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”26” 城に潜む猫 ‐9
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お祖母ちゃんは、日に日に、中学の溌剌とした入学式の僕から
萎む朝顔みたいに元気をなくしてく僕を心配して、はらはらして見守ってくれてるのを知ってた
「ねえ、健さん。男の子でも泣いていいですよ。私の前でだけいっぱい泣いていいですよ。
貴方は泣き虫なんだから、涙を溜めすぎたら、自分の涙で溺れてしまいやしないかしら?」
何度も、そう言ってくれたけれど、もう、泣かないって決めてたから
頑張って泣かない様に、どうしても涙が出る時は、お部屋で一人になって泣いた
カオルくんが来てくれて、慰めてくれるベッドに行けない時は、いつも一人で泣いた
そんなお祖母ちゃんが、ゴールデンウィークをこれ幸いと、電車に乗らずに済むからって、わざと引いてピアノのレッスンもサボれた風邪が治りがけの最終日
「久し振りに、映画でも見て、美味しいもん食べて、お買い物しましょう。健さんとデイトしたいのよ。お付き合いして下さる?」
って、他所行きの、そうか今日は五月のお節句だから、僕達二人のお気に入りの菖蒲紋入りな小袖を着てくれたんだ
お祖母ちゃんは、渋ったけれど、お昼を天麩羅蕎麦にしたがったのを譲ってあげたのだからと
お父さんが映画のサウンドトラックを出してる、大ヒット中のアニメ映画を見ることにした
映画の内容は、二人とも殆ど、頭に入らなかった
冒頭、歌詞がなく、しかし、この作品のメインテーマ曲でもあるため、優しく語りかけるようなヴァイオリンが主旋律を歌う
僕達は、信じがたくて、互いに青ざめ見つめ合う
お祖母ちゃんに感謝の気持ちを込めて、僕が小4の時に作曲し、カオルくんが似顔絵を描いた画用紙と一緒に、
母の日にプレゼントした曲が流れてきたから
二人しか知らない曲なんだ、完成したスコアも、お祖母ちゃんに贈ったんだから
それだけではなく、他にも3曲が、僕の部屋のノートにしかない筈のだった
お父さんの曲は、今回の映画で、大評判だと言う
サントラCD が異例の売り上げだと、家に訪れる広告会社の人が言ってたのを思い出す
お父さんに、僕は、曲を盗まれた
ガラガラと足下が崩れそうで、僕とお祖母ちゃんは、その後、何処にも寄る気になれず、無言で帰宅し、悲しくて、僕はまた独り部屋に閉じ籠り、泣いてた 嗚咽以外、声も出せずに
泣き過ぎて、夜明けの少し前頃に疲れて眠り
「学校、お休みしたら?」って、翌朝、勧められても、お父さんが帰るかもしれない家に居たくなかったから、フラフラで大嫌いな電車に乗りに行く
あんな事が待ち受けているとは、知るよしもなく
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