラタンなるものを作りたくて、ここに来たんだ。
「別荘に耐熱深皿は大皿しかないんです。あんまり美味しくないと大変だし、小さいのも欲しい」
「耐熱皿か~、こないだは来たの夏だったし、気になんなかったな、二人とも」
「食器、あるもので間に合わせる主義なんですけど、ここのオーブン本格的だから
なんか、間に合わせでやってトラブル起こしたら、嫌です」
ビルトインのオーブンなんて、使ったことなくてって恐縮するカオル。
マンションのはそれなんだよって言ったら、ビックリしてた。
けっこう、キッチン回り、俺が子供の頃に来て、お手伝いさんが通いで使って食わせてくれてたままので
設備も古かったから、健、えっと、ま、カオルだったんだけど、が、長く住むことになるに当たって
野坂に指示して、改装してくれてたんだ、親父が。ホント、ムカつくくらい、気が回る男だよね、アイツ。
そしたらさ、カオルまで言うし。
「佐倉さん、お父さん似なんですね」って。
小さなお菓子作り用の秤を買って、小腹空いたねってフードポート行って。
それぞれ食べたい物を買って、先にカオルが戻って、席を探しててくれて。
飲み物、買い忘れたって言う俺に、あっちに無料の給茶器あったって、取りに行って戻ってくれる。
俺の食ってるのをじーっと見てて、自分も食べたいって、アイスを買って来たり。
カオルは、こういう、当たり前のことを一人で出来る。
「カオル君ってさ、もしかして、公共交通機関、独りで大丈夫でしょ?」
「ん~、退院して、試して無いからどうでしょう。あ、健が出て来たときのは別ですけど。
やってみたら意外に平気で出来るかもしれません。健はダメだったんですよね?」
「うん、ガタガタ震えて青くなるくらいだね。一人で大勢いる中で何かするのなんか論外」
「多分、僕が、出て来なきゃいけなくなった理由も、その辺りにあるんだと思うんです」
プラスティックのスプーンを使って、苺のチーズケーキ風味なんて
夏には重そうなアイスに舌鼓を打って、カオルはそれをきっちり折りたたんだペーパークロスに載せる。
「えっと、また、いきなり、その、詳しいの話し出しちゃうつもり?」
「あ、ですね。ここじゃ、佐倉さん、メモとか取れませんよね。
じゃあ、食べちゃって、買物済ませて帰りましょうか?」
「うん、そうだね。ねね、フルーツさ、苺はどうよ?」
「え~、反対。高いし時期外れだから酸っぱいですよ、きっと。
僕、ちょっと考えたんですけど、缶詰の桃か洋梨はどうですか?」
「なんでよ~フレッシュフルーツ入れたいよ~。真冬じゃないんだしさ~。
あ、桃、旬だよね?生の桃。いいじゃん、入れようよ」
わーわー話して、安っぽいジャンクフードで腹を満たして。
何度目って感じに食料品売り場に戻って、カートを押す俺の一歩前を
躍るような楽しげな足取りで、食材を手にあれこれ、考えてる。
病み上がりだから、念の為、上着でUVカットのピンクのパーカーは着せてるけど、
線の細い小柄な男性に見えてるカオルは、それでも一瞬、男共の目を引く。
で、チッ、なんだ男かよ、残念、みたいな顔をしてやがるんだ。
しかも、女共も、なんだかんだで、可愛らしい容貌に目が行ってるしさ。
モテたよな~。絶対。
で、自覚も、ちゃんとしてたよな~。
カオルのまま、高校、大学って進んでたら、例え同じとこに進学してても俺とは接点なかっただろうな。
探し物してて店員との受け答えとか見てたけど、外面の良さ、完璧だもんな。
オバチャン店員さん、にっこにこだったもん。調味料売り場の人じゃないのに目の前まで案内してたし。
俺の健じゃ、初対面の人相手に、ここまでは出来ない。いつもの商店街じゃ別だけど。
ん~、けっこう好きなのかも、カオルも。
俺の目線が、知らず知らずに周囲の人達を、嫉妬して見てしまってるってわかる。
「あ、タンドリーラーメン」
ぼんやり籠を押してる間に、会計に進んでて。
レジをしてくれてる人の手元で、ピッってされたそれを見て呟いた。
「また、僕が寝込んじゃったりしたら、食べてもいいですよ」
いつの間にか、籠に入れてたカオルがそっぽを向いて答えた。
ありがとうって俺が言いだす前に、「トイレ行ってきます、ここにいて」って
全く、こっちを見ないで早口で言い捨てて、行かれてしまった。
もう一度、言ってもいい?
・・・・・・やっぱり、好きかも、カオル。
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