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067 特別
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目覚めると、まずは天蓋のベッド、そして天井が視界に入った。
ここ最近と同じような……つまり、いつもの朝だった。
いつものように、身体が重い。
いや身体ではなく、下半身が重いのだ。
――――薄っすらと、記憶は残っていた。
身体を弄る手と、下腹部を這う舌の感触。
後肛を広げるように抜き差しする指と、そして……口の中に注ぎ込まれた液体。
曖昧な記憶の中でも、施される行為に為す術もなく、何度も絶頂に達していたような気がする。
淫らな夢――――の割には下着も汚れていない。
あれほどリアルに高みへと強制的に誘われていたはずなのに、眠る前の姿と寸分も変わらぬまま、こうして朝を迎えている。
綺麗な身体でいることが、逆に夢ではない証なのだろうか。
ぼんやりとしか覚えていないとはいえ、あの声は間違いなく――――
「ハリル……」
ギュッと、自分の胸で手を握りしめる。
この感情が嫌悪なのか、憎悪なのか……自分でもよくわからない。
胸がザワザワする。締め付けられるように苦しい。
僕が記憶を取り戻して以降、ハリルは僕には触れてこない。
指一本だって触れていないのに……この部屋に監禁される前に行われた淫らな行為を考えても、彼が夜中にこの部屋に忍んでくるということを、僕は否定できなかった。
『初夜に向けて、慣らすだけだ』
そう最初に、ハリルは言っていたではないか。
自分が知らない間に、その行為は繰り返されていたのかもしれない。
自分の意思など関係なく、その時の準備をさせられているのかもしれない。
いっそ淫らな夢であればと思う。
でももし夢ならば、それが僕の願望だということになるのだろうか。
「最っ……低……」
夢でも現実でも、自分を消し去りたいほどの羞恥心が襲い来る。
逃げたい。逃げてしまいたい。
このままこの部屋にいるなど……寧ろこの城にいることなど、耐えられなかった。
(外に出たい……)
そんな僕の意思を否定るすように足枷の鎖がジャラリと鳴る。
「もうやだ……」
自由がない――――それが物凄く息苦しい。
僕はこのまま悪夢と淫夢に魘されながら、飼われるようにこの部屋に居続けるしかないのだろうか。
辛い気持ちを振り払うように、いつものように 窓際に椅子を移動し、その僅かな隙間から外を覗く。
――――今日も、は雨が降っていた。
――――――――――
一日は気怠いまま過ぎていく。
眠くて午前の講習が頭に入らない。
思い起こすのは昨夜のことばかり。
僕の何度めかの大きな溜息を聞いて、メロウが講義の手を止めた。
「イズミ様? 今日はこの辺にしておきますか?」
老齢の紳士は穏やかに提案する。
「ごめん……メロウ……」
そう謝りつつも、今日はもうこれ以上集中できそうにもなかった。
フラフラと椅子から立ち上がり、テーブルに乗った水に目を送る。
(この水は……飲んでも大丈夫だよね……)
水が原因で昨夜のことがあったとは限らないけれど、どうしても警戒してしまっていた。
硝子製の水差しからグラスに水を少しだけ注ぎ、それを一気に飲み干した。
「今日は、もういいかな……」
この部屋に閉じ込められるようになってから、一日がとても長く感じるようになった。
僕には時計のようなものは与えられなくて、この国の時間の感覚はは大体の食事とその間隔で感じ取っている。
それでも今日はまだ、ほんの少ししか勉強していない。
「勤勉なイズミ様にしては珍しいですね……体調が悪いようでしたら陛下にお伝えしなければなりませんが……」
ハリルに報告すると言われて、思わず顔を顰める。
そんなことはされたくない。
そんなことされるくらいなら、いっそ具合の悪いままでいた方がマシだった。
「大丈夫。寝不足なだけ。夕べはあんまり眠れなくて……」
「そうでございますか……」
心配そうに言うメロウに微笑みかけると、メロウは幾分か安堵の表情を浮かべた。
文字の講義をしてくれるメロウ――――メロウの時だけは、サディやギルトは護衛にはつかない。
本来執事をしているということで、信頼が厚いのかもしれない。
彼らがいないと、僕も気を使わなくてとても助かる。
「では本をお読み致しましょう」
彼が用意してくれた本、は僕が頼んでいた薬草の絵本だった。
「あとで、薬草学もお教えいたします」
そう言って笑う紳士に僕も笑顔で返す。
「ありがとうございます」
メロウか選んでくれた本は沢山の果実が載っていた。
その中には、僕が普段好んで食べる黄色い果実もある。
「セシルの……実?」
絵本故に簡潔にしか書いていないが、そこには「特別」……といわんばかりに、セシルの実について大きく書いてあった。
まだちゃんと文字が読めない僕の為に、メロウが代読してくれる。
《セシルの実の収穫は、他の果実とは違い、先端から産み落とされる特殊な方法――妖力が一定以上たまることによって産まれる実は、とても高価で栄養素が高い。また、花は気付け薬、根は解毒剤としての効果もある》
どうやらセシルの実は、果実の中で最も稀少価値が高く、栄養もある……ということなのだ。
それが毎食食卓に並んでいるかと思うと、申し訳ない気持ちになった。
「あの……次は、妖獣の本をお願いします」
本が読み終わると、またメロウに違う本を頼む。
「かしこまりました」
そう深々と頭を下げるメロウ。
「それと、暫く私の講習はございませんので……」
言われる言葉に首を傾げる。
それは一体どういうことなのだろうか……。
「本はまた明日、お届け致します」
そう言ってメロウは、もう一度頭を下げた。
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