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大丈夫だから
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真白は自ら電話を切った。
そのまま両手で顔を覆う。泣きたいのを我慢するため目を押さえた。
佐伯に対してこんな事をしたのは初めてだった。いつだって自分は佐伯と繋がっていたくて、声をずっと聞いていたくて自分から電話を切る事が出来なかった。それに比べると佐伯は割と簡単に電話を切る。だから真白はいつも佐伯に電話を切って貰っていた。それも佐伯の優しさだと分かっている。それなのに、こんなことをすれば佐伯が心配してしまう。分かっているのに真白は、ごめんなさい、と。それしか言えなかった。
あのまま佐伯と会話を続けていたら、自分は泣きだして昨日の出来事をぶちまけてしまうだろう。佐伯の父親の差別的な発言をきっと話す。それは佐伯の父親を貶す事になる。それだけはイヤだった。本当の事でも、真白は愛する人の家族を貶めるような発言をしたくはなかった。酷い事を言われたと罵りたくなかった。真白は泣きだしてしまいそうな自分に大丈夫だと何度も繰り返し、両手を握り合せる。居もしない神様にお願いするように強く強く握りしめた。
仕事を終えて、真白はまた佐伯の家ではなく、自分のマンションに帰ってきた。明日は佐伯が帰ってくる。とにかく佐伯と会わない訳にはいかない。佐伯に会った時にちゃんといられるようにしなければいけない。今日は結局何も食べ物を口にしなかった。食べなくてもお腹が空かない。それなのにひどく体が重い。食べてないのに体重がどんどん増えていっているような気がする。それとも重力が増えてるの?そんなくだらない事を考えていた。余計な事を考えて気分をこれ以上落としたくなかった。部屋のドアの鍵を開け中に入ると、なぜか部屋に明りが点いていた。人の気配を感じて、ベッドに目をやるとベッドに、真尋が座ってこちらを見ていた。
「…真尋」
「おかえり、兄さん」
「……なんでいんの?」
「…話がしたかったから。用があって来た。この前の事もちゃんと謝りたかった…」
真白は喚き散らしたくなった。こんな時になんで?こんなこんなどうしようもない時に。今日、これから自分の部屋で、何も考えないで静かに気分をリセットして佐伯と会いたいのに!なんで?なんで?
真白は無表情に真尋に近寄り、腕を引き立ち上がらせ、そのまま引き摺るように玄関の方へと歩く。今の真白には真尋に心を砕く余裕はまるでない。
「ちょっ! なに!?」
「…帰って」
「え?」
「今日は帰って。また落ち着いたら、連絡するから」
「? なに? 落ち着いたらってなに? なにが落ち着いたらなわけ?」
「…帰って!! 真尋!!」
「なんだよ!! そんなに俺がキライなのかよ!!!」
真尋は自分の腕を掴む真白の手を掴んで思いっきり押し払った。すると、真白の体は真尋が思うよりもずっと簡単に飛んでいく。そのまま床に大きく仰向けに倒れ込んだ。真白が倒れた瞬間、鈍く嫌な音がした。
「え…? 兄さん…?」
倒れた真白に真尋は驚き駆け寄った。真白の顔は蒼白で血の気が全くなくなっていた。そして、後頭部から鮮血がゆっくりと床に広がり血の池が出来始めた。
「うそ! 兄さん!! 兄さん!!」
真白は悲痛な声で自分を呼ぶ真尋に笑いかけた。
真尋? どうしたの? 大丈夫、大丈夫だよ。
そんなに泣かないで、真尋。
そう話しかけたつもりだった。その声も微笑みも、真尋には届かなかった。
そして、真白はそのまま意識を失っていった。
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