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175 愛欲
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今起きていること、目の前にあるもの全てが、夢なのではないかと……そう思った。
ハリルに好きだと告げて、その思いが通じたことも、彼が僕を好きだと言ってくれたことも。
嬉しすぎて、幸せすぎて、この時間がいっそ止まってしまえばいいと、この時間が一生続けばいいのにと思ってしまった。
「イズミ……」
ベッドに優しく押し倒された僕の上に、ハリルが覆い被さってくる。
下から彼を見上げて、照れ臭くて、ドキドキして、どんな顔をして彼を見ていいのかわからなくなってしまった。
ハリルの手が、僕の身体を撫でる。
全身を、何かを確かめるように優しく触られて、触れられたところが痺れるように熱く感じた。
本当に近い距離にハリルの笑顔があって、最近の彼と変わらず優しく微笑んでいるけれど、その目はいつもとは比べ物にならないほど、興奮して揺らいでいるように見えた。
(す……るのかな……)
ハリルの息遣いや、僕の身体を弄る手の早急さに余計に鼓動が高まっていく。
ここ数日、ハリルと抱き合い触れ合うことはあっても、いつも最後までは至らないものばかりだった。
優しい手淫と口淫が主で、僕は奉仕される一方。毎回僕だけが極め、それで終わってしまう。
そのことに悲しさと切なさを感じていたけれど、それ以上の行為を求めることができなかった。
僕に対する優しい行為は、今迄の贖罪のようなものだと思っていた。でも例え贖罪でも、憐れみでも、そして気まぐれでも構わなかった。
僕との行為のあと、ハリルは自分の熱を抑えるために、寵姫の所に出向いているのかもしれない……と、そのことが辛かったけれど、それでもハリルの側にいられて、ハリルが触れてくれるだけでよかった。
それなのに、それなのに彼が、僕を好きだと言ってくれたのだ。
ハリルの唇が僕の首筋に落ちてくる。
「ハ……ル……」
嬉しくて、瞳にたくさん涙が溜まっていく。
最初はずっと無理矢理な行為ばかりだった。
嫌だと言うのに強引に身体を開かされ、同意を得ないまま一方的に触れられ続けていた。
途中から泣いて許しを請いだり、訳が分からなくなってしまうことも多かった。その行為はただただ恥ずかしくて、僕の気持ちを無視して触れられるのは辛かった。
僕が水神としてハリルと結婚する――――――――――そのことい対する不安は果てしなく多い。それでも、ハリルが望んでくれるならそれで良かった。お飾りであっても、ハリルの側にいられるならそれで良かった。僕が水神として存在することで、ハリルの役にたてるのならそれだけで良かった。
「…………っ」
それでも、足りない。
声が出るようになって、想いが通じあったばかりで、ろくにまだ会話もしていないのに、僕は今からハリルにとんでもないことを告げようとしている。
「イズミ……? ん?」
優しく顔を覗き込むハリルを見て、胸の鼓動がより一層激しくなる。まるで全身が心臓になってしまったようだった。
「ハリル、ぼ……く……」
自分が何を思い、何を口走ろうとしているのか、それを考えるだけで消えてしまいたいほど恥ずかしくなる。
「ぁ……」
喉が灼けるように痛い。それ以上に、恐ろしいほど顔が熱い。瞬きをすると、頰をボロボロと涙が零れ落ちていく。
「あ、の……」
「どうした……?」
ハリルは、凄く優しい。
今まで以上に、優しくて、その優しさに困惑する。
綺麗で、かっこよくて、強くて、しかも王様で……絶対に僕とは釣り合わない。
手の指先まで、ジンッと痺れる。身体の中心が、熱く熱を帯びている。
この状態が恥ずかしくて、居た堪れなくて、思わず手で顔を覆い隠す。
彼の顔を見て、これはとても言えなかった。
「……ハリルと……したい……」
自分の声が、どこか遠いところで聞こえた気がした。
「……っ……」
溢れる嗚咽。
(い……言っちゃった……)
言ってしまった――――ここ最近秘めていた思いを、彼に告げてしまった。
顔を覆い隠しながらも返事を待つが、なかなか答えは返ってこない。
居た堪れなさは絶頂へと達していて、このままでは耐えきれなくて……。そして、不安ばかりが大きくなってくる。
「ハリル……?」
指の隙間からチラリとハリルを仰ぎ見てみた。
僕の掠れた声は、彼の耳に届いただろうか……。
言葉の意味は、彼に理解して貰えただろうか……。
結婚を申し込まれた途端、言葉が話せるようになった途端、こんなことを言うなんて――――淫乱な奴だと思われ、軽蔑されてしまっただろうか……。
ハリルの目は無表情で、何を思っているか分からない。
真っ直ぐな目で見下ろされて、やはり軽蔑されたのかもと不安になった。
けれど、どうしてもこの想いを抑えきれなかった。
「僕……を、抱いて、ください……」
今度は、語尾が涙声になってしまったことを除けば、きちんと伝えられたはずだった。
僕を見下ろすハリルの目が、欲望に揺らいだ気がした。彼の喉が唾液を嚥下するように動く。
「イズミ……」
ゆっくりと彼の顔が近づいてくる。
その瞬間、自己嫌悪の念は動揺のあまり一瞬で消える。
僕の身体は嬉しさと期待で大きく震えていた。
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