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025 戸惑
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食事も終わり、部屋から出ようとした時だった。
「サディ、ギルト、これからイズミを水神(リィーリ)のへ連れて行く」
確かに金髪の男に名前を呼ばれたのだ。
食事の時も殆ど目も合わず、てっきり僕には興味がないのだと思っていた。
しかし男はそれ以上は何も言わず、奥の部屋へと進んで行く。
(あれ? なんだろう……)
素っ気ないその態度に、何故名前を呼ばれたのかわからなかった。
ぼんやりと男が去った後を見ていると、サディとギルトに背中を押された。
『一緒に来ないの……?』
金髪の男の言葉の中には、彼らの名もあったはずだ。
動かない二人の手を取って同行を促すが、やんわりと拒否されてしまう。
そして早く行けと動作で促される。
身分が高そうな――ましてや初対面で言葉も通じない相手と二人っきりになってしまうことに不安を覚えたが、待っていてもサディとギルトは動こうとしない。
仕方ないので、黙って金髪の男の後を追うことにした。
身体はまだ怠いけれど……そんなことは気にならないほど、声を掛けられたことが少しだけ嬉しかった。
一緒にご飯を食べたのも、サディやギルトと食事をするついでに同席させて貰えただけだと思っていた。
話をしている最中に意識を失うような、ひ弱な奴だと無視をされているのだとばかり思っていた。
部屋の奥に進むと、その次の扉の前で男が待っていた。
(なんだろう……)
新しい部屋の扉が開かれる度、その豪華さに圧倒される。
飾られる絵画も、調度品も、今まで見たことないものばかりだった。
それでも、それが素晴らしいものだということはわかる。
(やっぱり、お城なのかなぁ……)
立ち止まる男、その背にあるのは重厚な黒い扉だ。
近寄り難い雰囲気を持つ男に、近くまで行っていいのか躊躇う。
真正面から金色の目に見据えられる。
初めて会った時は他に人がいたけれど、今は二人きり。
彼は僕を見てる。
胸が苦しくなった。
直視するのが辛いくらいドキドキしているのに、目が離せない。
「おいで」
男が片手を上げる動作をする。
それで呼ばれているのだとわかった。
恐る恐る男の横に歩み寄る。
近くにつれて、鼓動が耳まで聞こえるほど大きくなる。
かつてないほど緊張していた。
「ここからが南塔だ……」
無表情で男が喋る。
相手は怒っていないだろうか。
歩くのが遅いと言われていたらどうしよう。
近くまできて、改めて男を見上げる。
背はギルトと同じぐらいだろうか?
遠目で見ている以上に、近くで見ると綺麗だった。
金色の瞳がすっと細められる。
彼はゆっくりと、微笑んだ。
(わぁっ……! 笑った……!)
近づき難い雰囲気を醸し出していた男の笑顔。
神々しくて、見つめられると恥ずかしくて居た堪れなくなる。
(ど……どうしよう)
何か言った方がいいのだろうか。
悩んでいると、また子供のように頭を撫でられる。
(すっごいカッコイイ……)
綺麗でカッコよくて、偉くて大っきいなんて、凄く羨ましい。
「歩くのは辛いか……?」
その男が、どこか悲しそうに語りかけてくる。
(ああ……なんて言っているんだろう……)
頭をを撫でている手が、僕の頰に降りてくる。
咄嗟に振り払ってしまいたい衝動にかられたけれど、実際はビクリと身体が動いただけだった。
『ごめんなさい……わからないんです……』
撫でられる頰、それすらも恥ずかしさを助長させる。
やめてもらおうと、男の腕にそっと手を添えた時だった。
『う……わぁ!!』
突然、腕を引かれ抱き寄せられた。
まるでお姫様抱っこのように抱きかかえられたのだ。
今までだって充分恥ずかしかったのに、急に抱きしめられて、顔から火が出そうだった。
『や、やめてください』
腕を伸ばして抵抗はしたものの、やはり高いところは怖い。
『ぎゃっ!』
一瞬フラついたような気がして、咄嗟に彼にしがみついてしまう。
男が笑ったのが、髪に感じる息だけでわかった。
――長い渡り廊下を男は進む。
黒い扉の先に待っていたのは、今までで一番長い廊下だった。
僕は大人しく抱きかかえられたまま、彼にしがみ付いていた。
高いところが苦手なのもあるし、身体が痛いのも事実だ。
どこに連れて行かれるのかわからないけれど、流石に痛む身体でこの廊下を自分で歩くのは難しかっただろう。
金髪の男は、とてもいい匂いがした。
抱きしめられた分視線も近くなり、その綺麗な顔が近くにあるのを意識してしまう。
建物も立派で、渡り廊下の窓からは外の景色が見えるのに、彼が気になりそれどころではない。
あまりにも美しくて秀麗なその姿を思わず凝視してしまう。
こんなにも誰かに見惚れるなど、初めての経験だった。
――男に抱きかかえられて辿り着いた先は、不思議な紋章が施された扉。
開けるのに必要なのは、特殊な形の鍵だった。
そしてその鍵が不思議な光を発している。
(電気……かな? 変なの……)
そういえば……ここには機械的なものは何もないではないか。
それなのに、何故窓もない部屋が明るいのか……。
何故外は灼熱なのに、室内は暑くないのか……。
ここは不思議なことばかりだった。
男は、それを光る鍵を鍵穴に差し込む。
――――そして、僕はこの世界で最も不思議なものを見る。
ガチャリと音を立て、扉がゆっくりと開いた。
扉の先は眩しいほどの光で、思わず腕で目を覆う。
そこは、部屋の中なのに緑が茂っていた。
天井には青空が――――
部屋であって、部屋ではない、その不思議な空間。
その中心に大きな噴水があり、水がとめどなく溢れていた。
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