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009 探人
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この国の名は『リースリンド』。
砂と砂利に囲まれ、枯れた地の唯一のオアシス『水神(リィーリ)の泉』に栄える広大な王国。
蒼伯の騎士サーディーフランと紅伯の騎士ギルトリドは、それぞれ代々国王に仕える一族の若き党首であり、騎士団の長でもあった。
『水神』は、常に水不足に悩まされるこの国に、雨と五穀豊穣、繁栄を齎すと言う伝説の存在である。
しかし水神については、正確なことは一切わかってはいない。
その存在は幾度となく謳われているものの、国が正式に史実を残していないのだ。
最後に残された水神の文献はおよそ500年前の物で、それも正確さに欠ける物ばかり。
〈水神が王の妃になれば、国は潤い発展する〉
僅かに残る文献と言い伝えの中で、これだけは共通の事項だった。
伝承と伝説の存在でしかない水神。
しかし、最後の水神が存在したとされる500年前から、この国が再び水不足になり、枯渇に向かっているのもまた事実なのだ。
そんな中、神祭を司る白の一族の長が「水神が現れる」と予言をした。
けれど、それは占いの範囲と、古い言い伝えでしかない。
明確ではない存在と曖昧な規定により、国中国外から『水神』と名乗り出る者が多発したのだ。
新たな水神候補者が現れる度、謁見の場が設けられ、会合が開かれた。
王と国民もその度に期待し、胸を高鳴らせた。
――しかしそれは、何度も裏切られることになる。
次第に何人もの人間が「水神」と名乗り出始めたのだ。
明らかに王の妃の座を狙う偽者や、諸外国からの間者がその多くを占めた。
しかし厄介なのは、水神の可能性を否定しきれない者たちも多数いたことだ。
仮にも、水神として城に招いた以上、最高級の持て成しをと神官たちも走り回るのだ。
その費用も全て国税で賄う。
それなのに、予言から数年経った今でも、本物と核心できる水神は現れないのだ。
――――――――――
「水神(リィーリ)など必要ない」
そう言い放つ金色の美しい王に、俺とギルは深々と頭を下げた。
――――賢王の立腹もわからないでもない。
俺たちも今まで、幾度となく水神の候補者を連れてきたことがあった。
それは旅の途中で、『我こそは水神であるぞ』とか、『このお方こそ水神様』という申告の元、止むを得ずという形であり、そしてそれは悉く偽者たったのだ。
しかし、今回は今までとは明らかに違う。
ギルトと目を見合わせ、視線を合わせ王の説得を試みようと頷きあう。
「恐れながら、陛下……」
「今回の候補者は……」
「もうよい!」
イズミを擁護する暇も与えられず、言葉を切られる。
「もう、水神はいらぬ」
その目は冷徹で、なんの感情も示していない。
「東塔にいる全ての水神候補者は牢に入れた」
その言葉には、王自身の失望の色が見て取れる。
王が敢えて言わないだけで、「結局、全て偽者であった」と続くのだろう。
「そなたたちが連れてきた新しい水神候補者も、牢に入れておけ」
(やはり、我らが外出中にその法案が決まってしまったのか……)
反論することもできず、もう一度深々と頭を下げる。
枯渇した源泉、流行る疫病……。
数々の水神の偽者たちに、どれだけの金と時間と労力を費やしたのだろうか。
そして偽者とわかるたび、どれだけ傷つき落胆したのだろうか。
こうなってしまった以上、今王に逆らうのは得策ではない。
ギルトが拳を握りしめて震えているのがわかった。
「ハリル……」
悔しそうに王の名を呟くギルト。
ギルトと言えど、公の謁見の場で王の名を略称で呼ぶのは珍しい。
彼も相当動揺しているのだろう。
俺とギルトは、幼い頃から王の友人でもあった。
公の場でなければ、かなり親密に話ができるほど、その関係は良好なものだった。
だが今回の国王の怒りは、友の言葉としても聞き入れられないほど凄まじいのだろう。
「クソッ! このままだとイズミが……」
ギルトの嘆きが胸に刺さる。
(時期が悪かった……もう少し早く連れてこられれば……)
あの少年……イズミが水神かどうか、その確証があるわけではなかった。
枯れた源泉に現れた、漆黒の髪と瞳の少年。
それでもあの少年には、何か特別なものがあるような……そんな気がしてならなかったのだ。
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