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160 真意
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そのまま暫く抱き合ったあと、ふわりと身体が浮き上がり、ベッドへと運ばれた。
リディと女官はいつの間にか部屋からいなくなっていた。
ハリルの唇が、布越しに首筋を掠める。
「………っ」
不意を突かれて、喉の奥から息が漏れた。
「イズミは白が似合うな……」
僕の顔の布を取り除き、僕の唇をハリルの親指がなぞる。
「…………」
大きくて、暖かくて、凄く優しい彼の手。
胸がギュッと締め付けられる。
どうしていいかわからないほど、胸が苦しくなった。
(やっぱり好き……大好き……)
声に出せない思い。
「何処に行っていたの」と、そう聞きたかった。
彼は何故朝早くから出かけていたのだろうか。いつこの部屋から出て行ったのだろうか。
毎晩僕の記憶は途中で途絶えている。触れられただけで、最後までしていない。
ハリルの欲はどこで吐き出されているのか、僕のは知りようがなかった。
だからもしかしたら、朝早く出かけたのではなくて、夜遅くにこの部屋にを出て行き、別のところで夜を過ごしていたのではないのだろうか……そんな考えが頭の端によぎるのだ。
(いやだ……そんなの……)
思ってはいけない嫉妬心が芽生えている。
その思いをどう伝えていいかわからなくて、僕の唇を撫でるハリルの指を、唇で挟みながらチロリと舐めた。
精一杯、僕なりにハリルを誘ったつもりだった。
――――凄く、拙い行為だと思う。
どう誘っていいかわからない。断られた時を思うと怖くて仕方がない。
それでも、朝ハリルがいないと寂しかった。リディと話すハリルを見て辛かった。
僕にはそんな資格がないのに、それでもハリルの側にいられるという事実にすがってしまう。
だからほんの一瞬でも、ほんのわずかでも、ハリルの気持ちが僕の方に来てくれればと願った。
ハリルは、何も言わずに僕を見下ろしていた。一体彼は何を思い、何を考えているのだろう。
同情なのか、嫌悪なのか。ハリルは表情なくそのまま固まっている。
動作でも言葉でも、返事がなくて、段々と不安が募り、悲しくなってくる。
(やらなきゃよかった……こんなこと……)
「……何故泣くのだ?」
そう言われて、また泣いていたのだと気付いた。
唇をなぞる指が、今度は僕の涙を拭う。
『ごめんなさい……』
発せられない声。
それでも、ハリルに謝りたかった。
(何してるんだろう、僕……)
『ごめんなさい』
唇の形だけで、そうハリルに言う。
(そんな資格なんてない……。こんなことして、嫌われたらどうしよう……)
ハリルの側にいれるならそれだけでいいと、そう思っていたのに。
僕の声が出なくなったのは、きっと罰なのだろう。
こんな黒く汚い感情など、ハリルに知られたくなかった。
ハリルの側にいれるだけで、こんなにも幸せなのに。
多くを望みすぎてはいけないのだ。こうして少しでも長く、彼の側にいられるだけでいい。
幸せなのに、こんなに苦しい。
ハリルの首筋に頭を埋めるような形で、彼に抱きつく。
(嫌いにならないで……)
ハリルの香りを嗅ぎながら、大きく呼吸を繰り返す。
(僕は水神じゃないけれど、必要じゃないかもしれないけれど、側にいさせて欲しい……)
この幸せがずっと続くように、そう祈りながら幸せを噛み締める。
暫くそうやって抱き合っていると、ハリルの手が緩み、僕の脇腹に手が触れた。
(くすぐったい……)
反射的に身体を捩ってしまったがハリルの手が止まる様子はない。
徐々に下がっていく手は、布の上から下肢に触れる。
「……っ」
弾む吐息。高まる鼓動。押し倒されるようにしてベッドに身体が沈み込む。
昨夜と同じような、優しい手つき。
下着の中に入ってきた大きな手は、僕の中心に触れる。
こんな切ない思いは全て忘れてしまうほど、快楽に流されてしまいたかった。
それでも、ハリルの手は優しい。
昨夜の行為も、今の行為も、今までとは比べ物にならないほど優しい。
意地悪なことも言わないし、苦痛を感じるほどの快楽も与えられない。
そんなに優しくされたら、切なさでおかしくなってしまう。
「……っ、………っ!!」
それでも、ハリルの巧みな手は僕を絶頂へと高めてくる。
気持ちいいのに、もどかしい。
足りない。
ただ触られるだけでは満ち足りない。
耐えきれず、腰が淫らに動く。
そんな僕の姿を見ても、ハリルは優しく笑うだけなのだ。
「……っ!!………っっ!!」
恥ずかしさと、もどかしさで、気が狂いそうだった。
身体が痙攣し、いっきに弛緩する。
全身に鳥肌が立ち、僕は絶頂を迎えていた。
ハリルは優しく、僕の髪を撫でてくれる。
――――でも、それだけだった。ハリルは、それ以上触れてこなかった。
(なんで……)
汚れた下肢を、ハリルが清めてくれる。
それは、もうこの行為が終わったことを意味している。
(どうして、ハリルはしないの……?)
頭の中に掠める疑問。熱が冷えたことで、切なさはだけがより一層濃くなった。
多くを望んではいけないと決めたばかりなのに、そんな思いを裏切って頬を涙が伝う。
「イズミは、泣いてばかりだな……」
悲しそうにハリルが言う。
だから僕は、精一杯泣きながら微笑んでみせた。
それは、大丈夫だからと――――自分に言い聞かせるものであった。
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