アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
008 極限
-
――――全身で受ける風を感じた。
僕はまた 眠っているのだ。
凄まじい倦怠感。目が開かない。
(起きなきゃ……)
目を開けたら、元の世界に戻っているかもしれない。
バスの中か、それとも自室のベッドの中でか……。
「……んっ」
起きようとすると、身体にフワッと浮遊感を覚えた。
(ああ……違う……)
まだ戻れていないのだ……。
重い瞼を開くと、そこには眩しすぎる太陽が輝いていた。
(やっぱり……)
思わずまた目を強く瞑る。
「****?」
声が聞こえる。
理解できない言語だ。
何か応えようと思うが、喉がカラカラでうまく声が出せない。
この世界で目覚めを繰り返すたび、状況はどんどん悪くなっていく。
「ギル……ト……」
必死に絞り出した声は掠れていて、それでも何とか彼の名前を呼ぶことができた。
どうやら僕が眠っている間、不思議な生き物、リドに乗って空を飛んでいてくれたらしい。
僕が起きる気配を察して慌てて飛ぶのを止めて、地に着いてくれたのだろう。
高さへの恐怖を感じる前に、地面に着陸したリドの背から降ろされる。
怠さを堪えて必死に目を開けると、サディのものだろうか……青い布で頭まで覆われていて、灼けるような日の光で肌が痛むことはなかった。
後ろに倒れこむ僕を、ギルトが支えてくれる。
もはや既に、立っていることもままならなかった。
「*******」
何か言われるが、理解できずに首を振る。心配してくれているのだろう。
「大丈夫」と告げようと思ったけれど、もう乾きが限界に来ている。
「サディ……は?」
勿論その質問に対する答えも理解できるわけもない。
ギルトも答える代わりに僕の頭をポンポンと、優しく撫でた。
(喉乾いた……水が飲みたい……)
いつの間に、夜が明けていたのだろうか。
周りを見渡すと、緑陽で綺麗な草原が広がっていた。
リドに乗ることで、かなりの距離を移動することができたのだろう。
さわさわと、揺らぐ草木。
緑が多い分、暑さも幾分かは和らいでいるのか、草原を吹く風はとても心地よかった。
風が吹く方角に目を向けると、その先には巨大な街が見えた。
(水が……飲める……)
まるで、お伽話のような、そんな街だ。
奥の高台に聳え立つのはお城だろうか。
まるで幻覚を見ていると思うほど、それは幻想的な街だった。
(あそこに行けば、水が……)
まともに立つこともできないのに、フラフラとその方向に向かおうとする僕を、ギルトは再び背負ってくれる。
逃げ場のない暑さと乾き。
暑いのはギルトも同じだろうに……原因がわからないとはいえ、こんな状況になってしまっていることを申し訳なく思う。
「ごめんギルト……」
何度も繰り返す謝罪。
気怠い身体をギルトに任せると、彼は足早に街へと向い歩き始めた。
――――――――――
理解できないけれど、賑やかな街並みの声を聞く。 いつの間にか、ギルトに背負われて城門をくぐったらしい。
この夢……というより、この世界の、初めて文明を知る機会だからと、一度だけ薄っすらと目を開けてみたが、布を目深に被らされていて周りは何も見えなかった。
ギルトの声が幾度も聞こえる。
街の人と話しているのか……。
女性の甲高い声……。
「水が欲しい」と独り言のように呟いた。
けれど僕の口から出たのは、ただ息を吐く音だけだった。
――――喧騒。
まさに喧騒が続いている。
「イズミ」
その喧騒の中に自分の名前が含まれ、肩を揺すられていることに気づくのに、どれだけの時間がかかっただろうか。
「イズミ************」
反応しなければと思っていても、指一本動かすのも辛い。
力を振り絞って、声のする方向に視線だけを向ける。
ぼやけた視界に映る青色――サディだろうか。
(ああ……太陽……眩し……)
「***、*****?」
腕を持たれ、ギルトの背から降ろされる。
(水が飲みたい……)
なかなか焦点の合わない目が、ようやく周りの景色を捉えてくる。
この町の人々だろうか……。
髪の色が皆違う。それぞれが、なんと鮮やかなことだろうか。
「*******」
フラつく身体を支えられ、馬車のような乗り物の前に案内される。
銀色の扉を開かれ、どうぞと言うように騎手に手を出されるが、僕の身体は全く言うことを聞かない。
沢山の人に囲まれているというのはわかる。
だがもう目すら開けていられない。
目から齎される目まぐるしい情報にも、ついていけなかった。
動くことができない僕は、支えられながら馬車の中に入れられ、椅子の上に横たえさせられる。
その椅子は冷んやりとして、気持ちが良かった。
暫しドタバタと音が続き、急に静かになった。
動き出す馬車……。
(やっと、これで……)
日の光からも、喧騒からも逃れることができた。
乾きは一向に癒えてはいないが、ようやく暑さから解放されたのだ。
安心した途端、意識が深く深く、落ちていく。
「泉兄ィ!」
「泉にぃちゃん!」
落ちていく意識の中、弟と妹に名前を呼ばれたような、そんな気がした。
次に目覚めた時は、今度こそ元の世界に戻っていればいいのにと……そう心から願った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 212