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087 悪戯
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昼過ぎまで寝ていたというのに、結局身体の怠さはなくならない。
色々なことがありすぎて、全てを上手く受け入れることもできないまま時間だけが過ぎていく。
憂鬱な気持ちを拭えず、助けを求めるように窓を見上げると、いつものように、窓の外に影がよぎる。
「シト……」
(待ってるんだ……)
パタパタと動く影に、行ってあげなければと思うけれど……動くのが本当にしんどかった。
ハリルは僕が『嫌い』と告げた後、一言も発さずに部屋を立ち去った。
(やっぱり……怒った、のかな……)
頬を伝う、涙。
彼を思うと胸が苦しくなる。
いつか、自分が水神でないと彼に告げなければならない。
いくら足枷を付けられて監禁されているとはいえ、僕のこの待遇はとてもいいのだ。
上質な服と、最高級の部屋。
食事は高級な果物で、毎日部屋では催し物が開催されている。
この国の人々の生活を学ぶたび、望んではいないといえど、自分がどれほど豪華な生活をしているのかと恐ろしくなる。
ジャラリと、立ち上がり、一歩踏み出しただけで長い鎖の音が鳴る。
随分慣れてきたとは言え、鎖に対するストレスは相当だった。
昨夜はこの鎖は外されていたけれど――――あの状況で逃げ出すことは到底できなかった。
(逃げる……)
自分の思考を、改めて考える。
僕が偽者だとわかる前に、姿を眩ませることができればいいのだ。
僕なんていなかったことにすればいい。
そうすれば彼が落胆することもない。
彼を思うならば、僕はこれ以上この城にいるべきではないのだろう。
けれどもし逃げたとして……食べ物すら合わないこの灼熱の異国で、一体僕は何処へ行けばよいのだろうか……。
元の世界へ帰る方法もわからない。
だからと言って、ここに居場所などない。
今まで感じたことのないような、強い孤独感。
(僕は、この世界に来ちゃいけなかったんだ……)
居場所を求めるように、もう一度窓を見上げる。
僕がこの世界で唯一、心を許せる存在――――白銀の身体で黒い瞳の妖獣……。
「シト……」
「シト?」
「!?」
(また部屋に、人がいる……)
驚いて息を飲む。
(一体いつの間に……)
気づかずうちに部屋に人がいるのは、これで何度目だろうか……。
しかも、今回は状況が非常に悪い。
シトの名を呼んだ所を見られてしまったのだ。
(よりにもよって……どうしてこのタイミングで……)
慌てると、余計怪しまれるかもしれない。
落ち着けるように深く呼吸をし、できるだけ冷静を装って振り向く。
「え……?」
そこにいたのは、金髪で、金の瞳――――でも、ハリルではない……。
「あ……貴方は……?」
目の前にいる人物は、柔らかで無邪気な……まるで子供のような表情で、笑う。
「ああ……始めましてですね、水神様」
ハリルより、少し若いだろうか。
褐色の肌に、それにどこかハリルに似た端整な顔立ち……。
「ハーバイル国王陛下の従兄弟、ヴァースディンです。ヴァンとお呼びください」
目の前の青年は、そう爽やかに笑う。
(ハリルの、従兄弟……?)
以前ギルトに聞いたことがあった。
確か、ハリルの王位について聞いた時だ。
『後継ぎは、従兄弟がいるから問題ない』と、そう言っていた。
「ぁ……イズミ……です」
存在は聞いていたが、実際に会うのは初めてだった。
少し会釈をして挨拶をする。
「大丈夫ですか? フラフラしてますけど……」
「あ……」
そう言う彼の視線は僕を見たあと、壁にある窓に向いた。
板を打ち付けてあるとはいえ、その隙間から覗けばシトの姿は簡単に見つかってしまう。
「いえ……ぁ……あの、ちょっと体調が、よくなくて……」
彼の視線を窓から外させるために、少し大げさに言う。
緊張で、背中に汗が流れた。
「あ、そうなんですね……。横になりますか?」
「……はい……」
彼の意識が、窓から外れて僕に戻る。
(よかった……でも……)
まだ安心できるわけではない。
ヴァンと名乗った青年は、射るような視線を向けたまま、部屋に足を一歩踏み入れると――――開いたままだった扉が、ゆっくりと閉じた。
「早く、横になりなよ。ね?」
その瞬間、ヴァンの口調が変わったのに気づいた。
穏やかな口調は変わらないが、急に馴れ馴れしさが増したような気がする。
(なんだろう……)
ベッドに戻ろうとすると、ゆっくりとヴァンも近づいてきて、そしてヴァンの手が、僕の腰に回される。
「ぁ……っあのっ!」
それは、手を貸すような仕草ではない。
撫で回すように触られ、思わず身をよじる。
「細い……」
「え?」
(……ハリルと同じ目の色だ)
近くで見上げるヴァンは、やっぱりどこか幼く見える。
「水神様、話に聞いてはいたけど、めっちゃくちゃ小ちゃいね!」
不躾なまでに、彼は僕を見る。
無邪気そうな言葉とは裏腹に、それは舐めるように……いや、値踏みするといったほうがよいだろうか。
頭から足元まで、マジマジと見つめ、腰や肩の大きさを確かめるように触られる。
「あ……あの……」
僕を小さいと言う彼も、この国の人にしては小柄だった。
それでも180cm以上はありそうだが……リディや女官などの女性よりも小さい。
ギルトよりもずっと小柄なサディですら、2m以上あることから考えて……。
(もしかして、ヴァンって……子供?)
無邪気に僕の身体を眺める彼を見て、そんな疑問が頭を掠めた。
「あ……あの……」
「あ、ごめんごめん。具合悪いんだよね。いいよ寝てて」
僕から手を離し、仕草で僕を促す。
その動作は、あまりにも王族らしくない。
ヴァンはシーツを乱雑に捲り、ポンポンと布団を叩く。
(まるで……樹みたいだ……)
その言動は、向こうの世界にいる弟を彷彿とさせ、親しみを感じさせる。
僕は、ヴァンに対して好感を持った――――はずだったのに。
「で、水神様って、もうハリルとしたんだろ?」
「!?」
(な……何を……?!)
横になろうとしている僕の顔を覗き込んで、彼は立て続けに聞く。
「夕べもしたの? 何回ぐらいした?」
「なっ、なななっ……」
「七回?」
「っっ!! ちがっ」
無邪気に聞いてるのかと思いきや……その笑顔は、ハリルと同じような意地の悪いもので……。
(こ……この子っ……!)
デリカシーも配慮もない質問に、怒りと羞恥が込み上げてくる。
「ねぇ、何回したの?」
顔面が、火が出るように熱い。
動揺が隠せず、開いた口が塞がらない。
「やっ……やめてくださいっ!」
顔を背けようにして否定の言葉を告げたのに、グイッと腕を掴まれ無理矢理顔を向けさせられる。
「いいじゃん。教えてよ」
「やだっ! 離してっ!」
見た目もハリルに似てるが、それ以上にこの強引さ……。
(本当、嫌な所までそっくり……!)
ベッドに押さえつけられるように両手を掴まれる。
相変わらず、抵抗など何の意味もなさないまま、簡単に組み敷かれてしまった。
「ねぇ、もしハリルに何かあって……俺が王様になったら、俺ともセックスしてくれる?」
「なっ……!!」
(そんな……!)
ハリルが王様でなくなったらなど……そんなことは考えたこともなかった。
ただの一度だって、考えてもみなかった。
新しい玩具を見つけたような、そんな目をしてヴァンは続ける。
「ねぇ、ハリルとしてどうだった? ハリルの、ちゃんと入ったの?」
子供のように首を傾げ、彼は嫌な質問を繰り返す。
「痛かった? こんなに細くて小さいのに……全部入ったの?」
「や、やめっ……」
触れてきたその手つきは、あまりにもいやらしい。
脇腹から胸にかけて手が伸び、胸の突起を指で挟むように触られる。
「やぁっ……んっ」
「え? 何? コレ気持ちいいの?!」
「やだぁあああ!!」
ギュッと突起を強く摘まれて、身体が跳ねた。
夕べの名残なのか、妙に身体が敏感だった。
「やぁあっ!! やめっっ!!」
体格的に敵わないとわかってはいるが、手足をバタつかせ、思いっきりヴァンの胸をボカボカと殴る。
ハリルに触れられた時とは違う、明らかな嫌悪感が身体を駆け巡る。
「ハ……っ、ハリルっ……! 助けっ……」
思わず、彼の名前を呼んだ。
先刻嫌いだと告げたばかりだというのに……自分の都合の良さに自己嫌悪に陥る。
「ダメだよ? ハリルは今披露会の準備中。助けを呼んでも来ないよ?」
「ひっぐっ……ぅう……」
胸を触っているヴァンの手が下腹部に下がってくる。
昨夜の行為がまた繰り返されるのだろうか。
しかもハリル以外の人の手によって……。
「ひっくっ……やぁあっっ!!」
触れられたくない。
「やだぁぁぁあああ!!!」
ハリル以外の人に、これ以上触れられたくなどなかった。
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