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”27” ネコと王子の休息 ‐9
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暗いと思ってたんだろう、寝室扉を開けたら、常光で。俯いて来たカオルがちょっと驚いて一歩足を引く。
「な、なにをしているんですか?」
「あ、これ、お土産開けてなかったなって思いだしてさ~。こっちカオルくんの分ね?
ここ、早く。早くベッドにおいで~」
健の定位置をポンポン叩いて、催促したら、もじもじしつつも来てくれて、身体を滑り込ませる。
ショップの袋ごと渡してあげて、俺の買ったのはまだ開けないでおく。
「ジンベイザメ、リビングのソファーに置いてもいいですか?変ではないと思うんですが」
「うん、いいよ~、部屋の色味と合うもんね。時々、枕に借りるね。マグカップ貸して、台所に置いて来てあげるよ。そのあいだ、こっち見てて。俺からの記念品授与ね。今週末は良く頑張りましたの努力賞景品」
カオルの手から、ジンベイザメのイラスト入りマグカップを取って、寝室を出る。
カメは寝室に置いてあげようかな?なんて思ってたりする。
稼働中の食洗機をいったん止めて、マグカップも中に収めて戻れば、カオルは、じいっと、カメとにらめっこしてた。
「カメ、いつの間に買ってたんですか?」
「カオルくんの見てない間に買ってた。え、気に入らないとか?」
あれれ?喜ぶって気配じゃないな。困ってる??
「欲しいなとは、思ったんですけど。買えないって思ってたんです。今更だし」
「え?え?今更って?なにが?」
ふうってため息をつく。
「水族館のこと内容はうろ覚えなんですけど、お土産を選んでたことはハッキリ覚えてるんです。
佐倉さんが予測した通り、僕等はどこかに行って何か買ってもらう時、交代で、欲しいものを選んでたんです。水族館の時は、僕の番でした」
カオルは、ぎゅうと、カメのぬいぐるみを抱きしめる。眉間に皺を寄せて。
「健はペンギンが欲しかったんですけど。僕はカメが可愛いなって思って。
そしたら、お祖母ちゃんが爬虫類嫌いだよって健が言うんです。自分が違うのが欲しいから意地悪を言って。僕の番なのに健はずるいって……傍目には無言で男の子が悩んでるみたいに見えるけど」
「健の中では言い争ってたんだね。それで?」
「僕の側に小さな女の子が来て、もう一つ残ってたカメのを持って。そしたらその子とそっくりな子が来て」
「へぇ、双子かな?一卵性だったの?」
「多分、もうね、何もかも一緒なんです、あの忍者の」
「ああ、分身の術、みたいな感じ?」
それですって、俺の相槌の妙にカオルが相好を崩す。
良いテンポになって緊張が解けてるから抱き寄せてみた。自然に凭れて甘えてくれる。
「服装も髪型も全部。コピーみたいに一緒で。その子達が、僕の目の前でぬいぐるみの取り合いを始めたんです。終いには二人で泣き喚いて大騒ぎになりました。僕、その頃、日本語があんまりわからなくて、どうしていいのか分からなくて。お祖母ちゃんが宥めてくれたんですけど」
「もしかして、その子達に譲ってあげたの?」
「……彼女達は双子で、同じ物をそれぞれが必ず持っていたい子達なんですって。御両親が来て別のにしなさいって言い聞かせればするほど、騒ぎが酷くなるんです。お祖母ちゃんがこのご家族は遠くからここに来ているし、あなたはまた来れる近くに住んでいるのだから譲ってあげなさいって」
「可哀想に。我慢させられてしまったんじゃないか、カオルくんが」
小さく首を横に振り、うーんって少し言い淀む。
「我慢とかは、あんまり。ただ、二人が泣いて可哀想になったのと、双子ってのが羨ましかったんです。
そっくりで同じことをして何でも同じがいいのに、ちゃんと別々の存在で居られて。
僕はその頃、人格だとかそう言うのわからなかったから、僕達にもそれぞれ身体があったらなって
それをあの日の僕は悲しく思ったんだったなって、ぬいぐるみ見てたら思い出してしまったんです。
僕も子供だったからいつも自分の物、欲しかったし。自分をお祖母ちゃんに健じゃないんだってわかって好いて欲しかったから……すごく二人が羨ましかった。ぬいぐるみのカメまで、お揃いになって、両親の手にそれぞれ繋がれて楽しそうに帰ってく姿をずっと見てました」
抱き寄せた腕を身体に回して、小さな後頭部そっと掌で包んで。胸に抱いてあげる。
「カメのぬいぐるみには、切ない思い出があったんだ。なんだか余計なことしちゃったね」
「いいえ。結局、健の要望通りペンギンが家に来て。カメ欲しかったなって、見る度に思ってたんで。
僕用に、佐倉さんが買ってくれて嬉しいです。ありがとうございました。ん~どこに置こうかな」
起毛してあるカメの表面に頬を寄せて抱きしめてるカオルが、なんだか、らしくなく無邪気で可愛かった。
「じゃあ、今夜は特別。このベッドに入れてあげよう。明日からの事、話すんだったでしょ。
ね、横になって話そうか?」
「……ライト、暗くして下さい、ね?」
俺の声色の変化を察してくれるカオルが、色っぽくなる声で返してくれる。
ご要望通りに、一番暗い明度まで落として、組み敷くと。
「カメさん、大きいカメさんから、僕を守ってね」
カオルがキスを仕掛けた俺の唇に、ぬいぐるみを押しつける。笑ってるし。
そっと取り上げて、カオルの枕元に置いてやる。
「小さいカメさんは、大きいカメにご主人様が食べられちゃうのを目撃してて貰おうか。ハハハハ~」
「佐倉さん、悪役さんなんですか?お代官様?」
「なんか色々ぐちゃぐちゃ混じってるし。じゃあ、俺の亀、大人しくさせてくれる?それから話そ?」
「……話が出来る程度に、加減して下さいね?」
ちょっと生意気な口調のくせに、やたらと素直に瞳を閉じてくれる。
そんなカオルに、良い気分で振り回されて、俺は、結構楽しんでたりしてるんだ。
丹羽家のレッスン室以来のキス。
カオルには「ただいま」や「おはよう」の挨拶でするキスをしない。
言い訳めいた、小さな拘りをしながら、今宵もカオルの中身な健の肌に溺れる。
出来そこないの亀だから、ちゃんと、導いてね?天女のカオルくん。
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