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016 牢獄
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目が覚めた時、今度は別の夢を見ているのかと思った。
硬い床の薄暗い部屋。
腐敗した臭いが漂う。澱んだ空気。
天井近くに窓があり、そこからしか光が差し込んで来ないのだ。
その光が伝える熱のせいで、部屋は蒸し暑い。
(ここはどこ……?)
光に慣れるまで時間がかかった。
ようやく窓を見上げると、そこには鉄格子のようなものが嵌められている。
身体を起こそうにも、怠くて言うことをきかなかった。
怠さ、喉の渇き、そして茹だるような暑さ……。
(まだ同じ世界にいるの……?)
それなら、サディとギルトは何処にいるのだろう。
確か彼らに馬車のようなものに乗せられたはずだった。
彼らもここにいるのだろうか……?
――――いや、違う。
朦朧とした頭で思い出す。
彼らが、ここに連れてきたのた。
首だけ捻り、周りを見渡す。
三面は、土の壁。
残りの一面は、鉄格子が嵌められた扉がついている。
(牢屋みたい……)
せめてその扉から様子を伺おうと、必死に這って移動する。
相変わらずの暑さだった。
室内なのが救いだが……空気が動かない分、熱が篭っている。
血生臭く澱んだ空気のせいで、息をするのも辛い。
少し動くだけでも、汗が出てくる。
ようやく鉄格子まで辿りくと、そこから様子を伺うことができた。
やはり、ここは牢屋のようだ。
少し離れた所に、看守らしい男もいる。
鍵は南京錠に近い形をしているが、見たことないものだった。
格子を両手で掴み前後に揺するが、弱りきった僕の力ではビクともしなかった。
僕の荒い息遣いと、僅かに揺すった鉄格子の音で、看守がこちらに気づく。
『あ……の……』
まだ夢と同じ世界なら、言葉は通じないかもしれない。
看守が近づいてくる。
こんなに暑いのに、看守は汗すらかいていない。
この国に適用してるのか、それとも彼が強靭なのか……。
それに、いくら僕が地べたに座り込んでいるとはいえ、この男もかなりの巨大な体型だった。
『どうして……僕は牢屋に……?』
そう聞いても、無表情な目で見つめられるだけで返事は返ってこない。
やはり、言葉が通じないのだろうか。
『サディと、ギルトは……』
聞くと同時に、警棒のようなもので格子を掴んでいる指を叩かれた。
『……ぃ!?』
「貴様のような謀反者が!! 騎士団長様のお名前を呼び捨てにするなど無礼な!!」
急に怒気を孕んだ声で捲し立てられ、今までに殴られたことのない僕は状況が理解できなかった。
『あ……ああ……』
指を見ると、左手の二本の指の爪が剥がれ、右手は親指以外の手の第一関節と第二関節の部分の皮がデロデロに剥がれ落ち、肉が見えて血が出ていた。
現代の日本に生きていて、故意でこのような怪我……暴力を受けることは、普通は起こらない。
真っ赤な鮮血が手を伝い、床へと溢れる。
――昔から穏やかな子供だったと思う。
友人と殴り合いの喧嘩をした記憶もなければ、親に叱られて手を挙げられたこともない。
けれど、文化の違いで陥ったこの状況が、かなり悪いものだと理解した。
理解したけれど、なかなかこれを受け入れることはできない。
真っ赤な血。徐々に襲ってくる指の痛み。
今まで経験したことない、鋭い痛みだ。
『あ……ああ…………』
剥がれた爪は、また生えるのだろうか。
カタカタと全身が震え、涙が溢れてくる。
必死に格子から遠ざかるように、重い身体を引き摺り、後ずさる。
鉄格子の外の看守がボソボソと何かを喋っている。
どうやら看守の仲間が集まって来ているらしい。
「水神候補者は皆、反逆罪という法令が可決された。候補者でないと嘘を認めれば偽証罪で労働と罰金に軽減される! 極刑は免れるぞ!」
突然大きな声で、一人の看守が言う。
怒鳴るような声。
(どうしよう……こわい……)
暑さで出る汗とは違う……冷や汗が滝のように溢れてくる。
「反応なしか。皆偽証罪を選ぶというのに……大人しそうな面をして相当覚悟を決めて来ているのか」
苛立たった様子で看守が言う。
『やっ……な……に?』
状況が読み込めない。
「理解できない言葉を喋っているな。言葉が通じない水神候補者様らしい」
「でもサディ騎士団長と、ギルト騎士団長の名前を出してきたぞ」
僕を殴った看守も忌々しそうに吐き捨てる。
「媚びる相手をわかってるということだ。言葉が通じない者は、拷問にかければ大抵すぐ尻尾を出すぞ」
別の男の声が聞こえるが、姿は見えない。
カラカラと下卑た笑いが木霊する。
「王が決めたことだ! この国に水神は必要ないのだ!!」
会話の内容など一切わからなかったが、自分に危機が迫っているのだけはわかる。
でももう、身体は言うことをきかない。
逃げ場も、逃げる手立ても、逃げる体力もない。
ガチャリと扉の開く音が聞こえた。
自分とは比べものにならない、屈強な男が……四人……五人……。
身長も体格も僕とは……僕が知ってる常識の範囲より遥かに外れて大きい。
サディやギルトも大きかったけれど、あの二人とは明らかに違う。
ゆっくりと近づいてくる彼らは、恐ろしいほど敵意の眼差しを持って僕に迫ってきている。
死をも覚悟する恐怖……。
もしかすると、もっと恐ろしいことが待ち受けているのかもしれない……。
恐怖と絶望で目が眩む……。
『た……すけて……』
言葉が通じない相手に懇願したところで、無意味なこと……。
男たちの手は、すぐそこまで伸びてきていた――――
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