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河崎の日常 4
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「梅村ってさ、繊細なんだよ。」
「は?」
眉を八の字にしている葉山。
「さっきざっと梅村の過去を話したけど、今から話すのは中学に入ってからしばらく経っての話な。」
「ああ。」
「あいつには、俺のせいで友達も恋人もできなかった。
だが、俺がアイツを守ることができたのは学校の中までだったんだ。
いつしか、通いつめていたパン屋のアルバイトから告白を受けていた。
最初は梅村自身も、小学生の頃の一件があったから自分に言い寄る人間は避けていた。まあ、俺がそうさせていたんだが。けれども、そのアルバイトはずっと梅村にアタックしていたらしい。とうとう梅村は折れて、付き合いだしたんだよ。」
空になった葉山のジュース。
ストローから音が鳴る。
「付き合いだしてからはすべてがうまくいってたみたいだ。梅村も幸せそうにしてたから、俺はその恋愛に口出しもしないようにしていた。
高校三年生の冬になるまでは。」
「高校三年生の冬に、そのアルバイトが突然消えたってことか?」
「おお、流石河崎。さっき教室でサラっと言ったことを覚えてたのか。」
ジュースの容器の蓋をとって氷を口に入れ始めたは葉山。ごりごりと氷が噛み潰される音がしばらく聞こえた。
「それで、またこの時期に現れたんだな。そいつが。」
氷を口に含んでいる葉山にそう問いかければ直ぐに返答が返ってきた。
「ああ。」
なんだよそりゃ。
それじゃ、全然刹那が苦しむ理由もないじゃないか。
浮気じゃない。
梅村も、そのアルバイトの奴にいいように振り回されすぎだ。
「それでさ。」
氷を食べ終えた葉山が、俺を見ていった。
「それで、河崎は俺からこのことを聞いてどうするつもり?」
俺は、言葉を失った。
何故なら、葉山の唇は綺麗に弧を描いていたからだ。
そして、続ける。
「まさか、セツに言うの?」
「悪いかよ。」
「ダメだよ。」
「何でだよ。」
「これは梅村から直接口で言ってもらわないと、アイツ等の為にならねーから。それと、ちょっとこじれた方が面白いだろ?」
「は?」
「早瀬謙三。」
怒りをあらわにしている俺に、葉山は俺の恋人の名前をさらりと言った。
「早瀬謙三と付き合ってること、俺知ってんだよね。」
ニヤリと黒い笑みを浮かべられる。
「意味、分かってるよね?」
要するに、これは俺に口止めをしているということなのだろうか。
「そんなんで俺が怯むかよ。」
「そうかな? 早瀬謙三のご両親にお前らが付き合っていることをばらすのはいともたやすいことだけど。」
ムカつくな。
「お前、いい奴そうな振りして最低だな。梅村の周りに誰も寄せなかった理由って奴を守るだけじゃないだろ? やっぱ俺だったらお前よりはマシな行動とれてたわ。」
俺は急いでドリンクを飲んで席を立った。
とりあえず、刹那にこのことを伝えられないのならば、俺は梅村に直接言うように促すしかない。
「安心しろ。俺はセツにことことを言わない。じゃな。」
俺が足早に店から出ようとすると、後ろから笑いながら「おう、また明日な。」という声が聞こえてきた。
全く、梅村の周りの奴ってろくな人間が集まらない。
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