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この話はそれで終わりだと、嵐は券売機に千円札を一枚挿入した。
後ろで不満そうにしている紫藤は見えないフリ。
手早く食券を二枚買ってカウンターに出すと、その手に合わせる様にもう一枚食券が並べられた。
顔を上げると、にこにこと微笑んでいる紫藤と目が合った。その目はまだ何か言いたそうに揺れていて、嵐は態と嫌そうに顔を顰める。
紫藤という男は、どこぞのイケメンアイドル事務所にでも所属してそうな風貌で、頭もよく切れ、おまけに勘も鋭い。
ただ一つ、少しだけ腹が黒いことを覗けばまさに完璧と呼ぶにふさわしい男。
だからこそ、嵐は雛にまつわる話を彼にしたくなかった。
きっと紫藤は、嵐が雛に対して抱いている気持ちに、本人にさえひた隠しにしてきた恋心に気付いているから。
全てを見透かしているような視線を送ってくる紫藤から目を逸らし、厨房で忙しそうに働ている人を眺めながら右耳に触れた。
人差し指と親指に感じるのは普段から愛用しているピアスの冷たい感触。
これは数年前の誕生日に雛からもらったもの。
淡い水色のクラウンがあしらわれているそれは、少々可愛らしく自分には似合わないと分かっているが、外すどころか寧ろ日ごろから嵐の支えになっている。
他のピアスに比べると少し小ぶりなそれを指先で弄り、定食が出てくるのを待っていると、暫く黙っていた紫藤が口を開いた。
「なんで付き合わないの?」
あまりにも直球すぎる問いだ。
思わずふ、と笑みが漏れる。
こんな風にずけずけと物を言われても、不愉快な気持ちにならないのが紫藤だ。
嵐はピアスから手を離して、顔を紫藤に向ける。
紫藤の興味津々という風な瞳を見つめ、嵐も口を開いた。
「なんで?お前それ本気で言ってる?」
「本気じゃないと思ってんの?」
「あのなぁ、あえてこんなこと言いたくねーけど、俺も雛も男だろ」
「別に俺はそんなくだらない偏見ないよ」
「お前に本当のこと話したとして、どうなるんだよ」
「別に?ただの興味だよ」
「...あいつは、惚れてる奴がいるから」
「好きな子に好きな人がいたら諦めるってわけ?」
「そんな単純な話じゃねーんだよアホ」
「はぁ?俺はそんな理由で諦めてるお前の方がアホだと思うけど。どんな事情があっても好きな人を諦める理由にはならないだろ」
「あ?こっちだって...」
何も知らずにそんなことを言う紫藤に、何か言い返す前に目の前にトレイが三つ置かれた。
「お待ちどうさま」と明るい笑顔を向ける食堂のおばちゃん。
「行こう、雛が待ってる」
紫藤のその言葉を聞く前に、嵐はトレイを二つ持って、どこかの席で待つ雛を探し始めていた。
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