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理由(龍之介side)
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結局ルイが先に気絶して、棚の中の解毒剤を自ら打った。
ふぅ……と深く息をつく。
いろいろと疲れた。
目を閉じて、いっそこのまま泥のように深く沈殿して眠ってしまいたかった。
「……おい」
不意に声をかけられて、顔を上げた。
手術台の上のユージンの声だと気づくまでに、しばらくかかった。
「ヤベェ……オマエいんの、すっかり忘れてたわ」
「敵を放置した挙句、その前で恥ずかしげもなく交わるとは、呆れたもんだ」
「まァ、こっちにもいろいろあンだって」
よっこらせ、と立ち上がると、傷を負った方の腕をグルグルと回した。
痛みはあるが、無茶をした割りには傷は開いていないようだ。
さすがはルイの縫合である。
自分でやったのでは、こうはいかない。
「オマエの傷も相当な無茶しなきゃ、完治は確実だ」
「……無駄話は聞きたくない」
苛立ったように、ユージンが目を細めた。
冷静な声音とは打って変わって、額には脂汗が浮いている。
「そう怖ェ顔すンなって。……そろそろ局麻切れてきてつれェだろ?」
今なんか打ってやる、と棚の中をのぞけば、
「余計なことをするな」
と一蹴された。
「……オマエさァ、オレになんか恨みでもあンのかよ?」
「……」
否定しないのは、つまりはそういうことだ。
「つっても、思い当たる節ねーしなァ……」
どうしたものかと思案した。
「オレとしちゃ、オマエがどっち側の人間なのかが重要なワケだ」
それによって明確に、敵味方に分かれる。
命を狙ってきたことを考えれば、敵と考えるのが自然だが、私怨があるとすれば、味方の中の敵という線もありえた。
どうせなら純粋に敵の方が単純でいい。
味方の中の敵は厄介だ。
簡単に切り捨てられず、常に足元を救われる危険がつきまとう。
ユージンの寝かされている手術台の横の壁にもたれかかり、腕を組んだ。
「とりあえず何がしたいのかだけでも、教えてくれ」
「……ド直球だな」
「回りくどいのは好きじゃねェ」
ニヤリと笑うと、心底嫌そうな顔をされた。
しばらくの沈黙の後、
「……確かめにきた」
ユージンは天井を睨みつけたまま、言った。
深く己と向き合う瞳に、先を急かさずに待つ。
やがてユージンの視線が己のそれと重なった。
「おまえのどこがオレより優れているのか、知りたかった」
「つまり、誰かがオマエにそう言って、オマエはそれがえらくご不満なワケだ」
「……っ」
「別にオレがオマエに優ってるトコなんざなくね? オマエ強ェし、アタマ切れそうだし、度胸もあるし?」
「そうだな。ここ一ヶ月あまり見てきたが、おまえは実際、いい加減で好色で、どうしようもないヤツだった」
「……おい」
「人を惹きつけ、心酔させる力は大したものだが、やるべきことより己の楽しみを優先させるのも気にかかる」
「そりゃ、楽しめなきゃ意味ねェし。結果は出してンだから、誰にも文句なんざ言わせるかよ。多少の遠回りくらい大目に見るのが組織の度量ってモンだろ」
「めちゃくちゃな理屈だな」
「そうか? 欲しいモン手に入れて、やりたいよーにやる。できねーなら、縛りつけてくる檻ごとブッ壊してやるさ」
「組織への裏切り行為だ」
「頭ン中くらい自由にさせろよ。てかウィンウィンの関係保ちながら、どこまで楽しめるか。ソレ追求すンのも案外楽しいモンだぜ?」
「……バカだな。リューに組織論説くほど、無駄なことはない」
見れば、全裸のルイが気だるげに起き上がるところだった。
「オレらとは考え方も感覚も違う。物事を捕らえる次元が違うんだ。停滞する組織に新しい風を吹かせるには、ピッタリの人材だろうけどな。組織がリューを手放さない理由も、その辺りにあるんしゃないのか」
「ホメてくれンのはありがてェが、まずは何か羽織れ。……な?」
戦闘後の興奮状態の中、色気垂れ流しの姿は目の毒だと、近場にあった白衣を投げれば、渋々袖を通して、申し訳程度に前を留めた。
「聞きたいのは、なぜ一月も待ったかだ」
ルイが乱れた長い金髪の髪をまとめ直しながら、ユージンに問う。
「……だな。どうせ殺るンなら、さっさと殺りゃよかったのによ」
ルイがふっ、と笑った。
「……どこまで行くのか見てみたい。リューといると、ついそんな気分にさせられる。気苦労も絶えない反面、退屈もしない。男が一生を賭けて乗る船としちゃ、悪くない」
「……ホメまくりだなァ、オイ」
「ま、一応こんなんでも、オレらのリーダーだからな」
「そうかよ」
「で、オマエはどちら側の人間だ?」
「ああ、オレもソレが知りてェ」
無理矢理しゃべらせるか? とルイが視線で問うてくる。
この部屋には怪しい薬物が山のように置いてあり、自白剤の類も当然のように準備されていた。
だが、そこまでする必要はないと判断した。
慈悲をかけたのではなく、自ら話すとの確信があったからだ。
案の定、しばらく待つと、ユージンがポツリと言い放った。
「ジンを覚えているか?」
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