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051 傷跡
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「ジーナ、下がれ。この後はお前に一任する」
ハリルがそう告げるとジーナはお辞儀をして出て行ってしまった。
僕と、明らかに不機嫌なハリルをこの部屋に残して……。
急に部屋に訪れた静寂。
真正面から受ける射るようなハリルの視線に戸惑う。
「イズミ、今まで何をしていた?」
ハリルの目、ハリルの声……ハリルを見ると、どうしても昨日からされ続けた行為を思い出してしまう。
「別に……。ただ雨を見ていただけだから……」
ハリルに真っ直ぐ見つめられるのが耐えられなくて、思わず目を逸らしてしまう。
どうして彼は、何もなかったように僕に接することができるのだろうか。
(さっきだって……)
妖獣バルシェットでの飛行中、高さの恐怖でハリルの言葉に素直に従ったが……彼の前で全ての服を脱ぎ、卑猥な行為を強請ったのだ。
自分の貧相な身体と、その貪欲さを思うと、恥ずかしさで顔から火が出そうになる。
(わーもうどうしよう……)
走って逃げ出してしまいたいけれど、扉はハリルの背にあるし、追いかけられでもしたら逃げることは不可能だろう。
「……来い。イズミ」
距離を広げようと少しずつ離れていたのに、肩を捕まれ引き寄せられる。
(ぎゃ! 怖い!!)
また何かされるのではと、身体が萎縮する。
咄嗟に目をぎゅっと瞑り、触れられる感覚に怯えて耐える。
「……っ」
暫くしても、何も起きないし、それ以上ハリルは何も言わない。
何も起きないのも、また怖いものだ。
そっと目を開けて確認すると、ハリルは屈んで、僕の頭から足元までをまじまじと見ていた。
「あ……あの……」
(心配……してくれたのかな……?)
「怪我はないようだな……」
「……うん」
優しく頰を撫でられる。
ハリルの手は、大きくて……そして温かい。
目線を合わすように覗き込まれて、顔が熱くなる。
しどろもどろに視線が泳ぐ。
「ここは南塔の最上階だ。ここからは、決して外には出られない」
そうハリルは断言する。
「そ……んなこと言ったって……」
確かに先程まで、ここの二つの窓の間……奇妙な絵の所に扉があったはずなのだ。
あの扉は一体何処に行ってしまったのだろうか。
「ほ……本当に、雨を見ていただけだし……」
掴まれている手から逃げたくて身体を捩ると、今度は腕を抑えられた。
(ぎゃー!!)
「もうっ! 無事に戻って来たんだからっ! それでいいでしょっ……」
グッと、ハリルの腕に力が入ったのがわかった。
「雨を見ていただけで、何故頭に……背に泥がついている?」
「え……?」
あの泉の側で、横になって雨を見ていた。
上質な服を汚してしまったことを叱責されるのだろうか。
「ぁ……これは……」
「誰に押し倒された?」
紡がれる言葉は、僕の想像の斜め上を行く。
「え……? な、何を……」
ハリルが僕の上着の裾を手荒に剥がしだす。
「!? やっ……やだっ!」
直ぐに彼が服を脱がそうとしているのだと気がついた。
――――昨夜からの記憶が蘇る。
敵わないとわかっていながらも、必死に服を捲し上げる手を抑える。
「わわっ! やめてっ!」
それでも彼の手は止まらない。
「やめろだと? 今朝裸になったばかりではないか」
嘲笑うようなハリルを見て、彼が相当怒っているのだとわかった。
けれど、何故そんなに怒っているのだろうか。
「今、裸を見られてはまずいのか? 」
突き飛ばされるようにベッドに身体を投げられる。
「うわっ!! な……何を言って……」
のしかかってくる男が怖い。
昨夜と同じ状況でも、今の彼の動作に優しさはない。
頭の中に木霊する声。
――――「『お前は**ではない』」
混同する記憶。
黒い……鼻をつく、嫌な腐った匂い……。
「いやだっ!!」
服を乱暴に、無理矢理引き剥がされる。
「やっめて! ハリル!!」
大人と子供程の体格差。
力の差は、見た目以上にあるかもしれない。
「何もしていない! 本当に!」
必死に抵抗しても、彼の手は緩まない。
振り払う手も、彼を押す腕も、必死にばたつかせる脚も、まるで何事もないように彼は進めるのだ。
「やめて……」
恐怖で目が眩む。
何かを思い出しそうになるたびに、頭が酷く痛む。
それだけでも辛い状態だというのに、ハリルの行為は終わらない。
「……また、忘れているだけではないのか?」
(忘れて……いる?)
何を、忘れているのだろうか。
何か恐ろしいこと? 大切なこと?
自分でもわからない靄のようなものが、僕の中に存在している。
「嫌……!」
大きな手が、身体を撫で回す。
――――黒い記憶……。
「やだっ! やだぁっ!!」
――――鉄の檻……。
だめだ。
――――下卑た笑い声……。
思い出してはいけない。
――――取囲む男たち……。
首筋を這うハリルの唇。
――――首筋を這う男の唇……。
「やだ……ハリル……」
無意味な懇願。
聞き入れられない言葉。
――――そして《彼》は僕の首筋に、思い切り噛みついたのだ。
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