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梅村の日常 3
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「お邪魔します。」
電話の内容は詳しく教えてもらえなかったのだけれども、要件は俺の家に来たいということだった。俺はそんな気分でもなかったけれども、河崎の方からこのように電話で頼み事をするというのが初めてだったので何か特別な理由があるのだろうと、許可した。
部活を終えて一度帰宅したのだろうか。
私服の河崎が俺の部屋に入り込む。不機嫌な顔で。
「どうぞ。ここでよかったら座って。飲み物持ってくるから。」
「いい。すぐ要件は終える。」
「え、う、うん。」
いつもよりも低い声。怒っているのか?
だとしたら、何に?
セツとのこと?
俺は河崎の向かいに座って身構える。
「お前、苦労してきたんだな。」
え?
すっと肩の力を抜いて、いつも通りにぼそりとそう言った河崎。俺はてっきり怒鳴られるものだと身構えてしまっていたので、拍子抜けしてしまう。
「ああ、ごめんな。葉山に聞いたんだよ、梅村の過去を。俺が無理矢理聞き出しただけだから、葉山を攻めるなよ?」
「うん、攻めたりは……しないよ。」
「そっか。でさ、梅村。」
真剣な顔つきをする河崎。
「何?」
目の前に見えたのは、土下座をする姿。
「え? ちょっと、河崎?!」
「お願いだ! セツを見捨てないでやってくれ!」
「え? 見捨てる?」
「そうだ。お前が今やろうとしていることは、セツを見捨てることなんだよ。だから、セツに全てを話して、仲直りしろ!」
土下座をしながら命令をする河崎。
「いや、違うよ「違わない!」」
床につけていた頭を勢いよくあげて俺を見つめてくる。
「お前は、勘違いをしている。」
「勘違い?」
「そうだ。」
「俺はなにも勘違いをしていないよ。俺は汚い人間なんだ。そもそも最初からセツとは釣り合わなかったんだよ。」
河崎が唇をかんで俺に言った。
「お前は馬鹿か。」
「うわっ! ちょっ河崎!」
突然、俺の胸ぐらを掴んで揺らす。
「お前は、馬鹿だ! そして、その思い込みで誰が傷つくと思っている? 周りの人間が傷つくんだよ! 俺は未だにセツが好きだ! だから、お前がアイツを粗末に扱おうとしているのを見て腹が立つ! いつまで被害者面してやがる? 結局お前は自分を悲劇のヒロインみたいに謳って、身を守って生きてるだけじゃねーか!」
声を荒げる河崎。
被害者、面?
そんな。
違うよ。
「違うよ。俺は、本当に汚いんだよ。セツとは本気だと思ってたけど、浮気になってしまっていたのだし。」
「だったらなんだよ?」
「え?」
「浮気を本気にしちまえばいいだろ?」
浮気を……本気に……?
フッと胸ぐらに掴まれた手が離れていく。前を見ると、河崎が立ち上がって玄関に向かっていた。ドアノブに手をかけたところで、河崎は言った。
「言っとくが、これはお節介でもなんでもねえ。借りを返しに来ただけだかんな。同じことを二度言うほど、俺は面倒みもよくねえ。あとは、自分で何とかしろ。ま、頼まれれば力にはなるけどな。……友達だから。」
キィーとなる扉。
河崎の後ろ姿はあっという間にいなくなる。
そして、開いた扉がバタンと音を立ててすぐ閉じる。
河崎……
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