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113 身震
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「僕は、水神じゃないの……」
息をするのが辛い。 手の震えが収まらないし、動悸もする。
ハリルから返ってくる反応が怖くて、視線を上げることができないかった。
(終わった。全て終わったんだ……)
これを告げたことで、この城での生活も、そしてハリルとの関係も、全部――――全て失うのだ。
ギュッと、手を握りしめる。
きっと、これで彼ともお別れだろう。
ハリルが僕を罰するというのなら、それも覚悟しなければならない。
(また、牢屋に入れられるのかな……)
でも今回は自業自得なのだ。それは自分でもよく分かっている。
涙が、滲んできた。いっそこのまま消えていなくなれれば……グラスに入れられたのが毒であれば、一体どれだけ楽なのだろうか。
――――それなのにハリルは、そのことには触れず、違う質問を僕に向けてくる。
「誰に手引きされた?」
「て……びき?」
「西塔から逃げる手伝いをしたやつだ。誰の手を借りた?」
「それは……」
何故、急にそんなことを聞かれたのだろうか。
ついシトのことを話してしまいそうになり、慌てて口を噤む。
このままだと『偽者の水神』の仲間だと思われて、シトも裁かれてしまうかもしれない。
「ノーブルでのこともだ。そなたを匿っていた母娘がいただろう?」
「……!」
それが、エダとケイトであることはすぐにわかった。
「関係ない! あの人たちは、僕を助けてくれただけ……」
「そうらしいな。それでも、あの母娘はどうしてか詳しく話してくれなくてな……」
「あ……」
「反王国派の根城でのことは、まるで記憶が抜け落ちたように覚えていないと繰り返しているのだ」
「それは……」
(約束……守ってくれてるんだ……)
あの母娘には、シトのことを秘密にしてくれと頼んだのだ。
二人が約束を守っているのに、僕がシトのことを話したら……彼女たちの嘘も露見してしまう。
(ダメだ……これ以上迷惑はかけられない……)
「いないっ……! 手伝ってくれた人なんて、誰も……」
声が震える。また嘘を重ねている。
(怖い……。どうしよう……)
もうハリルを見ていられなかった。
目を逸らして、羽織らされたマントごと、自分の身体を抱きしめる。
「あぅっ……ん……」
たったそれだけのことで甘い痺れが奔り、声が漏れた。
(な……なにこれ……)
嫌な予感がする。
(さっき飲まされた水って……もしかして……)
「イズミ」
身体が震える。でもこれは、恐怖だけが原因ではない。
「年はいくつだ」
「え……?」
(僕の、年齢……?)
もう充分、動揺している。
これ以上ないぐらい、動揺しているのに……。
「なんで、これが……」
目の前に差し出された一枚の紙――――それは一見すると不規則に並んだ文字だ。そして計算式。僕の本当の年齢。この国での、年齢……。
あの時、書庫で文字を教えてもらって、数字を書いて――――何故あの後、すぐにこれを処分しなかったのだろう。
部屋で捨てると怪しまれるから、あとで捨てようとしたのに……暫くしないうちに、水神の部屋に監禁されて――――
「これは……」
「事実か?」
(これが、ここにあるってことは……)
呼吸が苦しい。息が上手くできない。
「イズミ、これは、事実か……?」
指先が痺れる。
体が熱い。
鼓動が、鼓動が激しくて――――
「君は、子供じゃないんだな……?」
確認するように、そう問われる。
「……ハリル、ぼ……く……僕は……」
視界が、歪む。
涙が溢れてきた。
「イズミ」
「ごっ……めんなさい……」
声が、掠れる。
それでも、謝るしかない。
こんなことになるなんて思わなかった。
気づいたら取り返しがつかないところまで来てしまっていたのだ。
「ごめんなさい……」
でも、僕が繰り返した謝罪は、大きな音でかき消されてしまう。
「ひっ……」
ガタンとグラスが倒れ、残っていた水が溢れた。
ハリルが、テーブルを叩いたのだ。
重厚な陶器のテーブルには、大きな亀裂が入っている。
「っ…………」
声も出ないほど怖い。
ハリルに不機嫌な視線を向けられる事はあったが――――こんなことは初めてだった。
「そろそろ、体が辛いだろう」
ハリルが立ち上がり、僕に近づく。
「ぁ……っ」
火照った体、激しい動悸。
恐怖の中でも悍ましいほどに肉欲を求めている自分がいる。
「聞きたいことは沢山ある。素直に答えた方が早く楽になれる」
表情ひとつ変える事なく、彼は僕に触れる。
「っ……!!!」
ビクリと身体が跳ねた。
自分でもおかしな反応をすると思った。
ハリルが触れたのは、僕の肩――――
肩を触れられただけで、電流が走るような衝撃。
(何、コレ……)
「ハリル……」
目の前が真っ暗になるほど、渦巻く不安。
自分の身体が、まるで自分の物ではなくなっているような……そんな感覚だった。
「ぁあっ……!!」
乱暴に腕を引かれ、その衝撃に耐えているうちに、あっという間にベッドの上に突き飛ばされてしまう。
「や、やだっ!!」
羽織っただけの布では身を覆い隠すことはできず、投げ出された衝撃で身体が露わになる。
(これは、まずいかもしれない……)
「ぁぁあっ……」
羞恥で身を捩るだけでも、快楽が駆け巡る。
「な、なんで……」
恐怖で嗚咽を流しても、浅ましくも僕自身は完全に勃ち上がっている。
「どうしてっ……」
ハリルが僕を見下ろす。
彼がこの後何をしようとしているのか、嫌でもわかってしまう。
「やっ……やだっ……」
一昨日、彼に抱かれたばかりなのだ。
その時ですら、辛いと何度泣き叫んだことだろうか……。
恐らく今日、これから僕の身に起こるのはその比ではない。
(これは、これは本当にダメだ……)
聞かれることは、できるだけ素直に……正直に答えよう。
でも、シトのことは言えない。
あの子の存在は決して知られてはいけない。
(シトのことは、言わない)
狂ったように、自らに暗示をかける。
(シトのことは、絶対に……)
切ないような、狂おしい衝動――――口を開けば、思わず卑猥なことを口走りそうになる。
意地悪く、ハリルは笑う。
「子供じゃないなら、もう手加減はいらないな……?」
「っ……」
(いつまで、我慢できるだろうか……)
もうすでに、理性など保てなくなりそうだった。
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