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1-5side嵐
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この世界は、こんなにつまらなかっただろうか。
全ての人間の顔が同じに見える。
街の景色が灰色に見える。
何を食べても、味がしない。
俺は一体、何のために生きているんだろう。
「藍(ラン)さん入ります!」
「よろしくお願いしまーす」
たくさんの人が忙しそうに走り回るスタジオで、適当に頭を下げながらカメラの前まで移動する。
直ぐにメイクさんがやって来て、前髪を軽く整えられ、全身にライトが当たっているのを感じた。
今日の撮影は、どのくらいかかるだろうかと考えていると、たくさんの取り巻きを引き連れた人気アイドルがスタジオに入ってくる。ミニスカートを履いて、白くて細い足を惜し気もなく晒し、にこにこと愛想を振り撒きながら歩く姿は、正にアイドル。きっと誰が見ても彼女を可愛いと評価するだろう。
彼女は既にカメラの前でスタンバイしている嵐に気が付くと、ぱっと花が咲いたように笑った。
「坂井さ~ん、今日はよろしくお願いしますねっ」
長く艶やかな髪から、甘い香りが漂ってくる。オフショルダーのブラウスからは、白く華奢な肩と鎖骨が覗いている。
全てが、周囲の人間を落とすために計算しつくされていた。
でも、残念。俺は落とせねーよ。
「ん、よろしくね」
あまり彼女のことを見ないように、嵐は営業用の笑顔を張り付けた。
それからは、世間が望む藍(ラン)としてカメラの前で笑顔を振り撒く。某メーカーの清涼飲料水の広告塔として。
どの角度で、どういう表情で、どんな仕草でいれば一番自分を良く見せることができるのかが、最近ではなんとなく分かるようになってきた。
「藍くん、いいね~流石売れっ子は違うね~」
調子のいいことを言うカメラマン。
偽りの笑顔で、飲んだこともないジュースの宣伝をする自分。
この場所に本物なんて1つもない。嘘ばっかりの世界だ。
こんなことを言うと怒られるんだろうが、俺は望んでこの世界に入ったわけではない。
たまたま大学の近くでスカウトされて、なんとなくこの世界に入って、いつの間にかこんなに有名人になってしまっていたのだ。
あの子の隣に立っても恥ずかしくない大人になろうと決めて、今はとにかくお金を稼いでいるが、本当にこれで正しいのだろうか。
あの子の笑顔を、泣き顔を思い出すだけでこんなに苦しいのに。
どうして俺は、雛の居場所さえ知らないんだろう。
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