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二話
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ぶつくさ言ってる間にも、時間は過ぎていく。
とんだヘマをしでかした翌日、最低限の荷物をまとめて、記載されていた住所へとやって来た。まったく、あいつも人使いが荒いっつーか、察せなかった俺がアホなのか……。
依頼主の住居は俺の予想通り、大きな屋敷だった。古くから……いや、俺が五十歳くらいの時くらいに建てられたものなのだろうが、手入れは行き届いている。敷地内に塔が建っているのが印象的だ。
「はー、金持ちそうな家……」
正直なコメントが口から洩れた。待たせるのも悪い。アポはフロレンツが取ってるはずだし、あとは会って話を聞くだけ……ならよかったが、住み込み……なんだよなあ。どうにか回避できねえもんかな。
長いアプローチを抜けて扉の前に立ち、獅子の頭の形をしたドアノッカーを鳴らす。間を置いてから、扉が開いた。メイドが頭を下げて挨拶をした。おぉ……久々だな、この感覚。
メイドにコートを預けると、広い応接間へ案内された。調度品を見ると、上流階級の中ではそれほどでもない地位であることが読み取れる。このくらいが扱いやすくてちょうどいいもんだ。下手に地位の高い奴は、エルフに偏見しか持ってなかったりするからな……。俺の事をカタブツだと思って対応しようとしたり、愛玩用の奴隷の話なんかしてきたり。ま、それはいい。
しばらくすると、横にあった大きなドアが開いた。依頼主が来たのだろう。さて、どんなやつかと見てみれば、姿が……ない?
いや待て、そんなはずは……と思って視線を下ろすと、やけに低い位置にある頭部が目に入る。ちょこちょこと移動したそれが、正面のソファに腰掛けて、口を開いた。
「ようこそおいでくださいました。わたくし、主人のアルフレートと申します」
し、主人!!!
驚きすぎて耳が立った。が、口には出ていない。
アルフレートと名乗った人物は、亜麻色の猫っ毛に、緑の虹彩の、まさしく育ちのいいお坊っちゃまーみたいな顔をした少年だった。指輪を鎖に通して、ペンダントのように胸に下げているのが気になった。主人と呼ぶには年齢が低すぎるだろう……。側に控えている執事が気まずそうな顔をしている。ご、ごめんて。
「いえ、驚かれるのも無理はございません。……実は、ある事情により、このような姿に」
丸い目を伏せ目がちにしながら、彼はそう言った。憂いを帯びた少年の顔は、子供特有の儚さを感じる。まあ俺からすれば子供どころか赤ん坊レベルだし、興味はないけど……。……俺の耳が気になるらしい。ちらちらと見られているのが嫌でも分かる。
「あるものに呪いをかけられました。身体が子供のようになる呪いです」
は、と気付く。魔力のようなものを感じると思ったが、これがそうか? てっきり魔術師でもいるのかと思ったが、そうではないらしい。いやまあ、そうでもなけりゃ依頼なんかしねえか……。
「もうおわかりでしょうが、この呪いを解く魔法や、薬を作ってほしいのです」
顎に手を当てて考える。子供の姿になる魔法か……。心当たりはないが、前例くらいはあるだろう。以前カミルの野郎をイモリにしてやった事があるが、だいたいそんな感じだろう。ま、あいつは黒焼きにして食ってやろうとしたら解けたけど。
「やれないことはないな」
「本当ですか!」
声を弾ませて、嬉しそうに身を乗り出した。が、直後赤くなってゆっくり戻っていく。中身は大人だもんな。年甲斐もなくはしゃいでしまったのに、子供の体だから全然違和感ないみたいで逆に嫌、みたいな。……こうして見ると、本当の子供のようなのにな。
「まあなにせ? 俺様は? 天才! だからな!」
「ありがとうございますっ!」
事実だ! 俺様が失敗したことなんて……あるけど。あれはカミルの野郎が邪魔をしてきたんだからノーカウント! アルフレートが笑顔で頭を下げる。
「ああ、そだ、名前。俺はマリウス。よろしく頼む」
手を差し出すと、小さな手が握り返してきた。自分よりもひと回り、いやふた回りくらいは小さいか? 確かにこれじゃあ、色々と困るだろうな……。
「早速で悪りぃが、住み込みってことは作業場はあるんだよな?」
改めて、周りを見回す。こんな豪邸だ、なくても一部屋くらい空きがあるだろうから、その時はそこを使うまでだ。
「ええ、もちろん。ご案内いたします」
明らかに嬉しそうだなオイ……。
立ち上がり部屋を出て、メイドと共に先を行くアルフレートのあとを追う。
しばらく歩くと、長い渡り廊下に差し掛かった。外観からすると、ここはあの塔の入り口付近だろう。ということは、あそこが作業場か?
螺旋階段を登っていく。いくつか部屋があったが、結局頂上まで来てしまった。結構高いな……。まあ、疲れるほどの高さではない。
メイドが鍵を開けて、部屋の中に入る。少し埃っぽいが仕方ないだろう。正面のカーテンを開けると光が差し込み、全貌が明らかになった。
「おー、結構いいじゃん」
外観からでも分かっていた広さはもちろん、一般的な魔術師なら、ここに一生住めるのではないか? そのくらいの設備が整っていた。
「……で、なんで住み込みなんだよ?」
「できるだけ早く、対応して頂きたかったのです。必要なものがあれば、すぐに用意させますので」
ま、そうだよな……。先延ばしにされると困るのはどこの界隈でも同じか。仕方がねえ。
アルフレートが頭を下げ、出て行ったのを確認してから、机に被せられていた埃除けの布を捲り上げる。錬金術用のものらしいフラスコや、ひからびた薬草が現れた。本格的だな……。昔は誰かが使っていたのだろう。
残っていたメイドに声をかけて、他の窓も開けさせる。さっさと掃除して、仕事でも始めますか。
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