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021 困惑
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(息ができない……)
何も見えない、深い暗闇。
動くこともできず、痛みだけが身体中を駆け巡る。
「『*********』」
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
わからぬまま悲鳴をあげても、救いは訪れない。
――響く怒号。
絶え間なく与えられる痛み。
(怖い……助けて……誰か…………)
指先が痛い。
気持ち悪い。
怖い。
死ぬのだきっと。
このまま、ここで……。
この、牢の中で…………。
それが悪夢だったと気づくのに、とても長い時間を必要とした。
強い目眩。
激しい動悸。
汗がじっとりと滲み、息が上がる。
『ゆ……め……?』
身体中に、夢とは思えないほどリアルな感覚が残っていた。
(生きてる……?)
涙で歪む視界が、徐々に鮮明になってくる。
(……僕、ちゃんと生きてる……)
動機を抑えるように胸を掴む。
夢から覚めたことを実感するように、深く呼吸を繰り返した。
(大丈夫……ただの夢だ……)
呆然と見つめる、高い天井。
『ここは……?』
天蓋のベッドはまるでお伽話のようだと、どこか遠いところで考える。
『いっ……!!』
高熱が出た時のように、全身に走る痛み。
身体を起こそうとベッドに着いた手にも、不自然な違和感があった。
『なに……?』
手には特に鋭い痛みを感じたが、まじまじと見てもその原因となる傷など見当たらない。
ゆっくり指を曲げ伸ばしするが、問題なく動かせるようだった。
本当に一体どうしたのだろうか。
記憶が曖昧で、何があったか思い出せない。
夢を見ていたはずなのに、いきなり変な世界に迷い込んだのだ。
ギルトとサディという背の高い男に助けられ、交互に背負われながら移動して、大きな街に来た。
それとも、それも夢だったのだろうか。
――――何か大切なことが、記憶から抜け落ちているような気がする。
どこからが夢で、どこからが現実なのだろうか。
これが現実なら、一体ここは何処なのだろうか。
身体に感じる痛みは、あまりにもリアルだ。
『夢……じゃない……?』
痛みと怠さを堪えてゆっくりベッドから起き上がる。
目覚めたこの部屋は、西洋のような家具が並ぶ綺麗な広い部屋だが、窓が一つしかなく、酷く閉鎖的だった。
身に着けているのは薄いオレンジの民族衣装のような服で、肌触りの良さから上質のものだとわかった。
サイドテーブルには見覚えのある制服が綺麗に折り畳まれている。
持ち上げて見てみると、ボタンが引き千切られて失くなっていた。
『いっ……』
また全身と、頭が痛む……。
(何だろう、一体……)
何もかもがわからない。
息苦しくて、外の空気が吸いたかった。
フラつきながら、窓に近づく。
目眩を感じる。
(きっとお腹が空いているせいだ……)
普段から食事に拘らない自分がこれだけ空腹なのだ。一体いつから食べていないのだろう。
――たくさんの疑問が渦巻く。
窓に嵌められた鉄格子に、強烈な嫌悪感を覚えるが、どこにいるかを見たくてその隙間から外を覗いた。
眩しい太陽の光。
ここはどこか高い建物ののようだ。
広大な自然。
遠くに見える街並み。
(日本じゃ……ない……?)
その景色もまた、見たことのないものばかりだった。
(もし、サディたちのことも夢じゃなかったら……)
背の高い男たち。
全く伝わらない言葉。
見たことのない生き物。
不思議な空の色。
(ここ地球ですらないのかも……)
不可思議な世界に迷い込んでしまったような不安。
わからないまま、視線を下げると――――
『ゎ……!!』
ここがあまりにも高い部屋だったと知り、思わず息を呑む。
『怖っ……』
反射的に、鉄格子を掴んだ。
――――「『*********』」
頭に響く、記憶の中の怒号。
『ひぃいっ!!』
強烈な、指への痛み。
後ずさると同時に、足元を取られて転倒する。
『ひぁあっ!!』
腰が抜けたのだ。
わけのわからない、言いようのない恐怖に支配される。
(なんだ……?すごく恐い……)
『うぅ……』
そのまま起き上がれず悶えていると、部屋の扉がガチャリと開いた。
扉の開く音にも、無意識に萎縮する。
「イズミ……!」
『っっ!! サディ! ギルト!』
現れたのは心配そうな顔をした二人だった。
「イズミ! よかった……目が覚めたのか!」
相変わらず言葉はわからないが、二人は同時に倒れた僕に駆け寄ろうとした。
――――「『*********』」
『ひっ……!!』
断片的に思い出させる記憶。
倒れた状態で長身の男たちを見上げる……。
思わず身体が強張るほどの既視感。
『ぅ……ぁあ……』
急に近寄られると、言いようのない恐怖に襲われるのだ。
僕の怯えを感じ取ったのか、サディとギルトは駆け寄るのを躊躇った。
『あ……』
傷ついたような顔で固まる二人。
『ご……ごめんなさい……』
謝る僕に――少し離れた所で片膝をつき、サディが手を差し伸べてくれる。
『サディ……』
まだ恐怖が拭えない。
指先が小刻みに震えていた。
痛む指先を我慢して、這うようにサディの元へ行くと、途中で手を取られてゆっくりと立たされた。
『あ……りがと……』
相変わらず、サディもギルトも大きかった。
首を相当上げなければ視線は合わさらない。
「痛いところはない? 大丈夫……?」
優しい声でサディが言う。
『ここはどこ……?』
返事が帰ってこないとわかっていても、彼らに問い掛ける。
「よかった……イズミ……」
涙目になって僕を抱きしめるサディを見て、凄く心配してくれていたということはわかった。
「すぐ助けに行ってやれなくて悪かった」
ギルトが頭をクシャクシャと撫でてくる。
そんな二人に、先程まであった恐怖はもう感じなくなっていた。
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