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if 讒言~Not R18二次創作戦国BASARA片倉
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齢二十五にもならぬ俺だが、やつとの付き合いは二十年に近い。
俺を隻眼にはしたが、心を救ってくれた男。
初陣では、逸りすぎた俺を守り抜き、織田戦では引き際を諭され、いつも俺の背(せな)と、右側を守ってくれていた男。
名は片倉小十郎。
今はもういない…
最初は拐(かどわ)かされたのだとばかり思っていた。
里人を人質に取られ、仕方なく。
だが、竹中半兵衛は、わざわざ俺の前に現れてこう言ったのだ。
片倉君は承知してくれたよ。
豊臣の世をともに生きると。
年若い、愚かな領主のお守りはうんざりだとね。
信じなかった。
自ら去ったとしてでさえ、小十郎はそんな言い方をする男ではない。
だが、葦名、大内、南部のいちどきの蜂起。
豊臣秀吉自身による、俺への直接攻撃。
偽武田軍との戦闘。
長會我部兵合流後に起きた、松永久秀による連続爆破攻撃…
いかに竹中が策士だとしても、一人の力だけで、こうも次々俺を狙えるものだろうか。
俺たちが、やつを信じて走れば走るほど、伊達軍は傷つき、疲れ、弱っていく。
このままでは、俺は配下を、領民を、この手で守りきれなくなる…
内心の不安が募って募って、耐え難くなった頃だった…成実があの者を伴って現れたのは。
綾部一郎太。
摺上原の戦いで、全滅した綾部家の、最後の生き残りだと言う。
「政宗、こいつあの夜のことで、あんたに言っときたい話があるんだと」
「小十郎が連れ去られたあの夜か」
「それが…」
成実の耳打ちは、まさに青天の霹靂とも言うべき、信じ難い内容だった。
竹中半兵衛と小十郎は、戦う前にかなり長く、ふつうに話をしていたというのだ。
「仮面の男は言ってました。『もう三度も足を運んだのだから、そろそろ良い返事を聞かせてほしい』と。片倉様は、『自分が承知したら、何を得られるのか』とお問い返しになられて、あとはひそひそ話に…」
「この話がほんとなら、片倉は拐かされたんじゃなく、自分で行ったって話になっちまうよな」
俺は言葉もなく立ち尽くした。
想像したこともなかった。
小十郎が自分を裏切る可能性なんて。
でもいつまでも立ち尽くしているわけにはいかない…
「主だった連中を集めろ。対策を立てる」
成実の召集を受けて、良直たちが集まった頃には、俺の腹はもう決まっていた。
「おまえらは奥州へ戻れ。俺は成実と綾部を連れて、引き続き大坂城を目指す」
「筆頭、何で急に…」
「用心だ。敵深追いして所領や、てめえら失うようなことがあったら、それこそ小十郎に怒られちまう。秀吉だの竹中だのは俺一人で十分だ。任せろ」
この言い方が一番良直らの合点を得たようで、
「了解だ筆頭、奥州は必ず守っときます!」
「必ず片倉様を取り戻してくださいね!」
「all right、任せろ」
いつもの調子で振る舞うのが、実は精一杯だった。
夜明けとともに伊達軍は、撤退を開始した。
佐助とかすがの活躍で、小十郎が大坂城を後にしたのはこの夜半のことだったようだ。
小十郎は栗毛の見事な馬を選び、走りに走って俺のところに戻った。
いつもきちんと撫でつけられてるあの髪もざんばらで、そこここには血しぶきの、乾いたのが貼り付いてる。
当たるを幸い片っ端から切り捨てて来たのだろう。
本人も装束もボロボロだ。
…と見せかけてるに過ぎないのか?
俺の迷いを見透かすように、成実が綾部に問いかける。
「よく見な。あれ見ても、おまえは見違いじゃねえって思えるのかどうか。ほんとによく見な」
不必要なほどしつこく成実が聞いても、綾部の言葉は変わらなかった。
「何度見ても同じです。俺ほんとに見たし、聞いたんです」
「ならいい」
と、俺は言い、感情を交えぬ声で小十郎を制した。
「そこで止まれ」
「政宗様!」
再会の喜びに満ちた声。
だが俺の表情を見て取ったのだろう、駆け寄るのを止め、その場に控えた。
「何やら、ございましたな」
「おまえが、豊臣軍と内通している現場を見た者がいる」
「綾部でございますか」
「誰でもいい。で? 本当のところはどうなんだ」
小十郎は笑んだ。
限りなく優しく。
俺だってわかってる。
愚問だ。
けれど。
この問いが発せられた瞬間から、答えも結末も決まってしまっているのだ。
「小十郎! 俺は!」
著しい距離の向こうから、小十郎は手で制した。
俺の言葉を。
慈悲を。
「信じたいのだなどと、軽々しくおっしゃってはなりません」
「小十郎!」
「それとも政宗様は、この小十郎の言い分のみを信じ、他の語らんとすることを排除なさるのか? それはなりますまい」
小十郎は早々に、衣服の前をはだけている。
成実が間で慌てふためく。
「片倉よせ! 政宗も! 片倉逝かせてどうすんだ!」
「介錯は任せろ」
「政宗!」
成実は叫んだが、俺の決断は揺るがなかった。
疑いが生じた段階で、すべては決まってしまったのだ。
綾部という証拠がある以上、小十郎を無垢と決めつけるすべはない。
人柄。
実績。
それでもなお、人は変わる。
俺と小十郎だからこそ、一点の曇りなくつき合っていかねばならない、その大切な絆を、竹中は見事に断ち切ってくれたのだ。
「せっかく戻ってくれたのに、すまねえな」
「すべてはこの小十郎の失態」
「小十郎」
剣を振りかぶりながらも、俺は言わずにはいられなかった。
「よく戻った」
小十郎は微かに笑み、見事な十字腹を切った。
俺は介錯した。
小十郎を葬るのを成実と綾部に任せ、俺は一人先行した。
本隊に合流する。
成実にはそう言い置いたが、俺は全然別の場所を目指していた。
小田原城にほど近い小高い丘に、その男は一人立っていた。
「やあ来たね。片倉君は一緒じゃないのかい?」
「その名を口にするな。てめえなんかが軽々しく呼んでいい名じゃねえんだ」
「怒ってるね。てことは彼はもう、この世にいないのだな」
といきなり咳き込み、あたりに血しぶきを撒いた。
「貴様胸を…」
「だからだよ。秀吉のために新しい、有能な軍師が欲しかった。片倉君は最高の人材だったのに、伊達軍は本当に愚かだ」
竹中は初めて俺を直視した。
「片倉君は潔白だったのだよ。里で君の配下が見たのは、僕が用意した替え玉だ。片倉君はどの瞬間も、君だけに臣従していた。調略も籠絡も、彼を変えることはなかったのに、一番愛した主君の手にかかるとは、あまりにも哀れじゃないか」
射るような視線。
怒っている。
何故俺がてめえに怒られなきゃならない。
「黙れ! 黙って逝きやがれ!」
「僕は死なないよ。秀吉の天下をつくるんだ。君こそあちらに行きたまえ。片倉君が待ってる」
竹中があの剣を抜き、挑みかかってきた。
鞭のようにしなるそれと、その使い手は凄まじく有能で、卑怯な手段など用いなくとも十分に俺を追い詰めうる相手だったが、病魔はやつの剣も心をも鈍らせ、ついに見いだした一瞬の隙を、怒りと憎しみに盲いてある俺は容赦なく突いて、竹中を小十郎のもとへ送った。
砂塵舞う中を秀吉が進む。
お目当ての、小田原城は目と鼻の先だ。
だがやつは、歩みを止めざるを得ない。
俺がその行く手を阻むからだ。
俺は黙ってやつの前に、竹中の首を転がしてやる。
さしもの秀吉も、これには息を呑むだろう。
そして俺たちは対峙する。
生涯をともにと誓った相手を失った者どうしの、まるで無意味な戦い…
だが今の俺には多分、それこそが似つかわしい。
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