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037 湯殿
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「わぁ! 凄い!」
食後に案内された風呂は東塔の一角にあった。
その習慣がないと言う割に、お風呂は随分と立派だった。
半分埋め込み式の浴槽はまるで温泉のようで、これなら楽に十人くらいは足を伸ばせて入れるだろう。
「イズミ様、新しいお着替えはこちらにご用意してあります」
わざわざ僕をここまで案内してくれたジーナが告げる。
「ありがとう。ごめんねジーナ」
ジーナはハリルの側近で、国に関わる仕事も多くやっているらしい。
ハリルはそんな忙しい人を、僕がお風呂に入るための道案内として呼んだのだ。
手伝うと申し出たお付きの女官たちを必死の説得で全て追い出し、ようやく一息つく。
シャワーのようなものはないから、身体を洗うのには張られた湯を使うのだろう。
湯船に近づくと、大理石に似た変わった石が綺麗に切り取られ、それが浴槽となっていた。
それは荒地にあった、石の壁とよく似ている。
あの壁には変な模様が書いてあったけど……。
(あれ? もしかしてこの国の言葉だったのかな?)
なんと書いてあったのか、今となっては思い出せないけれど、確かに今勉強している文字と似ていたような気もする。
「まいっか!」
それよりも、今はお風呂だ。
手を入れると少し熱めのいい温度だった。
「やっぱお風呂って最高だよなぁ……」
ようやく湯船に浸かり、ぐーっと足を伸ばす。
「ふー……極楽極楽〜……」
(これなら毎日でも入りたいな……)
そう思ったが、この国ではそれも難しいのかもしれない。
これだけの水の量だって、用意するのはきっと大変だっただろう。
元の世界にいた頃が懐かしい。
まだここに来てく数日なのに、もう何年も経ってしまったような気がする。
風呂に浸かりながら、故郷に思いを馳せる。
(みんな、心配してるかな……)
離れ離れになってしまった家族。
優しい父と、綺麗な母。
元気な弟と、可愛い妹。
――毎日が幸せだった。
当然のようにいた彼らが、今では遠い存在になってしまった。
油断をすると、涙が溢れてくる。
(帰りたいな……)
声に出して彼らの名前を呼んだら、きっともっと虚しくなるだろう。
グッと言葉を堪えて、僕は目を閉じた。
――――――――――
さて、どうしたものか……。
今僕は東塔の貴賓室に向かう階段の前で、一人佇んでいる。
ここまで付き添ってくれたジーナは「私はここで失礼します」と無情にも去ってしまったのだ。
勿論「背負って部屋まで連れてって」なんて図々しいことを頼むことはできなかったけど。
ついに、一人で部屋に戻る時が来たのだ。
東塔――先の見えない螺旋階段を見て、腹をくくる。 今迄部屋を出る時も、戻る時も、サディとギルトに背負って貰っていたこと自体、彼らの好意に甘え過ぎだったのだ。
最上階のあの部屋へ向かう階段は、昇降がとても辛い。
ただでさえこの国の人は身体が大きくて、階段の段差も高く非常に疲れるのだ。
でも、文句ばっかり言っても仕方がない。
サディとギルトは、僕を背負って上り下りしてるのだ。
「よし。頑張ろう!」
湯冷めしないうちに部屋に戻るためにも、僕は早速階段を上がり始めた。
しかし――これは想像していたのよりも辛いと、早くも根を上げる。
どれくらい上ったのだろうか。
結構上ったような気もするが、まだ半分もいっていだろう。
一段上がる度に、太ももや脹脛(ふくらはぎ)が痛む。
元々そんなに体力などない部類の人間だが、だからといってこんなに疲れるものだろうか。
ここ暫くの城の甘い生活で、身体が鈍ってしまったのだろうか。
心臓破りのような階段には、どうやら耐えきれそうにもなかった。
「部屋に着く前に朝になりそ……」
思わず声に出して愚痴る。その声ですら息切れで途絶え途絶えだ。
(ダメだ……もう汗だく……)
これではせっかく風呂に入った意味がない。
(あの部屋、貴賓室だなんて絶対嘘だよ……)
諦めて下りてしまおうかと、そう思った時だった。
「手をかそうか?」
後ろから聞こえた声――――
無限かとも思える螺旋階段に響くその低音に、ビクリと身体が跳ねる。
(なんで……)
振り向くと、そこには階段の二段下にいるのにもかかわらず、まだ僕より上の目線で笑う、あの金髪の王様がいたのだ
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