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正体(龍之介side)
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ユージン……ジン。
「オマエ、もしかして……」
「……ああ、ジンの息子だ」
「……そうか」
言われてみれば確かに面影がある気がした。
「実際には息子ってわけじゃない。遠縁には当たるらしいが、身寄りのないオレを引き取ってくれたのがジンだった」
遠く懐かしい記憶が蘇る。
あの頃、ジンは世界のすべてだった。
会いたくて会いたくて、胸の奥のやわらかい部分が軋むように甘く痛んだ。
「……なら、恨まれてもしかたねェか」
生まれてすぐジンに拾われて、6歳の誕生日まで片時も離れずに二人で過ごした。
その間、幼いユージンは父親の陰すら見ることは叶わなかったろう。
あの溢れるような愛情を注がれた時間があったから、今の自分がある。
別れを告げられた時は死ぬほど泣いたが、すべてをプラスに転換することを教えてくれたのは紛れもなくジンだった。
『おまえがこっちの世界に来れば、いずれまた会える』
朝焼けの空のような憂いを帯びた透明な声と、どこか子供っぽい悪戯心を秘めた瞳が蘇る。
髪を撫でてくれる大きな手の平が大好きだった。
『もちろん、選ぶのはおまえ自身だ。おまえが18になる頃、迎えに行く。その時に答えをくれ』
ジンと別れて以降も組織からは定期的にミッションの依頼が入り、着実にそれらをこなし今に至る。
最初はただ寂しくて、ジンにつながる細い糸を手放したくなかった。
そのうち絶対に見返してやると、意地にもなった。
だが時が経てば経つほどに、どれほどたくさんの生きる術を限られた短い時間の中で教えてくれていたかを知り、深い感謝と愛情を感じるようになった。
未だ組織の深部にアクセスできてはいないが、自分のような捨て子を拾い、あるいは助け育てているのだということは、早い段階からわかっていた。
後ろ暗い部分は相当にあるが、自ら進んで指令に従う程度には刺激的で、やりがいもあった。
『行き詰まった組織に新しい風を吹かせたい。だから、おまえはどこまでも自由に行け』
そう言われて放り出されたが、時折、組織からは思い出したように監視の目や刺客が放たれた。
そのたびに組織内でのジンの立場がけして盤石なものではないことがうかがえて、ヒヤリとした。
変化は時に反発を生む。
自分の命が狙われている以上に、ジンの安否が心配だった。
一番知りたくて届かなかった情報を、ユージンならば知っているはずだと、はや気持ちのままにたずねた。
「あのオッサン、元気でやってンのかよ?」
「……さあな」
冷ややかで頑なな態度。
その向こうに、素直に甘えられないくせに父を慕い、一途にその背中を追うユージンと、仕方ねぇなと苦笑し、深い愛情を抱きながらも忙しい日々に忙殺されるジンの姿が見える気がした。
知っていても教える気はないのか、そもそも知らないのか。
どちらにせよ、今ここで欲しい情報を得るのは無理だろう。
「……ジンの息子なら、とりあえずは敵じゃねェ。そー思っていいンだよな?」
「待てよ」
ルイが納得できないと、口を挟んでくる。
「コイツは本気でおまえを殺りにきた」
「……まァ、本気だったろーなァ」
実力を見にきたと言えば聞こえはいいが、実力いかんによっては殺しても構わない、むしろそれが体のいい言い訳になるとでも考えていたのは明白だ。
「だったら……」
「だから、だろ? 結果的にはオレが勝った。当然コイツを好きに扱う権利がある。だよな?」
「……好きにしろ」
「なら、チームに入ってもらう」
「な…っ」
ルイは絶句したが、この際、無視を決め込んだ。
「……後悔するなよ?」
鋭い眼差しで見据えてくるユージンに、
「しねェよ」
ニヤリと笑って見せた。
少々面倒でも、ジンにつながる糸を手放すつもりなどない。
「オレを狙いてェなら、狙っていいぜ。そういう緊張感は嫌いじゃねェ」
もちろんその分の対価は、いずれ情報で払ってもらう。
「ルイ、部屋に帰してやれ。とりあえず24時間監視はつけさせてもらうが、いいよな?」
フン、とユージンが鼻で笑った。
「そんなもの、オレが来た時からついてるだろ」
「つけるたびに、丁寧に全部外してくれちゃって、ハルが泣いてンだよ。つーわけで、今後は外すのぜってェ禁止な。風呂ン中まで覗かせてもらうから、1人でヤる時はそのつもりでな?」
心底嫌そうな顔でにらまれたが、にらまれるのにもいい加減慣れた。
ふと、ユージンの笑った顔を一度も見たことがないことに気がついた。
いつか全開で笑わせてやると、これまた嫌がられそうなことを意地悪く決意しながら、大あくびをした。
いい加減、横になった方がよさそうだ。
ヒラヒラと手を振り、手術室を後にすると、生徒会役員棟内部にある自室に向かったのだった。
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