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密談(龍之介side)
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「……ファルコンか?」
壁の上半分が全面鏡張りのバーの、一番奥のソファ席に陣取り、レッドアイとスマートフォンで時間をつぶしていた自分の前で、パナマ帽を目深に被った中年の男が歩みを止めて聞いてきた。
とっくに気づいてはいたが、あたかも今気づいたとばかりに顔を上げた。
「……セブンだ」
少し訛りのある英語に、軽く肩をすくめた。
体格が大人並に育って以来、素顔でも年相応に見られるのは稀だったが、今日のようにビシッとスーツを着込み、銀縁の眼鏡でインテリを気取り、多少の化粧で皺を加工すれば、気配次第では40代を演出することも難しくはなかった。
実際、その年齢の大人たちより遥かに世の中の裏表を見てきた自負がある。
立ち上がり、手を差し出した。
その間も相手からけして目はそらさない。
握った手の中で、親指が束の間、特殊な動きをした。
相手もそれを確認する。
うなずき、視線で座るようにうながした。
「……で、ウサギは何匹必要だ?」
隠語での会話に、ありったけ、と低くしゃがれた声で答えた。
取引きの際、容姿以上に邪魔になるのが声だった。
声で身バレなど冗談ではないと、こればかりはかなりの訓練を重ね、不自然にはならない声の潰し方を身につけた。
「豪勢だな。とりあえずは50用意しよう」
「最低100だ。……無理なら他を当たる」
じっと相手の目を見つめた。
揺らがない瞳に、男がため息の中で首を振る。
「初取引でその数字はないだろう」
「実績が必要か? 数字に頼るだけならコンピューターにでもできる」
手間暇かけても、裏切られる時は裏切られるのだ。
「……オレを信用できないなら、話は終わりだ」
用は済んだとばかりに席を立てば、まぁ待て、と引き止められた。
相手の状況はわかっている。
到底取引を断れるような状態にはない。
交渉の主導権は、はなから自分の側にあった。
ギリギリを攻めても落ちるだろうが、この先何度も関わるのなら、ほんの少し色を乗せてやってもいい。
ウィンウィンの関係に持っていくことも、時には必要だ。
「買い値は相場通りでいい。インセンティブを5パー上乗せしよう」
男がわざとらしいため息の中でうなずいた。
「……わかった。1一週間後にまた連絡を入れる」
「3日だ」
「バカな……、最低5日は必要だ」
「……なら、4日やろう」
4日でできると踏んだ。
この辺りの勘を外したことはない。
案の定、折れた。
新たな連絡先を交わし、時間差で店を出た。
月明かりが石畳の道を明るく照らし出している。
最短で一週間はかかるミッションだ。
士郎に会えるのは、まだだいぶ先になる。
ハルトが運転する車に乗り、背もたれにもたれかかると、深く息を吐いて目を閉じた。
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