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泣いている雛を連れて行ける場所などなくて、結局自宅へと連れて来てしまった。あの頃よりもずっと広いリビングのソファに雛を座らせ、向かい合って床に膝をつく。
「泣くなって。雛。」
「ごめ、…っ」
「そんなにいい映画だったか?」
「うぅぅっ、…ばか…」
この愛しい人は、次から次へと落ちる涙を、一体誰のために流しているんだろう。
そんな想いを胸の奥に押し込んで、雛の涙を拭う。
「ここ座ってろ。ココアは?」
ココアが好きな雛のために、ココアを常備する癖は今でも抜けないままで、この部屋にも自分が飲みもしないココアが置いてある。やっとあのココアが役に立つ時がきたと、嵐が立ち上がろうとすると、雛がそれを止めた。少し震えている手が手首を掴んでいる。泣きすぎて赤くなった目で、雛が呟く。
「…らんちゃんは、どこにも行かないで。」
あの映画で、結局主人公は死んでしまう。皆が奇跡を願うけれど叶わないまま。
「…行かねーよ。あんなん役だろ役。」
「…でも、悲しかった。」
そう言って、雛はまた涙を零す。
「映画に出てるのは、名前も生い立ちも全然知らない人なのに、顔はらんちゃんだから…なんか、訳わかんなくなっちゃって…。らんちゃんまでいなくなったら、僕ほんとに、もう…っ」
“らんちゃんまでいなくなったら”
気付いてしまった。
その言葉の裏に隠れている人物は、きっとまだ雛の中の奥深くに住み着いているのだ。
何となく、そんな気はしてたけど。まだこんなに惨めな気持ちになれるのか。
やっぱり敵わないのかと、唇をきつく結んでいると雛が泣き濡れた顔を上げた。
「来週も、遊びに来ていい?」
それは思いもがけない言葉だった。
まさか雛の方から、次の誘いが来るなんて。
「忙しい、かな…?」
忙しくなんかない。雛のために、今月は平日しか仕事を入れていない。
「いやお前が、いいなら…」
なんとかそれだけ答えると、雛は涙の跡が残る顔でほっとしたように笑った。
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