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”29” 王子パパ meet ネコ ‐2
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健(中身はカオルだけど)の無事な姿を見て、辰三さんは、ずっと男泣きしている。
親父は呆れつつ、ビール瓶を手に、辰三さんのグラスが空になるのを待ってる。
「植松親方。もう、止して下さい。僕、元気になりましたから。鰻お好きでしょう?食べて下さい」
ずっと右手を握られているカオルは困って、でも、左手は、辰三さんの背をそっと撫でてる。
「もっと早く挨拶に来てあげれば良かったのに。老人を待たせておいた罰と思って我慢してあげなさい」
「お義父さんもどうぞ、召し上がって下さい。本当に、ごめんなさい。ご心配おかけしました」
「辰三さん。健も食べられないですし。温かいうちに食べましょう?ほら、いい匂いですよ~」
俺の分の蓋を開けて、手で煽ってみたりしてもなかなか難しそうで。
「あ、そうだ、さく、そ、爽くんっ、お祖母ちゃんに僕の分から分けてお供えして来て下さい。
お願いします」
「え? あぁ、俺のからしておくよ」
「いいえ、僕ので。どうせ、僕、食べきれませんから」
お祖母ちゃんって会話を聞いて、辰三さんの背がピシッと伸び。健の手を放し、袖で一思いに顔を拭った。
「いかんのぅ。静さんに叱られゆう。泣き虫は嫌われてしもぅわ。いや、坊ちゃんが戻ってほんに嬉しい」
拭った手をそのまま、グラスに伸ばし、一気に呷ったビール。久しぶりなのだそうな飲酒で身をぶるっと震わせている。無類の酒好きなのに、健が目覚めるまで一滴も口にせず願掛けしてくれた辰三さんは、身内に深酒をしない良い癖がついたと言われ、ここの所、飲んでも週に1、2度日本酒をグラスに1杯程度の酒量に落ち着いているそうだ。
「祝い酒ですから、久方ぶりのビールを楽しんで下さい。ささ、もう1杯どうぞ」
「しぇんしぇい。カカアと息子の嫁に叱られるがよ。これっきりにしとこう。返杯じゃ、しぇんしぇい」
俺が、静さんの部屋から戻ったら、既に2本目の瓶になってて。
カオルが穏やかに二人を見つめて笑っている。俺が席に着けば、俺のグラスにも注いでくれた。
「ほれ、健ぼっちゃんも、飲みなされ」
「僕は、どうやらお酒ダメみたいです。植松親方、僕の分も飲んで下さい」
「お待たせ、健。俺達も頂こうか?」
「先に始めていた。悪いな」
カオルがにっこり笑って、いいんですよ。って親父に言う。
さり気なく親父の前に、アテでも箸休めでもある、たこの酢の物と出し巻き卵を置く。
糠漬けが市販品なのを、気にしてた。仕方ないって、ここに住んでる訳じゃないし。
また腰を上げ新しいビール瓶を取りに行ったりしようとするカオルの手を引いて座らせて、カオルの分の重箱の蓋を開ける。
落ち着いて、もう食べなきゃ。ね? 病気がちなカオルの為でもあるんだから、精のつく食べ物は。
俺が出前の電話に行ってる間に、寝間着を着替えてるから、どうしたのかと問えば
「お二人をお招きするのに、うな重だけじゃ格好着かないから、スーパーに行く」って言って
微熱あるくせに、箸休めを作り出したりするカオルの良い嫁ぶりに、俺は何気に感動した。
「健くんは良い嫁だな。いっそ、こんなのやめて、私にして置きなさい」
「ひゃひゃひゃ。それは、ええの~。しぇんしぇいは甲斐性あるしのぅ。静さんも男前だって言うてたよ」
「実は、静さんもいいなと思ってましたよ。なにせライバルが多くてね」
親父はご機嫌で、辰三さんを相手に、酒を酌み交わす。
夕食の支度をするカオルが心配で、つい、ダイニングテーブルに座って様子を伺ってた。
その時に、健は親父と仲が良かったのか、どれくらいの面識があったのかを問われて、掻い摘んで説明しておいた。ま、記憶が無いってことで、無理に装わずに行こうってことにしたけどね。
親父は、本当に食えない男だ。なんで、油断は禁物。カオルの事がバレない様に細心の注意がいる。
休学の件は、辰三さんが帰った後に、話そうってことにした。
辰三さんは、酒量が結構嵩んでるので、きっとそろそろ帰ると言いだすだろう。
「1泊2日が2泊3日になってしまったみたいだが。風邪は大丈夫?」
「はい。軽く済みそうです。今日、病院に行きました」
「聞いたよ。済まないね、待たせていたのに、ちょっと厄介な案件で捕まってしまったんだ。
そこのバカが碌に寝かせず無理をさせたんだろう。申し訳ないね」
上戸の親父に下戸のカオルがさらりと猥談をされて、赤くなって俯く。
まったく、顔色が逆だろってくらい、親父は酒が顔に出ないんだ。
あ、カオルに食後の風邪薬飲ませなきゃ。って、ちょっとだけ、席を外して戻ったら、辰三さんが帰り支度を始めてる。
「明日は早うから佐倉神社の垣根の剪定があるがよ。すまんのぅ。健ぼっちゃん、車を呼んでおくれな」
「こちらこそ、ご都合も聞かず急な思い付きでお招きしてすみません」
「おお、爽坊ちゃん。ほんに、よう頑張りなすったのぅ。これからもお二人で仲良うのぅ。また、来たら呼んでおくれな」
程なく来たタクシーに、二人で送って行き、親父だけが残ってるダイニングに戻った。
「で、なんだ?話があったんだろう?」
「えっと、はい。あの……全然、飲んでおられないみたいですね?」
「ああ、家の家系はそもそもザルが多くてね。そこのもそこそこイケる口だ。佐倉の血筋はどうなんだろう。
静さんは少し嗜む程度とか仰っていたな」
くっくっくと、笑いを噛殺す。親父は静さんの主治医になって随分丸くなったと言ってたし、俺もそう思う。
彼女って偉大だ、うん。
「どうする?居間に場所を移そうか?」
「あ、そうですね。お義父さん、宜しかったら……」
「いや、私も、そろそろお暇しよう。息子が、なにぶんヤキモチ妬きで、居座ったら邪魔にされそうだ。
なので、ここで構わないよ。話があるのは爽だろう?」
もう、酒はいいと、見送ってすぐ、冷蔵庫に瓶ビールを取りに行ったカオルを留めて、親父は淡々と話す。
カオルは居住まい悪そうに、お茶を淹れ、それぞれの前に出した。
「風の噂でどこかの誰かが惨憺たる成績だと聞いたことと関係あるか?」
親父の知己は、母校で、教授達とも繋がりのある為か、大学に多くいる。
まあ、バレてるのはわかってた。
カオルが心配そうに俺をちらちら見る。
「何とか低空飛行だが夏季は履修出来ているとも聞いたがな。それと新学期に入ってる筈だがお前は随分悠長に実家なんかに帰っているのが不思議だな」
「わかってる…くせに……」
「きちんと言うつもりで来たんだろう?さっさと言え」
俺は、カオルに視線を遣り、一つ頷く。大丈夫、心配しないでって。
カオルは、無意識にだと思うが、テーブルの下で俺の手を握ってくれた。
有難い、これだけで、勇気百人力だ。
「俺、休学したいと思っています、健と。来春には二人で戻れるように頑張りますのでお許し下さい」
「僕のせいで本当にすみません。どうか、お許し下さい」
俺が頭を下げると、すぐ。カオルが神妙な声で続く。打ち合わせも何もない。
きっと、いや、絶対、心からカオルが思ってしてくれてる。
「健くんは、もう一度、医者になりたくなったかい?」
「……え?」
「なんだか、迷っているなんて噂も聞いたからね。どっかの誰かに無理強いされたんじゃないかな」
親父は涼しい顔で、健に問う。
「ある人の話なんだがね、その人のドラ息子が、今頃になって反抗期らしくてね。
跡目を継がないだなんだかんだとごねている。ま、急がなくていいことだから、
その人はそんなことはと放っておいている。
でね、このバカな息子はね、困った性癖で、一生、不遇な独り者かと思いきや、どうやら、いい伴侶を見つけたようでね。
その伴侶のお蔭で、何とか真っ当に生きて行かれそうなんだ。本当に困ってしまうんだが、伴侶次第で道を違うほどの周囲の見えない愚か者なんだ。
ねえ、健くん?君は、どこかのドラ息子の良い導き手である伴侶でいてくれるのかな?
医師への情熱を、また再び持って、君も良い私の後輩になってくれるんだろうか」
カオルはじっと親父を見つめ返す。
「はい。僕は、爽くんの、良い伴侶でありたいです。
共に手を取り合って、お義父さんのようなお医者さんになれるように努力したいと思います。
今回、彼の時間を奪ってしまって、僕の回り道に付き合わせてしまうけれど。
どうか、僕から、彼を取り上げないで下さい。一緒に居させて下さい。
一日も早く、お義父さんの背中を追いかけられるように、僕、頑張りますから」
「君が、選んで、側に居て。一緒に歩いてくれるんだね?」
「……はい。僕が選んだ人です。彼が、爽くんが、その人です。……ごめんなさい」
大きく頭を振ったカオルの目から零れた涙が、テーブルに数滴落ちた。
「ならば、そのテーブルの下でこっそり繋いだ手を、君から離したりしないでやってくれ。
私達ではなく、君しかこの愚か者の魂は救えないようなんでね。もう、あんな姿のバカ息子は見たくない。
どんな君でも、君はコイツの大切な伴侶なんだからね」
カオルの髪を撫でる親父。きっと親父は色んなことを勘付いてる。
調べも色んなところから見てしているんだろう。でも、言わないでおいてくれる。
「爽。お前は、まあ、とんでもないバカ息子だが。人を見る目はあるな。
私のような悪妻は選ばなかったようだし、たこ酢も出汁巻きも美味いしな。
幸せ者なんだから、誠心誠意、幸せにしてあげなさい。私は、来春を楽しみにしようかな」
俺の方を一瞥して、触り心地がいいからか、そのままカオルの髪を撫でてるエロ親父の口角が上がる。
「あ~、オレが郁子ちゃんを嫁にもらえばよかったな~。10歳違っても大人になれば関係なかったな。
そしたら、こんな可愛い息子を持てたんだろうな。勿体ないことをした。
お前、急いては事をし損じる、肝に銘じろ。あ、中井か、迎えに来てくれ」
いきなり酔っ払いの戯言めいたことを言い出し、中井に電話をかけだした。
数分も立たないうちに迎えに来た中井に引き渡した後、カオルがしみじみ言った。
「本当に、とらえどころない人ですね、中舟生のお義父さん」
「……そ、だね。よもや、こんなにあっさり、認めてくれるとは思わなかった」
俺の返しにくすくす、カオルは笑う。笑って噎せる。
田舎の9月の夜は、けっこう、早く秋が訪れる。寒いのかなって、肩を抱き寄せればやんわり凭れてくれ。
「……虫の声、しますね。いいな、風流だなぁ」
「うん、秋だね。あのさ、エッチなことしないから、一緒に風呂に入らない?」
「……しても、いいですよ?明日の運転が辛いの僕じゃないもの」
「誰かさんが風邪ひきさんだから、遠慮しとく。でも、なんか、イチャイチャしたいじゃない?
……あんな熱い告白を親にしてくれた後だし。ね、カオルくんの本心だって思っていい?」
頬にキスしようとしたら、鼻を抓まれた。
「建前かも知れませんよ。僕、カオルですから、健みたいな良い子じゃありませんからね」
ふがふが~って言ってふざける俺から、するりと身体を抜け出し、くすくす笑いで先に玄関へ駆けて行く。
「お背中流してあげます。さっさと来て、お風呂沸かして下さい。給湯器使い方がイマイチわからないんですから」
玄関向こうから、ちょっと頬を染めた小さな白い顔だけ出して、カオルが呼ぶ。
「わ~い。俺も流してあげる~。背中と言わず、全身~」
佐倉家の風呂は普通のユニットバス。
カオルは、水回りやら何やらが現代的になってるって、吃驚してた。この家なら怖くないかもって。
昨日は、何年も静さんしか弾いてあげれてなかったピアノも弾いてくれたし、良いことずくめ。
もしかしたら、俺達は行く行くは、二人でこの家で暮らすのかもしれないね。
◇◇◇◇◇
金曜、朝早く出て、午後には東京でどっかに遊びに行くって決めてたのにも拘らず!
「お掃除しますってば!佐倉さんも手伝って!」
「え~、なんでよ、勿体ないじゃん!」
「勿体ないは、こっちのセリフです。こんないいお天気なら、午後からでも洗濯物が乾きますよ。
佐倉さんは、さっさと掃除機かけて下さいね」
カオルはやっぱり、働き物で。
あ~こんなになるなら、遠慮して悪戯なしで早寝させずに、目一杯抱いときゃよかったかな……。
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