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この部屋には数えるほどしか来たことがない。
何でかって、そりゃ好きな奴が恋人と住んでるところなんて来たいわけがない。
至る所に、2人しか知らない思い出が転がっているんだろう。そんなのを見るなんて、嫉妬で頭がおかしくなる。
嵐はあまり部屋の中を見ないようにしながら、片づけをしているであろう雛を廊下で待っていた。
しかし数分前までは忙しそうな雛の足音が聞こえていたのに、突然ぱたりとそれが消えた。
重くて一人では運べない物でもあるのだろうか、とリビングを覗いてみるが雛の姿はない。
見慣れない部屋を雛を探しながら進む。
「雛ー?荷物纏まりそうか?大きい荷物は今度にして取り敢えず要るもんだけ...雛?そんなとこ座って何やってんの?」
キッチンでやっと見つけた雛が両手で大事そうに抱えていたのは、二つのマグカップ。
「...っ、らんちゃん、ごめ...」
雛の手の中にあるそれは、お揃いの細いストライプ柄で、片方はピンク、もう片方はブルーだ。それが何を意味するかなんて考えなくても分かった。
あまりにベタだが、あの2人のことだ。きっと2人で買い物に行って、一緒に選んだんだろう。
やめておけばいいのにその光景を想像してしまって、体温が一気に下がった。
「なにそれ」
雛の笑顔とか、涙とか、思いとか...そんなものは全部どこかへ吹き飛んでしまって思わず口をついた雛を馬鹿にするような責めるような声。
「...なんでもない、よ」
雛はへらりと困ったような笑顔を浮かべている。
そんな雛にもイライラして。
雛を見下ろしたまま、近くのごみ箱を指さした。
「何でもないなら捨てて行けば」
「え...」
「どうせ処分されるんだろうし。まさか持ってくとか言わないよな?」
こちらを見上げる雛の肩が震える。
そして大きな黒い瞳にみるみるうちに溜まっていく涙。だけど泣くまいと我慢しているのか、唇を噛み締めているのが分かった。
雛はそのまま今にも泣き出しそうな顔をして、ゆるりと首を振る。
「わかってる...っ。置いていくから...捨てろなんて言わないで...っ」
その姿を見て、大人げない自分が情けなくなった。
嵐にとっては嫉妬の対象でしかなくても、雛にとってはかけがえのない思い出が詰まった物の筈だ。
やってしまったと後悔してももう遅い。
ついさっき雛に笑ってほしいなんて大層な理想掲げて、結局これだ。笑わすどころか、泣かせてる。自分の醜い嫉妬で。
「...ごめん。雛、ごめん」
そう謝りながら、静かに涙を堪えている雛を抱き締めることしかできなかった。
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