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#34
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とは言え、
神城はまだ笹本を受け入れたわけではない。
この先、これ以上の事をされるのは困る。
どうしようかと思っていたが、
神城の心配を他所に、
笹本はそんな事を気にする事もなく言った。
「さて、夕食でも作ろうか。」
あの甘くて官能的な時間がなかったかのようだ。
「え、あ、はい。」
少し戸惑う神城を見て、「ふふっ」と笑った。
「ここまで手を出しといて言うのもなんだけど、俺もそこは順を追っていくつもりだからね。」
その意味が分からないわけではない。
つまりは、
このまま抱いたりはしないということだ。
「はい…」
「何?がっかりした?」
「そんな事はないですけど…」
「そんな事はないんだ。ははっ、素直だね。」
ない。
そんな事はないけど、
それでも良いのかなと思うのだ。
その位、
さっきまでの時間は濃厚だった。
「そういえばキッチンにいたみたいだけど、何か作ってた?」
「いや、まだ何も。部長が買ってきてくれた食材を並べてただけで。」
「部長?」
「あ…いや、恭介さんが…」
「うん。いいね、やっぱり。」
名前で呼ぶ。
それがこんなに特別な事なんて、
不思議だ。
「で、食材を並べてくれてたんだ。実は俺も何を作ろうって決めてきたんじゃないんだけど。何か食べたいものは?」
急に聞かれても困るものだ。
自分で作るならあるもので適当に作るが、
作ってもらうとなれば、
難しいものは頼めないし、
かと言って簡単すぎるものは笹本を馬鹿にしている事にもなりかねない。
「うーん…じゃあ、肉じゃがで。」
「肉じゃが?…いいけど、あれ時間かかるよ?食べるの遅くなるかもしれないけどいいの?」
「はい。なんか、今食べたいのって考えたら、凄く家庭料理が食べたくて。作ってもらう事ってほとんどないから、恭介さんの家庭料理、食べてみたいんです。」
笹本は優しく笑う。
本当にこの人の笑った顔は綺麗だ。
なのにその中には守ってくれる強さも見える。
思えば上司として、
笹本の教育係をしていた時からそうだった。
失敗を恐れて何もできなくなった時、
笹本の存在が勇気をくれた。
笹本が居てくれれば、失敗しても大丈夫。
きっと笹本は守ってくれる。
そう思えば、色んな事に挑戦出来た。
だから今の自分がいるのだ。
「じゃあ、肉じゃがにしようか。作ってる間は休んでなさい。体が万全じゃないんだから。」
そういえばそうだった。
昼に目覚めた時は、
まだ少し重かったのに、
今はもう全然平気だ。
だけど、油断は出来ないので、
この場はお言葉に甘える事にした。
「ソファーで休んでます。なんか手伝える事があったら言ってください。」
「ベッドで寝ててもいいんだよ?」
「いいんです。なんか、今は誰かと一緒に居たいから…」
笹本にこんな事を言えば期待させてしまうのは分かっているのに、
つい甘えてしまう。
それが上司として頼りになるからだけではなくなってきている事に、
神城もうっすらと気付いている。
でもまだ、それ以上深くは考えたくない。
笹本は言った。
神城を置いては行かないと。
それが神城の中で何度も繰り返される。
置いて行かないで。
あの時あんなに願っても、
誰も気付いてはくれなかった。
あの酷く辛い孤独の悲しみを、
誰とも分かり合えなかった。
だけど、今なら、
この人なら…
癒してくれるかも知れない。
それが笹本に対する恋ではないのかも知れない。
ただ、
笹本の優しさにつけ込んだだけかも知れない。
でも、今だけは、
その非情な自分を、
許して欲しかった。
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