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”27” ネコと王子の休息 ‐3
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大水槽前のカオルが普段ではあり得ないくらいに無邪気なビックリ顔。
「カオルくん、口、開いてる~。可愛いなぁ~」
俺にからかわれ指摘されて、慌てて口を塞いで、赤くなって俺を睨んだりするんだ。
記憶にないほど昔に来てて、20歳過ぎまでのご無沙汰なんだし、そんな反応は当然なのに。
しかも、「水族館に決定!反論は聞きません、行きたいところないって言ってたんだから」って告げた時、
クールな横顔が、そっと破顔したのは解ってる。
で、俺が渡した、パンフレットだのタブレットだので、最も見てたのが水族館だったことも知ってる。
予測は外れてない、多分、カオルが一番来たかったスポットだったろう。
夏に来るには、館内もそこそこ涼しくて、目からも涼を得られ、デートスポットとしては上位間違いないよね。
ベタかなって思えども、やっぱり、人混みがイケるかどうかも確認したいカオルにはぴったり。
お独りさま電車体験実験は、まだ先にするとして。
今日は、車で来てて、もしダメなら、避難はいつでもOKって環境だが、けっこうな混み具合なのに、魚達に心をすっかり奪われ、あれから散髪してない髪を空調でふわふわ揺らす様が、まるで、海流に揉まれて寛いでる人魚のように見える。
水槽越しの青い光が、端正な横顔を更に神秘的に見せるんだよね。
ほんっと、ここにデートに来れなかった健って、損してると思うよ。
「佐倉さんだって……開いてますよ、口」
数組の人が入れ替わるまで立ち尽くしてたくせに、いきなり素に戻って憎まれ口。
ま、カオルらしいよね、まだ、若干、動きがぎこちないくせにさ。昨日の夜まで、某所に、「自分でします~」って騒いで恥ずかしがって薬を塗ってもらってたってのに。
「見蕩れてましたからね、誰かさんに」
「そんなに可愛い子いましたっけ?あ、魚か?どの魚ですか?」
……自己評価低いのは相変わらずだよね。
これでも、健よりかは高い設定なんで、無防備じゃないから、その辺はちょっと安心かな。
外は遊園地にもなってるこの施設は、けっこうスリリングな遊具が揃ってて、
こっちも同様で、ご無沙汰らしいカオルに、
あんまり水族館にのんびりしてては勿体ないって、あれほど、車で教えたのに、
ついつい、足が止まって、うっとり見てて。
カオルはさ、燥ぐとかじゃなく、どちらかと言えば、魅入られてる。
で、時々、そっと、高まった興奮を俺に伝えてくれたりする。
暗いのに、足元を見てないから、何度、転びかけたことか。
俺に支えられて、初めて、ビクッとするんだもん。スニーカー履かせて来て正解だった。
サクサク見てく人達に散々追い越され、ワクワクどきどきな好奇心いっぱいの頃に、すっかり子供返り。
魚の動きに視線が追いかけ行き来し、驚いちゃ瞬き、可愛いって思ったのか微笑んで、
横顔だけでも、こんなに表情がころころ変わってるのが解るのに、向かい側の水槽から見たら
カオルを見て、彩り豊かな表情に、うっとりするのは、きっと俺の方、もっとなんじゃないかなって思うよ。
「あ、見て下さい?すごく綺麗」
「ん?あ、ホント、キラキラしてるね光が差してるのかな、上から。鰯の鱗に反射してる」
「ふふふっ。佐倉さんも水族館だと更にイケメン度増してますね。あ~健に注進しとこ。
ココでのデートは危険だよって」
くすくす笑ってる誰かの方が、ずっと危険だってば。
「ねぇ、俺、以外とは来ないでね、水族館」
「え、どうしてですか?僕、好きみたいですよ、水族館。あ、ショーの時間、次の間に合います?」
「ん~と、さっきの、見逃しちゃったから……あ、あと20分後だ、急ごう!」
俺は腕を掴んで、走り出す。
既に開始時間に入った筈の、水族館で3ステージ目になってる時間。
なかなか前に進まない観察コース順路は、まだ半ば過ぎ。
こりゃ、一日、水族館だけかも知れないけど、これはこれで、幸せな気分だからいいかな。
炎天下、外連れまわすの危ないかなっても思ってたしさ。室内の方がいいよな。
何とか空席を1箇所見つけられ、そこはベンチ最後列だから、その後ろに立つ。
俺に座るようにって譲ろうとしてくれるけど、周囲の立ち見な大人達が背丈高い人ばっかりで、試してみる以前にカオルじゃ埋もれて何も見えないだろう。
首を捻り上げ、気遣わしげに「次のにする?」なんて言い。俺は苦笑して、腕時計の文字盤を見せた。
「え、もう、2時過ぎ!? ごめんなさい。お腹空いたでしょう?」
「ショー見終わったら何か食べに行こう。おっ、始まるよ」
ステージにはピエロ風の衣装を身に付けた飼育員がスタンバイをしたところ。
程なくして軽快な音楽が流れ出し、彼女達のマイクパフォーマンスに続いて、カマイルカがすいっと泳ぎ来て、数頭が高くジャンプする。
ついさっき前の慌てた顔つきは何処へやら、カオルの視線は舞台に釘付けになってる。
夢中で拍手しちゃって、ちょっとやっぱり口開いてて。すごく幼くなってていい。
ここのショーは色々な種類の芸達者な海獣達でショー内容が構成されてて、面白い。
カオルの肩に手を置いて、騒々しいショーの間、興奮して見てて、俺にカオルが呼び掛ける度、顔を近づけて、こそこそ二人だけに聞こえる音量で、感動を分け合った。
「さすが都会の有名水族館は違うな~」
「佐倉さんの地元は違いますか?」
「家の県のはショー自体ないよ。でも、こじんまりしてて俺は嫌いじゃない」
一旦、水族館エリアから外れ、フードコートでハンバーガーセットの食事を済ませ、何時間振りか座ったんで、だらけて、カオルとさっき見たショーのことなんかを話しながら、頼んだ飲物をゆっくりめに啜る。
「ね、こんなところであれなんだけど、佐倉家に帰ってみるって選択肢も考慮してる。カオルくんは何処が一番落ち着くと思ってる?」
カオルも、ショーの数十分じゃ座り足らないようで俺同様に、アイスウーロンの紙コップがぶよぶよでも手にしてストローを口に咥えてる。
「……僕は、何処とか考えられません。佐倉さんがいたいところに居たい…とか、思ってました。
それではダメでしょうか?」
目を伏し目がちにし、さっきまでのカオル少年が息を潜めてしまい、感情が読めない表情になる。
俺が強引に連れ去ったって意味で封じた、中身がカオルである健には、帰れる場所が二つある。
横浜の丹羽家と、俺の田舎にある佐倉家。
佐倉家は、今は無人になってるけど、相続人は健。俺は辞退して、書類等の処理は済ませて置いた。
丹羽家は、明日、顔を出し、色々、言われるんだろう。
で、予測だけど、丹羽家も、丹羽大和氏の血を分けた実の息子である健が行く行くは相続する。
夏さんが主張すれば半分は持って行かれるけど、彼女は亡夫の残したマンションを未だに所有しているし、
それを賃貸にしているから、そっちの不動産収入もある。経済的に縋りはしなさそう。
義兄達は、二人は現在も芸能人で金銭的に困ってる様子が無いし、芙柚は建設関係の職場に就職してるし、間違いなく放棄するだろう。
カオルは、どこに行く当てもないなんて言うけど、じつはしっかりある。
「わかった。嬉しいよ、そう言ってくれて、ありがとう。
じゃあ、明日は、丹羽さんに、そう答えてもいいね?」
「はい。……久しぶりだから緊張しますね、僕、どんな感じで健だったか思い出さなくちゃ」
「健のまま会うのやめる?本当のことを話してもいいんだよ」
曖昧に微笑んで、カオルは首を横に振る。
「僕が、カオルでいられるのは、健が帰って来るまでの間です。
わかってくれてるの、佐倉さんだけでいいです。短い間のつもりですから。
残り、見に行きたいです。佐倉さんはジェットコースターとか乗りに行きたいですよね?うーんどうしま……」
「俺も、カオルくんと一緒に居たいから、水族館に行く。イルカプールだったよ、次見るところ」
はい。って嬉しそうにカオルは頷いた。憂いを払うように、力強過ぎて、くらっとしてしまって
二人で、また可笑しくなって笑った。
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