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044 懇願
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強く目を瞑ってしまった僕には、その時何があったかわからなかった。
ハリルにしがみついて暫くしても落ちるような感覚は訪れない。
逆に上昇するような風を感じる。
恐々と目を開けると、先程の大きな妖獣に乗って空を飛んでいるようだった。
「バル、もっと上へ」
「……っ!!!」
僕の頭上で発せられた言葉に愕然とする。
怖くてそれ以上顔が上げられず、ハリルの背に腕をまわし、腹に頭を擦り付ける。
「……都合が良い時だけ、そうやってくるのだな」
呟かれたハリルの言葉に、なんの反論もできない。 「お、ろして……」
必死に言葉を紡ぐ。
高度がどんどん上がって行く。
(ダメだ……これ絶対ダメだ……)
恐怖で吐き気まで込み上げてくる。
以前のように気を失ってしまいたい。
でも、しようと思ってできるものではないのだ。
ククッと、ハリルが笑うのが聞こえた。
背に回した腕を掴まれ、しがみつく僕を無理やり剥がしてくる。
体験したことのない高さに、身体が萎縮した。
怖くて、声も出なかった。
「ここなら、何をされても抵抗できないな?」
僕を見下ろし、彼がニヤリと意地悪く笑う。
――――もう、雨を楽しむ余裕などなくなっていた。
怖さのあまり身体が震える。
「服を脱げ。一枚抜く毎に、高度を下げてやる」
命じられるように言われた言葉に、涙を流して首を振る。
「ハ……リル、ぼく、高い所、苦手でっ……」
昨日から必死に隠してきたのに。
泣きながら許しを請う。
「イズミ」
勿論、許しなど受け入れては貰えないのだろう。
ハリルが言い出したら聞かないことなど、昨夜の体験で痛いほどわかっていた。
「ぁ……」
今の僕には、選択肢は一つしかない。
ハリルが僕を支える手の力を抜くと、僕の膝は崩れる。
「うっ……わぁぁ……」
悲鳴すらまともにあげることもできず、再びハリルにしがみつく。
(怖い……)
恐怖に震えている僕には、彼が今どんな顔をしているのか、見る余裕すらなかった。
「どうする……?」
(やるしかない……やるしか……)
ハリルに縋り付きながら、意を決して自らの服に手をかけた。
手が震えてしまい、うまくボタンが外せない。
なるべくハリルの方を向いて、景色を見ないように必死に集中する。
(脱げば、助かる……)
呪文のように頭の中で繰り返す。
それでも、カチカチと歯がなるのがわかった。
寒くないはずなのに、背筋からミミズが走るような悪寒がする。
上着を脱ぎ、妖獣の背にその服を置くと、高度が急激に下がる。
「ひぃっ……っっ!!」
予告もなく訪れた衝撃に、ハリルに抱き着き必死に耐える。
「できなっ……もうできないっ……」
ハリルにすがっても、まだ彼は助けてくれない。
「うぅ……」
恥ずかしさなど感じる余裕もなく、ただただ必死だった。
しゃっくりをあげながら、今度はズボンに手をかける。
いっきに脱ごうとすると「一枚ずつ脱げ」と命じられた。
彼は僕を裸にすることではなく、この場所でゆっくり脱がせることに重点を置いているのだ。
(鬼畜だ……)
そう思っても、口にしない。
火に油は注がないほうがいい。
言われた通りに素直に従わないと……先程の急激な落下を必要以上に繰り返されるのが、何よりも怖かった。
バルジェットは僕が跨いで乗ることのできないほど大きな妖獣だ。
膝立ちになり、ハリルに片腕でしがみつきながら必死服を脱ぐ。
やめさせてくれ、無理だと何度懇願してもハリルは聞いてくれない。
脱ぐことに高度を下げられ、その度に何度も落下の恐怖に耐えた。
全て脱ぎ終わった時には、恥ずかしさより恐怖が勝り、カタカタと止まらない震えはより一層増していた。
「身体を見せろ」
言われた言葉にゾクリとする。
ハリルに身体を見せるには、ハリルにしがみつくのを止めなければいけないのだ。
「……っひっぐ、できな……」
これも同じ。僕の身体が見たいわけではないのだ。 僕を脅えさせるためにさせる行為なのだろう。
「バル、高度を上げろ」
「ひぃ!! まってぇ!」
泣きながら、彼に縋り付く。
「や……るからっ! 見せるからぁ!!」
意を決して、ゆっくりとハリルから身体を離す。
「ぅ……うう……」
不幸中の幸いなのは、ハリルが手を握っていてくれることだった。
ゆっくり、ゆっくりハリルから離れる。
「あぁ……なんで……」
泣きながら、ハリルを見る。
「……下げるって、言ったのに……」
少し見ただけでわかるほど、まだ相当な高さで飛行している。
「下げただろう? 下まで降りるとは言っていない」
目眩がする――――
恐怖で意識が飛びそうになると、グイっと腕を引っ張られ、胸の中に引き寄せられる。
「さぁ、ここからが本番だ、イズミ」
耳元で囁かれると、恐怖とはまた違う戦慄が、僕の身体を奔ったような気がした。
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