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”21” 猫地図、鋭意作成中 ‐5
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ソファーの部屋には雑然と、様々な物が書き加えられた。
さしずめ、子供の遊戯室のようだ。どの小物も、玩具サイズなんだ。
で、何でか今度は天井に届くくらいの馬鹿デカい観葉植物が何鉢も描き加えられる。
でも、ソファーの上はキリムって、カオルの言うかけ布以外無い。
クッションやぬいぐるみも床に無造作に描かれてる。これ、ソファーにあってもおかしくないよな。
「ダメです、わかりません。でも、ソファーの定員は1名なんです。
他の物は全部僕達の物なのに、どうしてだろう。
でも僕たちの物だけど健には必ず許可を得なくちゃいけなかった小さな頃は」
せわしなく動かし、たくさんの色鉛筆を駆使してた手が頭を抱える。
落ち着き無く、髪や顔を覆い掻き毟る。
唇をぎりぎり噛みだして、指先でぎゅっと閉じた眦近くをぐいぐい押してる。
「カオル、カオル君、ごめん、ごめん。それは今はいいよ。考えるの止めて!
そだ、この部屋の周りが佐倉家なんでしょう?佐倉家はどんな感じなんだっけ?
こっちを教えてくれるかな?ほら、入り口見つけたんでしょう?」
どうしよう。多分、何か大きくキーになることを訊いてしまったのかも知れない。
軽く混乱して、パニックに近くなってる。
もう、今夜は止めさせるべきかな? だよね、止めさせた方がいいよね。
「ーー佐倉家?
ああ、それは僕の棲家にしてたんです、僕そこから出ないつもりでいました。
大好きだった場所だから、そこの管理をしたいって、健に頼んで。
ベッドの部屋からの出入り口の欄間を佐倉家の側から塞いでしまいました。
ここの所ですよ。お祖父ちゃんが彫ってくれた天女様が居るんです、ママみたいに綺麗で」
虚ろになった目を俺に向けて、早口でそう告げて。カオルは、突如、・・・・・・失神した。
動けなかった。声も出なかった。
どうしよう、どうしたらって、頭が真っ白になる。
ぱくぱく、何度目だったろう、やっと機能した唇から、カオルを呼ぶ声が出て来たのは。
鉛のように重い手足を無理矢理動かして、カオルの元に寄り、抱きしめて、頬を叩いて
知らず知らずのうちに、絶望の涙がボロボロと目から零れて
生気の無い顔に雨みたいにかかってくのを、認識できたのは。
カオルと健の名を繰り返し、交互に、狂人の如く、呼び続けた。
無上の悲しみが俺を包み込み、健を、これでもかと、きつくきつく抱き締める。
どうしよう、どうしよう、置いてかれちゃったら、どうしよう
だって、俺、もう、どうしていいかわかんないよ!わかんないんだ!!
「ごめんなさい。健じゃなくて、戻ったのが、僕で」
ものすごく長い時間だと思った数十分後、なのかな。
冷たいバツの悪そうな小さい声で、カオルが皮肉気に俺に言った。
脱力してしまって、全体重を預けてしまったら、「重っ!潰れます!」って文句が返り。
あ~いつものカオルだって。ホッとして、泣き笑ってしまった。
「あ~もう、毎回、こんなのかな~。怖くなるよ~」
「地図作り提案したの、佐倉さんですから。責任取って下さい。
僕は、あくまでただのダイバーみたいなもんなんですから。それより、どけて!」
まだ力が入らないんだろう、口先はもう生意気なこと言ってるけど、俺の肩を叩く拳は弱い。
「やだ~! 俺にも役得をくれ~! 触らせろ~!
あ、一緒に露天風呂に入ってよ。ダイバーさん、カナヅチなんだから泳ぎを教えて進ぜる」
「何言ってんですか、どさくさに紛れて。嫌ですよ。独りで入って下さい、大人でしょ」
ぺしんって額を叩かれた。
「ほら、どけないと、次はデコピンしますよ?僕のデコピン痛いですからね!」
げっ!それは勘弁!
健のデコピン、めっちゃ痛いんだよね。ほらピアノ弾きで鍛えてた指だからさ。
渋々、身を剥がし、肩に手だけ置いて、じーっとカオルを見た。
「今日は、ごめんね。どうしよう、続き、またやれるかい?」
「はい。今夜はちゃんとライトも命綱もつけて行って来ます。だから・・・・・・」
「ん?だから、なに?何でも言って?」
「・・・・・・明朝、寝坊しそうなので、朝御飯、また作って下さい」
嫌がるかな? でも、ちょっとだけ譲歩して?
俺は笑顔で、こつんって、カオルの額と額を合わせた。
「イエス、マイプレジャー」
「うわ、めっちゃ、日本語アクセントですね。カッコ悪い」
カオルくん、やっぱり、容赦ないな。
◇◇◇◇◇
受話器の向こう、俺の呼びかけに答える欠伸交じりの眠そうな声。
「データ、送った。音声データも今回はあるしイラストのPDFも添付したから」
「健くんは?寝たのか?」
「うん、ずいぶん前に。けっこう、今週は、新しいことがいっぱい判ったよ。
一応、メールに、俺の見解は書いておいたけど。お前は影響されないで、お前の考え書いて来て?」
「了解。で、お前のメンタルは大丈夫?
あ、そうそう、阿川がさ、自分も加わりたいって言って来てる、どうする?」
深夜のリビングで、固定電話の子機を片手に、頬杖をつく。
目線は目の前のモバイルPC画面を、ぼーっと移動してる。
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