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託されるもの(ユージンside)
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『久しぶりだな』
画面の中の父親を難しい顔で見つめ返した。
今回は半年ぶりくらいか。
顔を合わせたのは、さらに1年以上前になる。
『さすがはオレの息子だ。見るたびに男前に育つな』
父ちゃんは嬉しいぜ、と満足そうにニカッと笑う。
豪快で開けっぴろげで、相手のことなどお構いなしに、やりたいことをやりたいようにやる。
そのくせ憎めなくて、満開の笑顔と少年のような瞳に、時折、吸い込まれそうになる。
初めて会った時からジンの印象は変わらない。
物心つくまで、孤児の一人として組織が運営する施設で育った。
何の前触れもなく現れて、ダチのガキは自分ガキも一緒だ、一緒に暮らそうとジンは笑った。
断られるとは微塵も思っていない自信たっぷりの顔で、大きな肉厚の手の平を差し出され、気づいた時にはその手を握っていた。
ジンが教えてくれることはすべてが面白く、刺激的で、毎日がキラキラと光輝くようだった。
時折、長く留守にすることもあったが、不安はあっても不満はなかった。
幼心に組織の仕事をおぼろげながらも理解していたのだろう。
『で、アイツの印象はどうだった? わりとやんだろ?」
知らず昂ぶっていた心が冷えていく。
いつもそうだ。
ジンが優先するのも心配するのも、リューであって自分ではない。
おまえを組織の内側からリューを支える存在に育てたいと言われた時。
幼心に、ジンの一番が自分ではないことに気がついた。
なぜリューがリーダーで、自分はその補佐なのか。
納得がいかなかった。
それでいてジンに直接その想いをぶつけるには、プライドが邪魔をした。
リューの情報を得るために、そして自分の方が上だとジンに認めさせるために、組織に深く身を沈めた。
ようやく居場所を突き止め、ぶつかってみたが、やり返された。
認めたくはないが、リューはどこかジンに似ている。
無条件に人を惹きつけるところも、人生楽しまなきゃ損だと思っているところも。
黙って睨みつけると、笑われた。
『まだおまえを落としきれてねェのかよ。アイツも、まだまだだな』
会えば懐柔される程度の人間だと言われたようで、さらに苛立ちが募った。
『あいつが気に食わねェか?』
心配するのでも、腹を立てているのでもない。
明らかにこの状況を楽しんでいるジンに、自分はあんたのオモチャじゃないと叫びたくなる。
ひたすらに囚われ、揺さぶられ、必死になるのはいつだって自分の方だ。
「……何の用だ?」
『あー、長老がちょい、ヤバイらしい』
ポリポリと人差し指で日に焼けた髪をかきながら、眉を上げるジンに、目を見開いた。
組織を変えようとするジンは、利権を守ろうとする古参の幹部達から長年厄介者扱いされてきた。
それを陰で支え、護ってきた長老が危ないとなれば、ジンの牙城が根底から揺らぎかねない。
もとより自分のことをほとんど語らないジンが、こんな重要なことを話している時点で、状況はかなり切迫しているのだろう。
「……しばらくは身を隠せ」
『心配してくれンのか?』
ニヤニヤ笑われて、ギリッと奥歯を噛みしめた。
「……あんたのそういうところが、時々本当に我慢ならない!」
『オマエのそのマジメさは、いったい誰に似たンだかなぁ。もっと肩の力抜かねェと、疲れちまうぞ?」
疲れさせているのは誰だと噛みつきたかったが、負け犬の遠吠えのようで、すんでのところで飲み込んだ。
「……いいから、しばらくは大人しくしてろ」
『それがそーもいかなくてな。どーしてもやっときたいことがあんだ』
「何を?」
『それは言えねェ。この回線だって万全じゃねェし。けどまァ、次世代の若者のために、オジサン世代は頑張ンねーとな』
ジンの瞳の奥に覚悟を見た気がして、ヒヤリとした。
止めろと言いたかったが、言って止まる相手ではないとわかっていた。
『……ンな顔すんな』
ジンの瞳の奥がやさしく揺れた。
鼻の奥が痺れて、痛んだ。
『おまえが思ってるより遥かに、オレはオマエがかわいい』
「……っ」
『そうは見えなかったかもしんねーが、おまえの力をちゃんと信じてる。アイツを託すってことは、オレにとっちゃ組織を託すのに等しいんだぜ?』
「何を……」
そんな言葉は聞きたくない。
これではまるで、二度と会えないみたいじゃないか。
「あいつに……っ、会いに来い」
何とか繋ぎとめたくて、リューの名前を出した。
『……会いてェな。きっと面白ェ男に育ってンだろ』
ジンの瞳が一瞬、遠くを見つめた。
「あんたに……そっくりだ」
『ははっ、そりゃ、ヤベェな。おまえは似なくてよかった』
「ジン……っ」
『だから、ンな顔すンなって。男なら、泣きそうな時ほど笑え。で、無事ココをくぐり抜けたら、3人で飲もうぜ?』
リューを頼むと言って、一方的に通信は打ち切られた。
「ジン……っ!!」
思わず、震える手でスクリーンをつかんだ。
組織に残してきた仲間達に片っ端から連絡を取りたかったが、何がどこでジンの邪魔になるかわからない。
まるでおき去りにされた幼い子供のように無力な自分を呪った。
「……ジン」
しばらくの間、その場に立ち尽くしたまま、動けなかった。
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