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”32” 猫同士しか知らぬこと ‐2
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クローゼットの鏡を覗いて、うん、何とかごまかせそうってなって
あ、このフレームも意外と、似合ってるかも知れないなって、自画自賛してみた
やっぱり、カオルくんはセンスがいいな~、独りで選んだのかな?
それとも、爽くんと一緒にあれこれ言って悩んで選んだのかな?
何となく、前者のような気がした、だって、カオルくんは自分の物は自分で選びたい人だもの
「お待たせ」って僕が、リビングに帰る
あれれ?爽くんらしくなく、ぼんやり僕を見てる
「爽くん?ぼーっとしてる。大丈夫?」
「あ、ごめん。どこにあったの?」
お、いきなり、際どい所を、質問してくるなぁ、さすが爽くん
「うんとね、本棚の隅。カオルくんなんでか、そこに身の回りの物を置くの好きなの。
お気に入りスペースなのかな。マグカップも見つけたよ、サイドボードの隅に隠してあったの」
「ああ、お茶淹れてくれた時に気が付いたんだね。置いててもいいかな?」
「もちろん。大事に取っておく。これもでしょう?カオルくんが選んだの」
僕は、ジンベエザメのぬいぐるみを抱きしめた
カオルくんの話に振って、何とかごまかせたかな?
僕達の、僕の心のことのお話は、まだ、する覚悟が出来てないんだ
「うん。多分、カオルくんは、健にお土産のつもりで買ったんだと思うよ」
そっか、お土産か
爽くんと、外にデートに行ったりしてたんだ、カオルくん
マグカップとこれが海の生き物ってことは、水族館辺りかな
いいなぁ、素敵だったろうな、羨ましい
「そうだね。僕好みだもの。……ね、くっついてお話聞いちゃダメ?」
「相変わらず甘えたさんだ。どうぞ」
僕は、ヤキモチを焼いてて、爽くんにいっぱい甘えたい病が出て来てる
手を繋いでくれるだけなのかな、もっといっぱいくっついていたいのにな……
「抱っこしたい?とか思ってるでしょ?」
あちゃ、やっぱりバレてる
嫌かな、こんな……下んない嫉妬なんかしてる、僕
肩を抱いてくれて、髪を撫でてくれるんだから、満足しなくちゃ、ね
こんなに甘えたがって、また、猫みたいって言われそうだけど
好きなんだ、爽くんにナデナデしてもらうの、嬉しくて擦り擦りしたくなる
これ、これが…猫だって言われる理由……かな?
……抱っこしたいなんて、後ろめたい気分の僕は、言えないから代わりに、させてね
「どこから、話そうかな……」
爽くんの、春からの闘いのお話
僕が、刺されて、刺した人は、僕を中学の時に襲った人のうちの一人で、すぐに自殺しちゃったこと
医学部のクラスの皆に、助けてもらって、大学病院の先生方に直ぐに手術してもらって助かったこと
それから、僕が目覚めなかったこと、目覚めて記憶が無かったこと
でも、それは記憶喪失じゃなくて、解離性同一性障害なんじゃないかって疑ったこと
それが解って、目覚めた僕が、僕、健じゃなくて、別人格のカオルくんだったってこと
最後に語られたのは、僕が、病院で目を覚ました理由
カオルくんが、服薬自殺を図ったこと
しかも、その古い強い睡眠薬は、静さんの巾着袋に隠されていたこと
僕は、相槌を打つことも忘れて、ただただ、そんな大変な日々だった爽くんの辛さが、
申し訳なくて涙が止められなかった
それと、もう一つ
カオルくんへの想いが届いていたことが嬉しくなってた
僕の贖罪の気持ちを、爽くんに代わってもらってたなんて、口が裂けても言えないのだけど
ありがとう、爽くん
爽くんが、僕の大切な人でいてくれて、本当にありがたい
良かった、良かった……
カオルくんが、誰にも言わないで、でも、ずっと望み続けてた願いが叶ってた
カオルくんは、カオルとして、誰かに一番に愛されたがってたんだ
「僕じゃダメ?僕、カオルくんが一番大好きだよ?」って何度も言ってたのに
「健じゃ結局は自己愛にしか過ぎないんだもん。それに僕は別に愛されたいなんて望んでない」って
強がりをいつも言って、気にするなって、僕のことを抱きしめてくれたんだ
僕はずっと、狡くて我儘だったから
カオルくんが、良い思いをすることがほとんどなかった
カオルくんも、優しいから、嬉しいこと、楽しいこと、素敵なことに、
嫌なことが変わるとすぐに、僕と交代し続けてくれた
幼い僕は、それを当然のことだって思ってて、感謝もしなかった
それがいけない事なんじゃないかって、静さん……ううん、あれはお祖母ちゃんだね
お祖母ちゃんに、いっぱい愛して貰えてるって自信が着いて来た頃から、ぼんやりと気が付いて来た
だから、言った 「もう、一人で全部頑張るようにする」 って
その決意の表れに、あのラグを無くそうって思ったんだ
その代わり、僕が我慢して、辛いこと、キツいことして掴んだ、いいものを
ベッドで休んでたカオルくんに、一番いいタイミングで交換してあげれたらいいって思ってた
でもカオルくんは賢いから、僕のそんな思いを、すぐに察知して「くだらない」って
どうしてって僕が詰め寄って、これからは、そうしたいんだって言えば「しつこい」って
「健は黙って、僕に守られていればいいの!」って、終いには怒ってた
独りで頑張って、いろいろ出来るようになる度に、寂しそうな笑顔で僕の頭を撫でて
抱き締めてくれたんだよね、ベッドで
「健は、いつか皆を一緒にした、独りでも大丈夫な、強い健になれるのかもしれないね」って言ってた
その度に僕は泣いた、「独りは嫌、置いて行かないで!ずっと側に居て!」って
カオルくんは「わかった。助けて欲しい時はいつでも頼ってね?」って、撫で続けてくれた
中学のあの、僕がした『殺人』の事が無ければ
もしかしたら、カオルくんは、カオルくんが言ってたようになって
カオルくんの僕が憧れてた部分とかが、そのまま、僕の中に溶けてくれたのかな
僕達は僕達の事を話す時思う時に、起きているときだと、声を出すことが出来なくなる
笑うのも口元が上って、そういう表情をするだけ
泣くのも、知らずに勝手に涙が零れるだけ
どっちも呼吸が苦しくなって初めて、あ、生身の僕は笑ってた、泣いてたって気が付く
苦しくなって、鼻を啜ったら、爽くんが、そっとティッシュを取って僕にくれた
あ~、カオルくんの仕業!
リビングのティッシュ、勿体ないからって、普通のになってるじゃないかっ
これじゃ、お鼻赤くなっちゃうのに~
ずっと、爽くんのお話を聞いていて、ふと疑問が湧いた
凄いな、爽くんの洞察力って感動して聞いてたけど、その切っ掛けってあったのかなって
「爽くんは、カオルくんだって、気が付いた時、どうして自信を持てたの?」
「静さんの手紙って、覚えてる?多分、健が誰かから手渡しで貰ったか、静さんから直接……」
「あ!僕、貰った。爽くんのお誕生日の日に。野田さんがね、静さんから預かってたんだって」
「そこにね……ううん、あれは、カオルくん宛ての手紙だったんだ。でも、健が読んでもいいようになってる。
あれを読んじゃった、カオルくんより先に。だから自信を持って、カオルくんと向き合えた」
『静さん』であり、お祖母ちゃん
佐倉静さんって、自分のお祖母ちゃんながら、すごい人だなって思う
彼女の、シナリオは死んでもなお、僕等を、良い方向に導こうとしてくれる
あれだね、お祖母ちゃんお得意の三国志演義を語る時に声を張り上げる
「死せる孔明生ける仲達を走らす~」だね
致死量の睡眠薬の意味を、僕達は知っている
あれは、本当に、静さんのお守りだった
彼女はずっと、生き恥を晒したくないって人だったんだ
自分から死を選ぶことは、絶対にいけないことだって思う、僕は
でも、彼女はずっと、いつでも死ねる自分で居たかったんだ
僕が弱いばかりに、僕は、静さんに、要らない後悔をさせていた
多分、カオルくんに訊いたら同じ答えが来ると思うんだけど、睡眠薬は、いざ、僕が、本当に壊れてしまった時、僕を殺して自分も死ねる為に持っていたんだよね
それの一部を、カオルくんは、利用した
長く眠って、僕のことを引きずり出すために、お城を破壊しに来たんだ
「……静さんの手紙も、皆の健あての誕生日のプレゼントも、那須にあるよ。
どうしようか、これからの活動拠点は?」
うふふ、お誕生日プレゼントも、カオルくんが貰ってくれたなんて
僕宛でも、カオルくんのものだ、嬉しかったでしょう? 何をもらったんだろうな~
きっと、その風景を思い出してるけど、言葉に出来ないでいる爽くんを、僕に気持ちを引き寄せたくて
頭を上げて、お行儀悪いけど、音をいっぱい立てて、鼻をかんでみた
「泣き過ぎ。大丈夫?」って、爽くんが、僕に笑いかけてくれて
気持ちが僕に戻ったことを、ホッとしてる、浅ましい、僕
「……うん。お茶、淹れ直して来る。どうしようかな。考えられないよ、急には」
「だね。俺も、正直、戸惑いで混乱してるよ。健が戻って来てくれて嬉しい気持ちだけしか、これって強く感じられなくてさ。大学に戻る?」
「ん~。どうしよう。半年も遅れてて追いつくかな、僕。って言うか……」
お茶を淹れながら、僕は、当面、現実的な問題で、お馬鹿さんになってるんじゃないかが心配になる
半年も全然、忘れてた、お医者さんになるお勉強は生易しくないんだ
爽くんは、僕を、いつも買い被るけど、
僕は逆に思ってる、爽くんみたいに器用になりたいって
僕が、爽くんよりも少しだけ成績が良かったのは、なんだかんだで、お勉強にいっぱいいっぱいで頑張ってるからだけなんだ
「って、言うか、何?」
「僕、ちゃんと、覚えてるか心配、お勉強してきたこと」
「あ~健の1、2年の教材、那須だ。どうする?とりあえず、俺のを見てみる?」
湯吞みを渡してあげ、僕は頷いても、心配で仕方がない
高校の頃からの習慣で、普通なら、学年が上がる度、春休みは次の学年の予習を兼ねてテキストをある程度読み込んでる
今回は、静さんのことで、何もかも、どうでもいいって思ってしまってて
爽くんのお誕生日を境にして、やっと、現実的に、毎日をきちんと生きて行こう、
静さんに恥ずかしくないように頑張ろう、爽くんのパートナーとしてもって、考えるのが、精一杯で
教材を一切開かずに、迎えたんだよね、4月9日の日を
だから、そんな風に予習する際に、あれ、ここって、今までの知識じゃどうだったかな?
って、きちんと振り返れていないから、ふわふわしてるんだもん、頭の中が
真面目だって思う?
違うんだ、これは、僕の自信の無さの表れなんだ
僕はいつだって
何にだって
自信って持てないんだ
自分は……ダメな男の子なんじゃないかって
だから、静さんが、いないと怖くなって仕方がなかったんだもの
「貴方は大丈夫、出来ますよ。ほら、ごらんなさい、こんなに!」って褒めてくれて
背を押してくれないと、前に進めない子だったんだ
静さんがいない時は、カオルくんが、
「大丈夫、ダメなときは、僕が代わってあげるから、行ってみよう?」って
みんなには見えない手で、僕を引きだしてくれたから、進めていたんだ
ダメな子、男の子なのに、女の子みたいに、弱くて、って言われると
僕の心は、いっつも折れてしまってたんだ……
爽くんみたいな、何でも出来て眩しいくらいに素敵な彼の側に居ていいのかな
いいんだよって、笑って、爽くんは誓いの指輪の輝く僕の左手を引いてくれる
並居る障害をお揃いの指輪の光る左手で薙ぎ払って
カオルくんも静さんも、もう、僕を導く人達がいなくなって、
二人とも、僕は守られてるままでいいだなんて思ってないのに
僕は、また、爽くんに甘えて逃げようとしてるんじゃないのかな
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