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2-3side雛
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紫藤くんに会った日から半年が経った。僕の日常は変わらない。
毎日会社へ行って、あのお店のお弁当を食べて、気まぐれに部屋を訪ねてくる猫を可愛がり、休みの日は何をするでもなくぼんやりと過ごす。
何も、変わらない。
あ、でも今日は上司に怒られたっけ。
久しぶりにあんなに怒鳴られたなあ。
あんまりトロいのが出ないように頑張ってたつもりだったんだけどな。
夏が終わって、ちょっとずつ気温が下がっていくこの季節は、気分も一緒に下がっていくのかな。
「つかれた」
午後8時、アパートに帰宅した雛は靴も脱がないまま、玄関で膝を抱えて蹲った。
疲れた。
疲れたよ。
止まっちゃうと、もう二度と立てなくなる気がして、ずっと止まらないように歩いてきた。
でも、でもね
もう、つかれた。
こんな人生の先に何があるんだろう。
いっそ、あの人のところへ行ってしまおうか。
笑って迎えてくれるかな。僕のこと覚えててくれるかな。
僕が初めて愛した人の元へ。
最早正常に働いているのかも分からない思考回路で、そんなことを考えていると背後のドアがカリカリと音を立てた。
首だけで振り振り返って、耳を傾ける。
カリカリ、カリカリ…
暫く響いていたその音は、やがて止まって代わりににゃうと短い鳴き声が聞こえた。
声の主は、すぐに分かった。
立ち上がってドアを開けると、そこにいたのは部屋の前で行儀よく座ってこちらを見上げる白猫。青い瞳が真っ直ぐに雛を見つめている。
「今日も来たんだ…おいで」
白猫は、雛がそう声をかけても動こうとしなかった。
「?…どうしたの?」
いつもなら何も言わなくても部屋に入ってくるのに。
不思議に思った雛は、白猫を目を合わせるように屈んで綺麗な毛並みを撫でる。気持ち良さそうに目を細めている様子を見ると、どこか調子が悪いわけではないらしい。
白猫はじっと雛の瞳を見つめている。そして、突然立ち上がり階段の方へと歩いて行った。
「え、もう帰るの?」
いつもと様子の違う彼女に尋ねると、彼女は階段の前で再び止まってこちらを振り返る。
「なに?もしかして…」
雛は白猫の後を追いかけるように外に出た。雛が追い付くと、白猫は満足そうにまた歩きだした。
綺麗に晴れ渡った星空の下を、雛と白猫は同じペースで歩く。少し肌寒い風を感じながら、行き先も分からないまま、彼女の気の赴く方へと。
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