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”25” ネコを招待する王子 ‐1
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side 爽
「ウェイターとかってどうでしょうか?」
「はぁ、却下に決まってんでしょう。カオルくんに出来る訳ないし、そんなので食べてけないから」
こんな子が、バーとかで接客してたら、初日にどこか連れ込まれて良いようにされるよ。
「ピアノ、頑張って、もう少し上手くなれば、いけると思うんですよね。
ピアノバーなんて、大したの弾いてないだろうし、多分。システムよく知らないけど。
ピアノ弾いて、弾いてない時は、お酒作ってあげて、みたいなことでしょう?」
「そんなことを目指してるから、練習時間が欲しいって言い出した訳?
ダメ、ダメ。そんなの仕事にさせられないよ、丹羽さんに怒られるよ、俺」
俺は、軽い荷造りをしつつ、カオルが本気の顔で言ってる戯言を聞き流す。
カオルは盛大に膨れ、じゃあ、いいですって、背を向け、また、ピアノを弾き出した。
最近、難航している健の捜索の愚痴を言わなくなったと思ったら
「僕、仕事しようって思ってます」って、騒ぎ出した。
このまま、那須の山中に籠って、ただ何もせずに生きて行くわけには行かない。
将来を見据えて、自分が、出来そうな仕事を考えて、やらなくちゃって。
カオルの自己分析に寄れば、頭の中身は、中卒程度。
基礎体力はなし。特技は、ピアノくらい?って考えたようで。
じゃあ、ちゃんと習ってプロを目指せばって勧めたら、俺は甘いと詰られた。
じゃあ、作曲はどうかと提案すれば、「パパさんと同業になってどうするんですか」って。
「絵が上手なんだし、そっちは?」と振れば
「あんな素人ので、勝負できません」と、きっぱり否定。
「提案。やっぱり勉強しようよ高校の。で、必要なのだけやって。
後は、大学のをやって、医学部に復学を目指すってので、どう?」
「そんなの無理です。この間、佐倉さんの教科書読んだけどさっぱりわからないもの。
勉強し直すなら、高校からやり直さなきゃ、ちゃんと。で、お医者さん以外を目指します」
「え?どうして?夢じゃなかったの、医者になるの」
ピアノを、弾く手を休めずに、カオルは、ため息をつく。
「何度も言わせないで下さい。僕には、夢なんかないんです。
僕は未来なんか考えてませんでした。あくまで健の一部なんですから。
他の僕達みたいな人のパターンは知らないけど、僕は、長期的生活、且つ未来に関しては、健の意思のもとに動くんです」
そうか、ピアニストになる夢は、ご両親の希望を叶えたかった健が持ってた夢。
医者になる夢は、健が健自身の意思で、目指してた夢。
他に・・・・・・なにか、健が目指してたの、あったな、なんだったっけ?
二つともダメなら、何になりたいって言ってたっけ?
「あ!思い出した!!カオルくん、気象庁に入りたいとか思わない?」
「は?なんでですか?」
「健の、なれなかったら目指そうとしてた夢が、天文学者だよ」
「ってことは、やっぱり、勉強して受験じゃないですか。
・・・・・・っていうか、天文学者ってどうやったらなれるんですか?」
えーと、わかんないかも。待って、調べるからね。
スマホを片手に検索をかけてみた。・・・・・・げっ
「なんて、書いてあります?」
「えーとね、東大か京大理学部だな、進路先は・・・・・・
もしかして、医者になるより厳しい道のりかも知れない」
検索結果の出た、サイトを表示して、カオルに手渡す。
ざっと見た、カオルが、宙を眺めて、舌打ちした。
「・・・・・・スーパーのレジ打ちとか、コンビニの店員とかは、どうでしょうか?」
「だから、なんで、そう、安易なのばっかり候補に挙げるのさ。
そりゃ、未来について考えるのは大事だけど、結果急ぎ過ぎじゃないの?」
俺は、粗方済んだ荷造りの荷物を玄関脇に持って行く。
「だって、働かざる者食うべからずなんですってば!」
出た。静さん的発言。
取り合えず、今日の所は、この無駄話は終わらせないと。
「カオルくんも荷造りしないの?ま、健が前に着てた服、向こうに置いてあるから着替えは要らないけど。暇潰し道具とか無くてもいいの?」
「行きたくないです。留守番してます」
「俺が心配で、落ち着かないから、お願いしますって、さっきから何回言った?」
とうとう、明後日に迫った夏季試験の後半戦。
カオルに相談は止めて、決意も固めたが、俺のケジメとして夏季までは単位を取って置きたい。
8月の最終週、月曜から金曜まであって、念のため、寸前じゃなくマンションに戻るから、約1週間も留守にする。
日々に飽きて来てるんだと思う。
それと、もしかしたら、俺と、別々に暮らしたいと思ってるのかもしれない。
カオルは健と違って、そこそこの行動力がある。
やってみてないだけで、独りにしたら、挑む可能性が怖い。
カオルは、嘗めてる、パニック障害症状を。
自分が未体験だ、イコール、自分には起きない。
そんな妙な自信がある。
入院中、軽くは何度か起こしたのに、あれは健を装ってた時のものだからなんて、曲解をしてやがる。
必ず、カオルが頼れる誰かが側にいる。
その状態でしか、出掛けてないことに気付いてない。
そんなカオルを独りで留守番なんかさせられないし、ならば、毎日、ここから往復しようなんてタイムロスを許せる程、試験対策が出来てない。
だから、今週頭から、ずっと頼んでる。
俺の、俺と健の暮らしてたマンションに1週間だけ一緒に滞在してくれと。
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