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”32” 猫同士しか知らぬこと ‐1
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side 健
双子だって、思ってた頃
僕が幼い考え方だからなんだけど、僕はずっと、カオルくんと僕は、双子なんだって信じて疑わなかった
残念なことに、身体が一つだから不便だなくらいに思ってて
その頃に、二人だから遊べる遊びを、いつからかするようになってた
まだ、僕等のベッドやソファーでしている会話が英語だった頃に何かの偶然から始まった遊び
出ている方のどちらかが、毎日使う共通のモノを隠して来る
お気に入りのおもちゃだったり、お菓子だったり、本当に些細な物から始まったように思う
どちらかが見ていない隙に、隠して知らんぷりをする
で、後からの方が、探すんだ、ノーヒントで
眼鏡をかけるようになったら、そのアイテムは、殆ど『眼鏡』ですることが多くなった
その頃には、僕達の会話は、日本語になってて
「英語も忘れないようにしよう」って、カオルくんが言うので、
最終的なペナルティーは英会話で相手を負かすまで口喧嘩するってヘンテコなのになってった
(でも、カオル君ルールだから、汚い言葉はダメ、お祖母ちゃんが嫌がることはダメって言われるから本当に難しくって、僕は必死に探したんだ、毎回)
お蔭で、僕は英語を忘れずに済んで、すごく後で重宝したってことはさておき
爽くんに、僕が逃げ回ってて、カオルくんが代わっててくれた半年を教えて貰う前に
眼鏡の行方がわからないって聞いて、ぴーんと来た
これは、いつものアレだなって、久しぶりでワクワクした
で、やっぱり、それは、本棚の隅にあった
あまりに僕が負けるので、カオルくんは、そのうち、探しやすい場所に隠してくれるようになった
本棚の隅は、定番に、よくある場所だったから、すぐに見つけられた
(逆にカオルくんは、僕が考えて考えて、毎回、違う場所に隠しても、すぐに見つけた)
前に持ってた、大学に入学したときの、買ったお金は爽くん持ちで
選ぶ権利を拒否したのが悪いって黒い笑みを浮かべ、一緒に見立ててくれた芙柚兄さんと買いに行った眼鏡の入ってた眼鏡屋さんの同じデザインの専用ケースなんだけど
僕は選ばない鮮やかな赤い皮のケース、僕の持ってたのは黒だった
そうか、壊れちゃったんだよね、あの眼鏡は
入れるのが無くなったんだからケースも捨てちゃったんだろう、爽くんが
ふふふってちょっと笑ってしまう
爽くん、気付かないで、僕達それぞれに、眼鏡を買ってくれたことになる
カオルくんの選んだ眼鏡だろうな
どんなの選んだんだろう
パクッって小さな可愛い音がして、中を開ける
うわ~銀のフレームだ~、賢く見えそうな、カオルくんの好きそうな細みの
似合うのかな、高校の時かけてたお洒落じゃない銀縁のとは全然違うけども
さっそく、鼻柱に眼鏡を乗せる
うーん、今までのぼやけた視界が一気に晴れる
これって目の悪い人にしかわからない爽快感だよね、爽くんにはわかんないって言われた、前に
かけてケースを何気なく見ると、レンズ拭きの布の下に何かがあった
……あるんじゃないかなって予測してたもの
カオルくんから、僕へのメッセージだ
きっと、爽くんに見られたくないから、こんな風に眼鏡を隠しておいたんだと思う
良かった、独りで探しに来て
カオルくんの意思を、受け取れて、良かった
小さなメモ用紙を破いた紙切れなんだけど
そこには、短いけれど、カオルくんのお願いが書いてあった
『佐倉さんを、健が、全力で幸せにしてあげてね
健の全部をださなきゃ、絶対に無理なんだから 頑張れ!』
僕は、きっと、泣かないで頑張れって書きたかったんだろうなって思って
思ったのに、……泣いてた
最後に見た、瓦礫の降る崩れ落ちるお城で、笑って僕に手を振るカオルくんの姿が何度も浮かんだ
早くリビングに帰らなきゃ、爽くんにこのメッセージを見て泣いたこと、気付かれちゃう
頑張って、まずは泣き止んで、爽くんの見ない所に隠そう
そうだ、お守り袋がいい 静さんの巾着袋
元気だった静さんと、最後になるって知らないで、縁側で冷たいお抹茶を飲んでて
「これ、私のお守りだったものだから、健さんが持っていて」って貰ったヤツ
静さんの大事な人達の写真が入ってるんだって
5枚しか入ってないのに、不思議に分厚くて、どうしてって聞いたら
お守りを縫込んであるからだって教えてくれて、「神様のお札を入れたんだから暴いちゃダメよ」って
楽しそうに笑ってたんだよね
きっと、もう、渡せないって思ってて、あの時にくれたんじゃないかなって、今は思う
「あれぇ?薄くなってる……ん?」
しかも、写真も増えてた
なんだろうコレ、あ、多分、僕? 僕の赤ちゃんの頃の写真だ
破いて接いであって、静さんの字で……あ、これ、静さんの口癖だ
僕が何か壊しちゃったとき、いつも怒られるって、ビクッと背を縮めると、いつも言ってくれた
僕は、忘れていたんだけど、あれは、僕が物を壊しちゃってお母さんに怒られて叩かれたりした恐怖を思い出して怯えてしまうことを癒す魔法の呪文だったんだね
爽くんの言う、長い旅を、心の中の旅をしてきたから、わかった意味
きっと、これを見つけたのは、カオルくんだね
薄くなってたのは、そこに入ってた何かとこれが一緒にあったのを出したからだ
そのものが何かって、その時の僕は知らなくて、
そのものの代わりに、この大切なカオルくんからのメッセージのメモを、しまった
これからも、大切な何かを、僕はここにしまうと思う
爽くんに、明かすつもりじゃないものが多くなるかも知れない、僕は……すべてを知ってしまったから
僕の半年間の話を聞いた後、爽くんは、僕の心の中の旅のこと、聞きたいって言うかな
……言う、だろうな
どうしよう、どうしたらいいの、カオルくん
もう頼れないんだよね、頼っちゃう僕だから、逃げ道を奪うのにカオルくんは僕のお城を壊したんだもんね
「独りは、怖いな……やっぱり」
あ~もう、泣いちゃダメなのに、また、涙が出てくる
袖で顔を拭こうとしてハッと止める
静さんの最後に作ってくれた、上等な浴衣の布!こ、これで拭いたらダメじゃないか
あ、あった、僕のお部屋の常備アイテム
ローションティッシュとウェットティッシュのセットがいつもの机のコーナーに
お鼻が赤くならない、ローション入りティッシュ
目を擦らないでも汚れが拭けるウェットティッシュ
贅沢だけど、この二つは、自分に許すしかないんだよな~
ウェットティッシュはアルコールで滲みてびっくりするけど、泣いた気分が飛んでいいんだ
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