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015 王都
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疲労困憊したのだろう、ほどなくして眠ったイズミを抱えてリドに乗り、急いで王都ヴェルトリースへ向う。
「途中イズミが起きそうになったら下に降りてくれ。
俺は先に行って麒車の手配をしてくる」
平行して飛ぶフランに乗ったサディが言う。
そのあとはずっと、お互いが無言だった。
妖獣に乗り、改めて見る紫空。
満天の星。広がる広大なリースリンドの大地。そして、背に感じる少年の存在。
――それはどこか、洗礼された空気が漂っていた。
やがて紫色の空がだんだんと明るみがかり、星は光で霞んでくる。
「世が明けるな……」
紫空の空を一晩中見続けるような経験ができるなどと、今までは思いもしなかった。
やはり、夜明けには到底間に合いそうにもない。
リースリンドのこの時期の太陽の光は特に厳しい。今日もまた、雲ひとつない天気だろう。
その光に晒される覚悟をしなければいけなかった。
(暑いな……)
日が昇ってすぐ、腕の中のイズミが身を捩る。
恐らく、もうすぐイズミは目覚めるだろう。
「サディ、そろそろ起きる」
「わかった。俺は王都へ向う。あとは頼んだ」
ゆっくりと下降するリドと比例するように、いっきに王都へ加速するフラン。
王都までの距離は残り僅かだったが、イズミが妖獣に乗るのを怖がるのだから仕方がない。
今思えば、ここまで休憩を挟まずに俺たちが来れたことも、あの朧の血を飲んだ効果たったのだろう。
「もう少しだ……」
この子を必ず王都へ連れていかなければならない。
「大丈夫か?」
辛そうに顔をしかめたイズミが目を開ける。
意識が完全に戻る前にリドから降りる。
「ギル……ト……」
応えてくれたが、イズミはもう一人では立っていられない状態だった。
太陽から肌を守るため、サディのマントをきちんと被らせる。
暑くて可哀想かもしれないが、この肌の白さで日の光には耐えられないような気がした。
「もうすぐ王都だ」
言葉は理解できないはずなのに、イズミはブンブンと頭を振る。
それはまるで、行きたくないと拒絶しているようだった。
蹌踉めくイズミを再び背負う。
肌越しに熱が伝わり、暑さに参ってるのではないかと不安になった。
「急ごう。サディが先に行って待ってる」
早くイズミを暑さから解放してやりたくて、俺は足早に城門へと向かった。
――――――――――
「ギルト騎士団長! おかえりなさいませ!」
門兵が恭しく挨拶をするのが煩わしい。
歩いて街門を潜ると、要らぬ歓迎を受けることになる。
「ギルト騎士団長様!」
「外交ご苦労様ですギルト様!」
次から次へとかけられる言葉。
明らかに不機嫌な顔で応える。
「今はそれどころじゃない。話しかけるな」と態度で示した。
行く手を阻まれることはないが、背負っている子供の存在を好奇なまでに凝視されているのがわかった。
暫く早足で歩いていると、賑やかな町並みを割くように麒車こちらに向かってくる。
(サディだ……)
女たちの甲高い悲鳴があがる。
「サディ騎士団長様と、ギルト騎士団長様よ!」
「紅騎士と蒼騎士お2人揃うなんてお珍しい!」
いつもなら俺と違い紳士的に振る舞うサディが、女には脇目も振らず心配そうにかけよる。
「イズミ、大丈夫かい?」
イズミは相当身体が辛いのだろう。
俺の背でずっと微動だにしていない。
「もう少しの我慢だよ」
サディが手を添え、俺はゆっくりイズミを背から降ろす。
イズミは懸命に目を開いたのだろう。一瞬麒車を見て驚いた表情になる。
だが、指先一つ動かせないまま、また瞼が閉じてしまった。
(もう限界か……やばいな……)
サディと俺とで、イズミを麒車に乗せる。
麒車の車の部分は太陽光を遮断する効果がある。
内部の温度は大分低くなっているから、恐らく中は過ごしやすいだろう。
幾ばくか穏やかな表情になったイズミを見て安堵する。
(これでやっと、イズミを城に連れていける……)
城に着けば、きちんとした治療を受けさせて貰えるだろう。
麒車のドアを閉め、ゆっくりと麒車は走りだす。
その後を、俺はリド、サディはフランに乗って追いかけた。
その場で一部始終見守っていた人々は、蒼騎士と紅騎士が守る水神候補の出現の噂で持ちきりとなった。
しかしそれは、王が既に出していた法案を知るが故の、憐れみの言葉でもあった。
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