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崩してやりたい(士郎side)
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二度と会えないかもしれない。
そう口にするほど状況は切迫しているのだろう。
銃で命をやり取りする現場に、絶対などありはしない。
流れ弾に当たれば、それで終わりだ。
別れを惜しむことはもちろん、下手をしたら遺体に対面することさえ難しいかもしれない。
死んだと人づてに聞かされる。
そんな未来も、けして絵空事ではないのだ。
永遠にこの男を失うかもしれない……そう感じた瞬間、離したくないと強烈に思ってしまった。
行かせたくない。
そばにいろと、恥も外聞も捨てて叫んでしまいそうになり、あえて冷静なフリを装った。
言った言葉自体に嘘はない。
甘ったるい関係など望んではいないし、半年や一年会えなくとも自分のもとに帰ってきてくれるのならいくらでも待てた。
……きっと、待てる。
今も本当に龍之介の無事を願うなら、拒むべきだとわかっていた。
命をかける戦闘を前に、傷ついた身体で無理をさせるなどありえない。
それでも。
こんな風に全身全霊で望まれて拒めるほど大人にはなりきれなかった。
「……おまえの部屋に連れて行け」
龍之介が息を呑む。
「何をそんなに驚いてる?」
「や、オマエから部屋に連れてけとか……、フツーに驚くだろ」
「オレにだって、欲求くらいある」
「……ああ、確かにそンなツラしてンな」
切迫していた声が安堵の中で緩み、濡れていく。
けして逃がさないと食い入るように見つめは視線と、毒のように甘い声に侵食されて、顔ばかりか全身までもが火照っていく。
「……バカが、そんなに見るな」
腕で顔を隠した。
「冗談だろ? オレを想って欲情してる顔を、オレが見ねェでどーする?」
「……っ、少し黙れ」
「……あァ、そういやこの声に濡れるンだっけな」
欲情とか、濡れるとか。
わざと低くささやく声は、もはや凶器と同じだ。
「……いつか声だけでイケるように仕込んでやるよ。オレの声だけに敏感に反応するカラダ……か」
たまンねェな……と耳に流し込まれる自分の方がよほど、追い詰められていた。
このままでは起き上がることさえ難しくなりそうで、張り詰めた下肢の痛みから意識をそらし、龍之介の胸を押して、起き上がった。
「歩くの、ツラくね?」
また抱き上げて運んでやろうか? と、ニヤニヤ笑われた。
下肢の膨らみをあえて指摘してくる意地の悪さに、相手は怪我人だと心の中で繰り返しつぶやいてみるが、やはり怒りが収まらない。
不意に先ほど自分からキスした時の龍之介の驚きようが思い出された。
常に相手の予想の先を行く。
それでこそ龍之介のような男とは対等に戦っていけるのかもしれない。
一方的にいいようにされるなど、我慢がならなかった。
共に起き上がり、怪我のない左手をほら、と差し出されたところで、ピシャリとその手を払った。
余裕の態度を崩してやりたい。
自ら近づくと、視線を合わせたまま、龍之介の日に焼けた頬に指先を滑らせた。
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