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”24” 城に潜む猫 ‐5
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僕自身、僕の中の誰かでは、どうしようもないと気が付いていて
怒って出て行ったものの、彼女がいてくれた方が助かったんだと思う
「静さん」は凄かった
目の前の問題、僕が、そのぅ、複数の人に性的暴力を受けたって傷を
どう、無かったことにするかなんて、あっという間だった
僕が、それを忘れてしまえばいい
痛みの感覚を、悲しみの感情を、苦しかった時間を
全て、空いた小部屋に放り込み、封じてしまった
僕から無理矢理、剥ぎ取ってしまったが為に、感情の全てが、消えた
痛覚や圧迫感を取り除くことは肉体が感知する方で不可能だから、それにまつわる痛いとか苦しいとか、感情に由来するものは、一緒に閉じ込められてしまった
事件の原因に当たることは、無かったことにする
だから、カオルくんが、その原因を知っているから、初めからいなかったことにした
カオルくんには、もうお部屋が無いから、佐倉の家に放たれ、入口全てを閉じられた
シーラちゃんも、お母さんに繋がってるし、今回の痛みも知っているから、封じられた
僕がその瞬間まで閉じこもっていた部屋も、
金糸で、蚕のように、ぐるぐる巻きにされて入れなくされた
ソファーの部屋に戻らざるをえなくする為に
ソファーの部屋もベッドの部屋も、入っていいとは許可してないのに
「静さん」はずかずか入り込み、あっという間に、片付けてしまった
ピアノも、植物も、お母さんの大切なものも、お祖母ちゃんの買ってくれたものも、全部
がらんどうになったお部屋の真ん中に、ポツンとソファーだけ
ベッドだけになった部屋は、入口が糸で、塞がれてしまった
そして、ソファーに座りなさい、と言った
外の世界では、私、「静さん」が本物になって、待っているんだよ、って
「静さん」は、外の世界に行ったら、お祖母ちゃんのことだった
前より少し優しくなったけど、生活に厳しく、いつでも「ちゃんと」が、口癖の
お祖母ちゃんは、お米の味がする、白いお粥を炊いててくれて
一口、食べてみましょうね?って、言った
「ありがとう、静さん」
って言ったら、にっこりしてくれて
本物の静さんに、「静さん」は溶けて一体化して、僕の中から消えた
それから、僕は、お城に行くことも、僕の中の古い佐倉家に行くことも出来なくなった
何より、僕が、たくさんの僕であることを、忘れてしまった
ここがソファーのお部屋で、あっちの塞がれた先がベッドのお部屋だとかも、わからなくなって
ぼんやり、毎日を、目の前にあることだけして過ごした
考えることも、思うことも普通に出来た
でも、それは、すべて、どうでもいいことのように、日常に、ぽっかり浮いていた
何か、大切なことを忘れているって焦りだけ
いつでも、僕が持ってていいものではないのに、頭の隅に居た
そんな日常が、少しずつ色を取り戻したのは
改築の済んだ佐倉の家で、静さんと過ごし出してからだった
僕の故郷なんだって、静さんの刷り込みなのに、信じられて
少しずつ、安心してきたんだ、ああ、ここに居ていいのかなって
僕は、僕でいいのかなって
外の世界とは関われないけれど、ここに居ればいいんだって思えるようになってった
そんな虚の僕に、鮮やかな、色であり、風であり、音であり、温度であり、苦甘い味であり
諸々の五感全てに訴えかけるような出来事が、突如、雷光のように、僕に到来する
爽くんとの出会い
爽くんへの想い
僕は、僕から引きはがされた感情を次々、取り戻す
だって、そうじゃなきゃ、爽くんを想い返すことが出来ないんだもの
彼に応えたい
彼と共に生きたい
その願いが、虚の僕を変える
自ら、望んで、変わって行きたがる
僕は、記憶のない少年なのだと、僕自身思い込み
爽くんの、優しさに包まれて、幸いを知る
それは、あの、過去からの金曜日の使者がやって来て
脆く、崩れ去ってしまったけれど
ああ、とてもとても美しく満ち足りた日々で、僕なんかに勿体なくらいだったね
「静さん」はカオルくんを封じ込める時、一つの究極魔法の鍵をかけた
それは、僕の危機に対し、一番に駆けつけ、全てを守ること
その為に、カオルくんは、お城のどこかの空き部屋に封じられずに済んだ
たった一度しか発動されないことになってる魔法の鍵の解除を
僕は望んでいなかったし、「静さん」も望んでいなかった
それの発動は、僕の、僕自身の放棄が解除の呪文
爽くんと共に、何事もなく幸いに生きて行けたなら
きっと、僕がこんな僕だったと言うことを、思い出すことはなかった
それが、「静さん」と静さんの、僕にかけた最大の魔法だった
◇◇◇◇◇
「静さん」のお部屋で、その絡繰りの全てを知って
僕は、この部屋の扉を閉める
僕は、本当に、お祖母ちゃんに愛された子供だったと、心から感謝する
僕が壊れない為には、きっとこの手立てしかなかったんだって、
お祖母ちゃんしか知らなくて、出来なかったことなんだよね
あれ?
カオルくんが、カオルくんが、変だ
ソファーとベッドのお部屋から、カオルくんが無理やり出ようとしてる
僕の中に戻るんじゃなく、カオルくんまで、どこかに行ってしまいたいって思ってる
どう、どうしよう・・・・・・それは困る
爽くんが、「健」の存在が居なくなったら、悲しむ
お願い、カオルくん
爽くんに、縋ることを覚えて
そして、カオルくんこそ、爽くんに幸せを貰うんだよ
僕に出来る、カオルくんへの、唯一の贈り物なんだ
きっとね、爽くんは
カオルくんも、愛してくれる
ずっと、気にしててくれたんだよ、君のことも、爽くんは
会ってみたいって言ってくれてたんだから
僕、思う
カオルくんが、爽くんに本気になったら、絶対に敵わないって
君なら、僕が引け目に思うことなんか、笑い飛ばして、彼の隣に居られるよ
僕が保証する
爽くんは、最高の伴侶だって・・・・・・
ああ、僕は惰弱だ
カオルくんに、爽くんのことを頼んでるのに、まだ未練があって涙が出てくる
大好きな二人が幸せになって欲しいのに、何故なんだろう
もう、だめだよ、こっちに来ちゃ
カオルくんは、ソファーのお部屋とベッドのお部屋の住人なんだから
探しにも、来てはいけない
静さんの部屋を塞いでしまうからね
声もピアノの音も聞こえなくなるけれど、カオルくんの為に、頑張るね
壁をドンドン叩いてはダメだ
僕を呼んではダメだ
カオルくんまで、泣いたら、ダメ・・・・・・だ
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