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168 流動
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「どうした? 今日は随分甘えてくるな……」
僕を胸に抱きながら、ハリルは言う。
歩いてる間、彼はずっとこうして僕を抱き締め続けてくれている。
抱かれたことで移動する速度も速くなったせいか、窓の外の景色はあっという間に変わっていく。
彼女たちの姿も、今はもう見えなくなっている。
(気にないようにしよう……)
そう自分に言い聞かせるけれど、それは不可能だと僕は気づいていた。
そのまま腕に抱かれて城の中を進んでいく。初日もこうして抱かれていたけれど、流石に人通りが多くなってくると恥ずかしさを感じる。
周りの人たちは僕を見ないようにしているのだろうけれど、この状況では嫌でも彼らの視界に入り込んでしまう。
「もう下りたい」と腕を突っぱねて意思表示をしてみた。
けれどハリルはなかなか離してくれない。
意地悪をしているのかと思ったけれど、「せっかくイズミから抱きついてきたのだ。よいだろう?」と耳元で囁くように言われて、僕は頷くことしかできなかった。
顔は火が出そうなほど熱い。顔を覆う布があって本当に良かった。
人前でも、そうでなくとも、誰の目も気にせずハリルが優しく接してくれるのは嬉しい。
先ほど見た寵姫の姿に罪悪感は感じるけれど、それでも僕は幸せだった。
「永遠」ではない幸せ。もうすぐ失うことになるかもしれない幸せ。
それでもこの幸せな瞬間を、僕はずっと噛み締めていた。
――――――――――
到着した執務室――――
目的の場所に着いたとはいえ、ハリルはまだ僕のことを離そうとしない。
「体調は悪くないか? どこか痛む所はあるか?」
僕を膝に乗せたまま椅子に座り、僕の頰を撫でる。
フルフルと首を振ると、彼は困った顔をした。
僕が抱きついたことはそんなに珍しいことだったのだろうか。
「私に、何かして欲しいことはあるか……?」
(して欲しいこと……?)
僕はされるがまま、大人しくハリルに身を預ける。
ハリルの膝に乗るなんて貴重な体験だ。照れ臭いけれど、今は執務室に誰もいないからこのまま甘えてしまおうと思ったのだ。
「言葉が通じないというのも、不便なものだな……」
それなのに、ハリルは寂しそうにそう呟く。
(もう充分なのに……)
彼は、僕の肩まで伸びた髪を布の下から手に取り、それに口付けた。
「イズミが何に怯え、何を感じているか、私には悟ってやれない」
近くで見るハリルの目。
金色にキラキラ輝いていて、今の僕にしたてみたら太陽より眩しく思える。
「まだ少し時間がある」
執務室の机の上――――仕事で使う大切な机のはずのところに、ハリルは僕を座らせた。
顔を覆う布を奪われ、ハリルの手が裾の隙間に入り脚へと伸びでくる。
「嫌か……?」
触れるたびに聞かれる問いかけ。
嫌ではないと、首を振って答える。
(もっと触って欲しい……でも、こんなところじゃ……)
誰が入ってくるかもわからない部屋で、これから行われる行為に胸が痛む。
それでも、服をたくしあげられると期待で戦慄いてしまう。
『ハリル……』と、唇を動かすと、僕の脚に口付けるハリルと目があった。
「綺麗だな。イズミは、本当に……」
ハリルの手は止まらない。罪悪感に苛まれながらもされるがまま脚を開いていく。
「…………っ」
服の上から下部を舐められる。
ねっとりと舐められ、自然と腰が引けていく。
「大丈夫。少し気持ちよくするだけだから……」
そう言いって笑った顔は、以前のような意地悪い表情に近かった。
(ゾクゾクする……)
こんな場所でも構わないから、彼に支配されたかった。今すぐにでも彼と繋がりたかった。
――――そんな届かない思い抱きながら、ハリルが齎す優しい愛撫を受け続けていた。
ハリルは僕の首筋や頰に何度も口づけを落す。
そうしながらも、衣服の乱れを直されて、この行為が終わりへと向かっていることを察した。
「急に触れたくなってな。悪かった」
まだ熱を帯びたような声で謝罪をされる。目の前にあるその口に、つい今しがた精を発射したのかと思うと、とても居た堪れない。
されるがまま翻弄された僕の吐息もまだ荒く、汗がじんわりと滲んでいた。
(キスしたい……キスして欲しい……)
決して叶わない願いを隠すように、ギュッと唇を噛みしめる。
「また、イズミの声が聞きたい……」
祈るように耳元で告げられた言葉。
「そなたは前よりずっとしおらしくなってしまった。あまりにも儚くて、私は不安になる」
身体に電流が走るような、激しい衝撃。
「違う出会いが出来れば良かったと、後悔している。牢に投獄しろと命じてしまったのは私だ。今でもあの時のイズミを夢に見るのだ。本当にすまなかった」
ハリルに触れられている部分全てが、ジンっと……痺れるように熱くなる。
「それでも、そなたの身体を無理矢理開いたことは、後悔していない。ただ、許して欲しいとは思っている……身勝手だがな」
僕を見つめる瞳。恥ずかしいことを言われたのに、あまりにもその声は真剣で――――羞恥を感じるどころか僕の鼓動は高鳴っていた。
「そなたに自由を与えられない器量の狭さも、捉えておきながらも、ずっと微笑んでいて欲しいと願ってしまってうことも、私はそなたに謝らなければいけないことが沢山あるな」
ハリルはいつも意地悪で、いつも酷いことばかりする。
でもそれは、僕か彼を拒絶していたからだ。
そして彼を欺き、騙していた。
「こんなことになる前に、色々なことを話しておきたかった……」
こんなに喋るハリルは初めて見た。それなのに、僕は返事を返すことすらできない。
(話したい……僕も……)
そう思って彼の名前を呼ぼうと口を開いても、そこから漏れるのは空気を切る音だけ。
彼は僕が話すことを望んでいるのに、それにすら応えられない。
いくら無力とはいえ、こんなこともできないこと……それがとても辛かった。
「陛下、恐れながら、そろそろお時間でございます」
いつの間にか部屋に入ってきていたジーナが、そう深々と頭を下げる。
さっきまで優しそうな顔をしてたハリルの眉間に、一瞬不快そうな皺が出来た。
「ああ……」と、短くいつものように返事をしたハリルは、その瞬間いつもの無表情の王様に戻っていた。
動き出した時間。
さっきまでの、二人だけの空間は終わりを告げた。
何事もなかったように、僕は執務室の更に奥へと連れて行かれる。
「今日は早めに終わらせる。昼食も久々にサディとギルトと一緒に取ろう……」
僕を椅子に座らせながら、ハリルはそう告げた。
――――久々に部屋以外での食事。
本来なら僕は二つ返事で喜んで頷く筈なのに。
二人っきりではないと思ってしまって素直に喜べなかった。
「メロウもすぐ来るだろう」
ハリルの腕から解放されるのが寂しい。
無意識に、去っていくハリルの服の裾を掴んでいた。
「……イズミ」
「……!」
慌てて手を離し、ハリルから視線を逸らす。
(何やってるんだ僕……)
未練がましい己の手を、反対の手で押さえ込む。
ハリルは僕を責めることなく、布越しに頭を撫でてくれた。
ぎゅうっと、胸が締め付けられて痛い。
切なくて、涙が溢れそうになる。
「早めに終わらせるから……」
そう言って彼は、僕の側から離れていった。
客人への視線を遮るように布が引かれる。
すると同じ部屋にいる筈なのに、何処かハリルの存在は遠くなってしまったような気がした。
鼓動はまだ、ドキドキと高鳴ったまま。
窓の外で見た寵姫たちの姿と、今の優しい彼の姿が、僕の中で複雑に交差する。
切なくて、思わず叫びたくなる。
(話をしたい……)
全身の毛が逆立つように、僕は心からそれを願う。
(どうしたら声が出るの……?)
これは、精神的なもの……の筈だ。
だから、僕が頑張ればきっと声が出る。
ハリル――――
そう彼の名前を呼んだつもりだったが、やはり声にはならなかった。
グッと握りしめた手に、力が入る。
それでも僕の中で、確実に何かが変わっていると、そんな気がしたのだ。
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