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まだ慣れない駅で、人の波に押されないように改札を目指して歩く。
一歩踏み締めるごとに、期待に胸が膨らんだ。たった1週間だというのに、年甲斐もなくわくわくそわそわして過ごしていたのだから。
きょろきょろと人を探しながら改札を抜け、数メートル歩き、また探す。
どこだろう。人がいっぱいで…、分かんない…
中々見つからない幼馴染に、段々と不安になってくる。
スマホには、数分前の『改札の前にいる』とメッセージ以降は何も受信していない。
「改札の前って…」
いないじゃん…!
この改札じゃないのかな…
電話、でるかな…
通話ボタンを押そうとしたところで、後ろから優しく腕を引かれた。
「雛」
「わ!…びっくりしたあ…っ」
振り返った先にいたのは、先週と同じように全身黒っぽい服装で、キャップを深く被り、眼鏡とマスクをした幼馴染。
「お前それ先週もやってだろ。驚きすぎ」
大きく体を揺らして驚いた雛を見て、目を細めて笑っている。
「ありがと、今週も来てくれて」
端正な顔をくしゃりと崩して柔らかく笑うその顔に、何故か頬が熱くなってしまって、雛は慌てて俯いた。
俳優さんって、ずるい!こんな風に笑うなんて!
そりゃ、女の子は好きになっちゃうよね…
「…っ、早く行こ!」
つい数秒前に見た嵐の笑顔が、何故か頭から離れなくなって誤魔化すように嵐の手を引いて歩いた。
『今度は雛の行きたい所に行こう』
そう言われて、雛がすぐに提案したのは映画館。どうしても見たい映画があった。
映画館の入口のすぐ側に掲示された大きなポスター。その前で雛は目を輝かせて、嫌がる嵐の腕を引っ張っていた。
「早く!チケット買おう!」
「待って待って。まじでこれ見んの?」
「マジです」
「…俺見たくない」
「なんで??」
「なんでって、そりゃ…」
ポスターを一瞥して、嵐は深い溜息を吐き出す。
「…自分が出てる映画なんか見たくねえよ。ほら、こっちとか面白そうじゃねえ?」
そう言って指さした先にあるのは、海外のアクション映画のポスター。今年上半期の全米興行収入1位と堂々と書かれている。
それを見て、雛は思わず頬を膨らませた。
どこでも付き合うって言ったのはらんちゃんなのに。
「…こっちがいい。」
「なんでだよ…」
少しむくれてしまった雛を困ったように見下ろす嵐。
わがまま言ってる自覚はある…けど、どうしても見たいんだもん。
僕の住んでる街じゃこの映画はやってない。
それに、今までらんちゃんに関することは忘れよう忘れようってしてたから、らんちゃんがどんな世界で生きているのかしっかり見てみたい。
「これしか見たい映画ないもん…だめ?」
呟くようにそう言って視線だけで嵐を見上げると、嵐は奇妙な声を上げながら片手で顔を覆った。
「お前それは…」
指の間から見える嵐の顔は、少しだけ赤くなっているように見える。
数秒後、大きな溜息を吐いた嵐が繋いだままだった雛の手を引いた。
「あーもう、分かったよ。行くぞ。」
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