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後悔した夏の日4
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─────そして窮地に立たされている今、その宍戸先輩が俺の目の前にいるのだ。
「よっっっかったぁあああ!先輩で!!」
結局本は次の朝杉山さんに返し、あれ以来先輩とは口も聞いていなかった。
…でも、顔見知りの出現によって俺の恐怖と緊張はいっきに和らいだ。
「あぁ聖君。お早いお戻りだね?」
こんなに蒸し暑いのに、なんて爽やかな笑顔なのだろう。
「授業はどうしたの?」
「今日は突然休講になったんですよ!」
「そうなんだ…」
キラキラした笑顔だ。
こんな風に優しく微笑まれて、俺は心底ほっとした。
薄暗かったアパートの出入り口も、急に明るくなったような気がする。
爽やかな笑顔。
穏やかな口調。
初めて会った時の印象、口下手な文系マッチョかと思ったのだが、それは大誤算だったらしい。
俺が本を奪い取った男『宍戸巧』は、学校では有名人だった。
高身長で見た目もいい。
バスケのサークルにも入っていて、成績も優秀。
家は金持ちで、帰国子女。
不公平な神様は、ますます不平等なのだ。
目立つ容姿で、意識をして周りを見渡せば、構内で見かけることも多かった。
最も、出会いが出会いだったから俺は先輩を極力避けるようにしていたんだけど…
だから実際こうやって話しをしたのは2度目なわけで…変な因縁つけてくる根暗野郎ではなく、爽やか系の人間でよかったと本当に心から安堵する。
「っと、先輩!」
そんなことより、今は俺の部屋に侵入者がいるかもしれないのだ。
「急なんですけど、俺の部屋に寄ってきません?」
驚いたような顔をする先輩。
俺は返事を待たずに、先輩の腕を掴んでエレベーターに押し込む。
「外から見たら、部屋のカーテンが動いたんっスよ!泥棒かもしれないんで!」
まぁ俺の予感的には、ストーカーだと思うんだけどね…
ちょっと強引に先輩を誘ってしまったけど…問題ない…かな?
この人、人は良さそうだけどガタイはいいし、きっと力強い味方になってくれるはずだ。
無理矢理掴んだ腕は、思ったよりも筋肉がついている。
きっと着痩せするタイプなのだろう。
大学に入ってまでサークルで運動するぐらいだから、身体を鍛えるのが好きなのかもしれない。
チラリと上目で見上げると、先輩はちょっと困惑した顔をしていた。
この人も毎回俺に振り回されて災難だな。
かわいそう…
「すいませんね、先輩…」
ニヘラと笑って謝る。
でも、1番可哀想なのは俺だもん。
得体の知れないストーカーがいて不安なのだ。
まだ先輩の腕を掴んでいた俺の手にも、ギュッと力が入る。
暖房の効いていない密室は、酷く蒸し暑くて…
また汗が吹き出てきてしまう。
階数が上がっていくエレベーター
扉が開いてストーカーがいたらどうしよう…
せめて大人しそうな文学少女であって欲しい………
ストーカーの犯人は、実は純粋で内気な女の子で。
純愛小説みたいに…いや寧ろ少女漫画みたいな展開を夢見る可愛い子で…
ああ…でもやっぱり怖ぇえ……
そんなことを考えているうちに、あっという間にエレベーターが止まり、扉が開いた。
ビクビクする俺とは裏腹に、扉の前には誰もいなかった。
それでも尚、俺は怖くて動けない。
ストーカーが階段を使って逃げない限り、まだソイツは俺の部屋にいる可能性があるのだ。
俺の部屋から出てきたストーカーと鉢合わせしたらどうしよう。
可愛い女の子の妄想は終わり、今は得体のしれないストーカーに変わる。
ミステリーは小説だけで充分。
リアルミステリーなんて好きじゃない。
「………じゃあ、俺が先に見てくるよ」
ビビって動けない俺を見兼ねて、先輩は俺の前を歩いてくれた。
俺は終始ドキドキしながら先輩の後ろを歩く。
側から見たら、俺は相当なビビリだろう。
フツメンだけど狙われてる俺が、イケメンを盾にして進んでいるのはなんて滑稽なことだろうか…
でもどうせなら、こういう奴をストーカーすればいいのに。
ああ、もし恋する文学乙女のストーカーがこの状況を見たら、俺ではなく先輩に心惹かれるかもしれないな…
徐々に近づいてくる俺の部屋。
奥から2番目だから、結構遠い。
怖ぇえ…マジ怖ぇえぜぇ…
先輩の背後に隠れ、なるべく扉を見ないようにする。
けれど───ついに俺の部屋の前で先輩が止まる。
「あ、カギを…」
ポケットから出した鍵を、先輩に手渡す…
………あれ?なんか変じゃね?
ガチャリと、ドアが開く音。
どうして先輩……
そう言おうと思った時に、開いた扉に視線がいく。
ああ…またあの手紙が…
前に届いた、俺の盗撮写真。
前は1階にある郵便受けに入れられていたのに…
あの手紙と同じ、『切手の貼られていない封筒』が、今日は部屋の扉の郵便受けに直接投函されているのだ…
「聖君?……中も、俺が見てこようか……?」
入口で立ち止まる俺に先輩が声をかけてくる。
「あ……ハイ…お願いしマス…」
そう言いながら、先輩の背中を凝視する。
何で、この人俺の部屋知ってたんだ?
てか、名前も知ってるし…
それに、俺が今日授業あるって知っていた…?
そもそも、どうしてこのアパートにいるんだ?
……まさか、コイツ…
嫌な予感が駆け巡る。
ストーカーの正体って、もしかして……
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