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#83
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温泉に来たのだと思えばいい。
そういう場所であれば肌を見せることに抵抗はない。
それと同じ事をしようとしているのだから、
何も恥ずかしがる事はない。
意を決して服を脱ぎ、
腰にタオルを巻いて風呂場の扉を開ける。
うっすらと充満していた煙が音もなく消える。
浴槽に浸かっていた笹本が顔を見上げた。
いつもは少し、
笹本が神城を見下ろしている。
「逃げなかったね。」
「…約束しましたから…」
「真面目だね、おまえは。逃げたってかまわないのに。」
「それは嫌です。それに…一緒に入るのを嫌がってるって…思われたくない…」
恥ずかしいだけで嫌なわけじゃない。
そんな事で関係がこじれてしまうのは嫌だった。
「馬鹿だね、そんな事でどうこう思ったりしないよ。むしろ無理を言ってる自覚は俺にだってあるからね。逃げられて当たり前くらいに思ってるよ。」
「じゃあ…来ない方が良かった…?」
「それこそ本当に馬鹿ってもんだよ。…おいで一緒に入ろう。」
笹本から手を差し出されて、
その手を取ろうと思ったが、
まだ体を流していないと気付いて伸ばしかけた手を止める。
目を泳がせる神城を見て笹本が首を傾げた。
「か、体、流してからでもいいですか?」
神城が聞くと、笹本は一瞬面食らったが、
すぐに声を上げて笑った。
「もちろんだ。あぁ、なんなら俺が洗ってあげるよ。」
「い、いいです!自分でやりますから!」
「はいはい、遠慮しない遠慮しない。」
そう言って浴槽から立ち上がり、
神城の後ろに立った。
「え、ちょっ…本当に…」
「いいから座って。後で俺にもやってくれるだろう?」
それが本来の約束だ。
「…ぅ…はい」
渋々お風呂用の椅子に座った。
すると笹本がスポンジにボディソープを泡立て、
背中を洗い始めた。
「…痒いところある?」
「ないです。」
泡とスポンジが触れているだけで、
笹本の手はほとんど触れる事ない。
なのに触れられている気がして動悸が激しくなった。
「綺麗な肌だね。どうしたらこう育つのかな。女の子でもなかなかここまで綺麗な人はいないよ。」
「そ…うですか…」
それは笹本が何人の女性と肌を重ねてきてそう言うのだろうか。
少なくはないだろう。
昔はそれなりに女遊びはしていたと言うし、
顔も体もいい事だらけだ。
神城の様に白くて細いわけではないが、
筋肉質というわけでもない。
細いと言えば細いのに、
どうしてか男らしさを感じる。
その腕や胸に、意志の強さを感じるのだ。
主張しない、しなやかな筋肉が、
笹本の体を覆っている。
それは女性から見ても随分魅力的な事だろう。
周りが笹本を放っておく筈がないのだ。
その滑らかで長くて整った指で、
何人の体に触れてきたのか。
想像しただけでも胸が痛む。
「何考えてるの?」
笹本に言われてハッと現実に戻る。
「あ…いや…」
「何?言えないような事?」
「そういうわけじゃ…ないんですけど…」
沈黙の間。
笹本は言う事を期待している。
背中に感じる視線はそうだった。
「あの…怒らないで欲しいんですけど…」
「うん。」
「その…恭介さんって…経験が豊富そうだなっ…て…思って…今まで何人の人の体にこうやって触れたのかなって思ってたら…」
「…思ってたら?」
「なんか…嫌だなって…思って…」
ここまで言って恐ろしく羞恥が体を巡る。
こんなわがままを言うべきじゃなかった。
「それって嫉妬…だよね?」
恐らく。
いや、間違いなく嫉妬だ。
今はもう何の関係もない人たちに、
神城は嫉妬している。
しかも本当にあったかも分からない事を想像して。
恋って、
こんなだったんだっけ?
神城は心の闇を感じてそう思っていた。
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